1 出稼ぎ
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田舎にあるのどかな村。
王都ソヴィリバーレから歩いて10日ほどかかるビソル村は農業をなりわいとしている。
麦畑は美しくバレーシ芋の産地でもある。
「ヤヒスお昼ご飯よ」母親が呼びかけてくる。
「この薪片付けたらすぐ行くよ」薪をまとめて家の軒下に積み重ねる。
「こんなもんか、ああ、昼ご飯に行かなくちゃ」
「マルコのおじいさんによると今年は凶作になるらしいわ」母が困り顔で言う。
「そんな、こんなに麦畑がきれいなのに」妹のシュルレが驚いたような声を出す。
パンをかじりながら去年のことを思い出す。
「豊作続きだが、もしも凶作になるとヤヒスには王都に出稼ぎに行ってもらうことになるかもしれん、お前も十分成長したしな」マルコじいさんの言葉だ。
昼食を終えて水路の修理をしているとヤヒスの名前を呼ぶ声が聞こえた。
「おーいヤヒス、鍬の結合を頼めんかね」ボッコのおっちゃんだ。
彼は村唯一のスキル持ちで、種類は「結合」だ。
「おっちゃん、任せて」
鍬と折れた先をピタリと合わせてスキルを使う「結合!」
「おぉ、いつもありがとうな、これでよほど折れないだろう、しかしこんなことなら鍬を作って折って結合で頑丈に折れないようにしてもらうのが楽なんじゃがなぁ」
「俺も何度も試したけど、わざと折ったり壊したりしたものはうまく、くっかないんだ」
「スキルってーのも中々自由にならないもんだな、だが村唯一のスキル持ち、ありがたいわ」
おっちゃんは鍬を肩にかけてのらくら歩いて行った。
ヤヒスは「結合」スキルを誇りに思っている。
村の役に立てるからだ。
それから二カ月が過ぎた。
マルコのじいさんの言う通り麦はほとんど全滅に近かった。
毎年は黄金色になる畑も、どす黒い色で覆われている。
凶作の原因はわかっている、この地方特有の魔素おろしで作物がやられてしまうのだ。
「やはり今年は凶作じゃったか」
マルコじいさんはしおれた麦の穂を摘み取って悲しい顔をしている。
「でもよ、あらかじめ麦もたくさん保存してあるから何とかしのげるぜ」ボッコのおっちゃんは笑っているが、内心不安だろう。
その日の昼下がりヤヒスはマルコじいさんに呼び出された。
「言いにくいことなんじゃが」じいさんは顔をたれながら俺に言った。
「わかってるよ、出稼ぎのことだろ」
「そうじゃ、お前の類まれなるそのスキルで、どうにか稼ぎを、すまんがよろしく頼む」
「もちろんだよ、もう明日にでも出立しようか」
「もっとゆとりを持っても良いんだぞ」
ヤヒスはさっそく荷造りを始めた。
村の共同物置には道具がたくさんある、大きなリュックに、水筒に鍋やナイフ、一番大事なのは王都への滞在証だ。
食料は川魚の燻製や乾パンとちょっと心細い。
日暮れ前には全部用意できたので、家に持ち帰り部屋の隅に立てかけて置いた。
それを見た母親が「本当にお前が出稼ぎに行く日が来るとはねぇ」と悲しそうな顔をしている。
「いつかその日がってのが来ただけさ!」胸を張って絵笑顔を作るが内心不安があった。
その日はよく眠れず、鶏が鳴く前に出発することにした
「あんたこんな早くに出なくても」母は心配そうだ。
「早ければ早い方が良いってね!いってきます!」
母と妹を背にヤヒスは歩み出した。