105 西の辺境
パーティーホームのバスルームから鼻歌が聞こえてきている。
フィスが入浴しているのだ。
彼女は風呂の心地よさを覚えて以来、長風呂で鼻歌を歌っていることが日常になった。
「フィスはどうにも中身がおっさん臭いのよね、喋り方なんてそこらの市場のおっさんと変わらないわ」
「長生きしているからそうなるのかもしれないね」
ヴィーシャとパムが会話している。
「ばはーー風呂はたまらんな」
フィスが風呂から上がってきたがその姿はパンツ一枚に肩からタオルをかけているだけのスタイルだ。
「あんたねぇ~・・・今はヤヒスがいないからいいけどちゃんと服を着て出てきなさいよ、見た目は女の子なんだから」
「このほうが気持ちよいからな、仕方なかろう」
ヴィーシャが苦い顔をしてフィスに注意をしている。
しばらくしてヤヒスが外から戻ってきて、大き目の地図をダイニングテーブルの上に広げた。
「辺境に出向くに向けて街やギルドで色々聞いて周ってきたんだ、今の所魔物が活発化していると言う報告は無いらしいが西の山脈に天然の要塞になりそうな場所があることが分かったんだ、普段は誰も近づいていない荒れ地なんだそうだけど」
「そこになんぞ魔物がおるということか?」
フィスは椅子の上で片足を立てながら言った。
「確信はないけれども、一つ一つ潰して行くしかないと思うんだ」
ヤヒスが困ったような顔をしている。
「まぁいいわ、どうせその近辺でもちょっとしたクエストくらいはあるでしょう、行ってみましょう」
「明日にでも、だろう?」
ヤヒスが口角を上げてヴィーシャに言った。
「即断即決にも慣れてきましたね」
ミードリはにこにこしながら地図を見ている。
翌日は、朝の早いうちからチヌックに乗って西を目指した。
「チヌックに乗っても三日はかかるなんて本当に辺境なのね」
ヴィーシャは退屈そうに腕を伸ばしている。
「ふん、グリフォンの背に乗るのも悪くはないな、しかしマスターよワシの背に乗るのも悪くないかもしれんぞ」
フィスはにかにか笑っている。
「ドラゴンのシルエットはさすがに目立ちすぎるからね、チヌックならまだ良いから、ねぇチヌック」
ヤヒスはチヌックに話し掛ける。
「はい、我が主、貢献できて何よりです」
「チヌは厚遇されておるな」
フィスはチヌックの背をつついて笑っている。
「何を言うか、お前は戦闘では無類の力を持つではないか」
「我らはそれぞれ使いどころがあるってコトだな」
フィスはがははと笑い、チヌックは大空を飛翔し、西へ向かっていた。




