96 フィスの手合わせ
フィスの服を購入して、町をうろついていると、修練場のそばを通りかかった。
「懐かしいわね」
ヴィーシャが柵越しに見ている。
「痛かったなぁ・・・」
木剣と言えど体のどこかに当たることもあるので、当たり前のように痛いのである。
フィスも修練場の様子をのぞき込んでいる。
「なんだなっとらんな、ワシが鍛えてやろうか」
修練場にたむろしている連中が一斉にこちらを向き、睨みつけてくる。
しかし少女の姿であるフィスが言ったのだと知ると、みな笑っていた。
「お嬢ちゃん、まだまだ世の中のことが分からないんだろう?めったなことを言うもんじゃないよ」
剣士の男はそう言ってにこにこしている。
「そうだな、では手合わせをしてみればわかるだろ」
フィスは手のひらと拳を打ち合わせて修練場の中まで入って行く。
中にいた男たちはあきれた顔をしている。
「おいおい、相手してやれよ」
「手加減しろよ」
「胸を貸してやれ」
とフィスに指名された男をはやし立てている。
「じゃあやってみようか」
男は苦笑いをするとフィスに近づいて行った。
フィスはすでに構えに入っている。
男が木剣を軽く振り下ろすと、フィスはそれをよけて木剣を持つ肘を下から手の甲で叩きつける。
男はその衝撃で木剣を取り落として呆然としている。
木剣を拾い上げ再び構えた彼は、今度は鋭い一撃を叩きつけてきたが、フィスは男が動く前から懐に滑り込み、軽く掌底を放つ。
よろけて尻もちをついた男を見て周囲にざわめきが起こった。
その後、何度も立ちあうが、素早い動きのフィスが全て先手を取っていた。
「お、おれが」
別の男が名乗り上げてフィスに挑むが股間に滑り込まれて背後に回られたり、剣を手の甲で弾き飛ばされたりしていた。
気が付くと群衆が出来ており、フィスに挑もうとする前衛職が列をなしていた。
剣士だけでなく、格闘家も軽くひねられている。
「もう、これでしまいだ、ワシも良い運動になったわ、ありがとのう」
フィスは肩を回して修練場から出て来た。
「ただでさえ目立っているのに・・・」
「もうちょっと、こう手加減とか・・・ドラゴンなんだから」
ヤヒスとヴィーシャは頭をたれて額を押さえている。
「おうおう!ワシもなかなかのもんだっただろ?」
「ああ、頼りになるよ」
ヤヒスは腰に手を当てて苦笑いしている。
「じゃあホームに帰るぞ」
フィスはそう言って先に立って歩き出した。