110 サカシのおっちゃん
朝の早いうちからチヌックで北へ飛び、夕暮れ前にヤヒスの故郷であるビソル村に到着した。
まずはヤヒスの家に挨拶に入る。
「ヤヒス、久しぶりじゃないの、まったくいつも突然帰ってくるのだからもう」
母親は元気そうだ。
妹のシュルレはヤヒスに抱き着いている。
「ヴィーシャおねえちゃんにミードリおねえちゃん、パムおねえちゃんだね!シュルレ覚えているよ!」
それぞれにヤヒスの妹と会話を交わしている。
「あれ?見たことないお姉ちゃんがいる、お名前は何ですか?私はシュルレです」
妹はフィスに向かって頭をさげる。
「ふむ、なかなか出来た妹ではないか、ワシの名前はフィスだ、よろしく頼むぞ」
二人ともすぐに意気投合してヤヒスの話題で盛り上がっている。
「うっ・・・俺のやらかした時の話までしている・・・身内はこうだから嫌なんだ」
ヤヒスは頭をたれている。
「マスターよ、川でおぼれかけておっさんに助けられたらしいの、情けないのお」
フィスはシュルレと一緒に笑いながらヤヒスを指さしている。
(いやなところで意気投合してしまっている・・・こりゃここにいるまでイジられ続けるんじゃなかろうか・・・)
しばらくしてヤヒスは魔王軍幹部であった男のことを思い出していた、戦力の無くなった彼にはこの
ビソル村に行くように伝えてあったからだ。
(あのおっちゃん来ていると良いけどなぁ、まぁ別に王都で職についていてもいいし、ひもじい思いをしていないと良いけど・・・)
そのようなことを考えながら母親に聞いた。
「あのさ、母さん、北の方からなんかこう・・・やつれたようなおっちゃんがここを訪ねてこなかったかい」
「おっちゃん・・・ああ、サカシさんのことかねぇ、そう言えばヤヒスの紹介だってことも言っていたよ、会いに行くかい?」
妹と遊んでいる他のメンバーを残してヤヒスは母親に付いて外に出た。
しばらく歩くと、ボッコのおっちゃんと縄を編んでいる男の姿が目に入った。
「ボッコのおっちゃん!サカシのおっちゃん!」
ヤヒスが手を振ると二人とも立ち上がり手を振ってきた。
「おっちゃんサカシって言う名前だったんだね、うちの村に来てくれて嬉しいよ」
「いやぁ・・・ヤヒスには世話になったな、道を正してくれて感謝しているよ」
「そうか、ヤヒスの紹介でここに来たんだったな、サカシはな、手先が器用で細かい仕事は早く覚えちまうんだ、力はあまりないんだがな、とにかく村の一員として仲良くやっておるよ」
「よかったー、気にしてたんだよ」
「ありがとうなヤヒス」
二人は早くも意気投合したようだ。
「ねぇ、あのおっさんって元魔王軍の」
ヴィーシャが指さす。
「なんだ?マスターとずいぶん仲が良さげだが」
フィスが目を細めている。
「相変わらず誰とも打ち解けるような人ですね、ヤヒスさんは」
「冒険者をやっていなくても商売人でもうまくやっていけそうだね」
ミードリとパムは嬉しそうな顔をして遠巻きに見ている。
村は今日も平和だった。




