218 ピルム国の神①
リャヒがピルム領内にそびえる大木を見上げている。
「や、何しているんだい?」
ヤヒスが話しかけるとリャヒは振り向いて答える。
「以前マサカツは自分たちだけの神を作ると良いと言っていた、その時にこの大木を神としてあがめたらどうかと言われてな」
「何か不満があるのかい?」
「いや・・・むしろ言われたようにこの大木を神にしていいような気がしてきた、この痩せた大地にこの木ただ一つだけ大きくそびえる姿は想像外の力があるような気がしてな」
「そうか、じゃあまずマサカツに会いに行こう」
マサカツはミードリと共に書庫にこもっていた。
「マサカツ、相談があるんだけれど」
ヤヒスが話しかけるとマサカツは本から眼をはなして返事をした。
「・・・なるほどね、形だけなら僕の知識でも出来るけれど、いやこの場合原初と同じで形から入るのが正しいかもしれないな・・・」
マサカツは何やらぶつぶつとつぶやきながら、紙に絵図や文字を書き込んでいく。
「しめ縄、折った紙、大木に巻く、おみき・・・なんだこれは?絵図では木に縄を巻き付けているが」
「僕の生まれた国では大木にそう言った飾り付けをしているんだ、神道は詳しくないからこの程度のことしか書きだせなかった」
「この縄と紙はなんだい?」
ヤヒスが絵図を指さすとマサカツは答えた。
「それが良くわからなくてね、意味はあるんだろうけれど僕の国では大概の人間がこの縄と紙があれば神だと認識するよ、まぁ神ですって御しるしだね」
(よく考えたらマサカツは神なんだし・・・彼がやったことはデタラメでも本当になるんじゃないのか?)
ヤヒスは紙に書いた走り書きを説明するマサカツが奇妙に思えた。
翌日から大木に巻き付ける大きな縄を作る作業に取り掛かった、作業をするオークと人間はこの奇妙な行為を不思議がった。
「神様ってんならもっと綺麗な石や銅像がええんでないかの?」
「でもさ、神の姿なんて見たことねぇゼ」
そこにマサカツが現れて言った。
「この縄は何で出来ている?」
「そりゃあ麦わらだよ」
「麦はどうするものかな?」
「そりゃ食料じゃ」
マサカツは黄金の畑を指さして言った。
「麦は我々の食料、それが無ければ生きることもかなわん、麦が凶作だとどうなる?そうならないように祈るのだ、その貴重な生命の元を材料に作るのだ、飢えぬようにと願いを込めて!」
「おぉ・・・そのような意味が」
「考えてみりゃぁ腑に落ちる」
作業をしている衆はがやがやと騒ぎ出してより一層丁寧に縄を作り始めた。
「あなた、あの話は本当なの?」
「ははは、感づいたかぁ、あてずっぽうだよ」
「ふん、マサカツならやりそうだと思ったわ、か・み・さ・ま」
ヴィーシャは指を振って言った。




