一生に一度の恋をした
何回か書き直しての投稿。
「アクネージュさま!! 踏んでください!!」
大きな声でうちわを振って叫ぶ男にアクネージュは頭を抑える。
悪の組織の幹部であるアクネージュからすればどうして応援するんだと呆れるしかない。
「スカイレッド。お前の兄だろう。早く回収しろ」
戦闘中であったが、あまりにも気が散るのでさっさと滑空戦隊スカイレッドに向かって告げる。
「あ、ああ………ほらっ、兄貴。戦闘に巻き込まれたら危険だから避難するぞ!!」
「邪魔するな誠二!! アクネージュさまには一週間ぶりなんだぞ!! 堪能させろ!!」
「変態発言やめろ!!」
無理やり引っ張っていくスカイレッドが不憫に感じるほどの光景。
「メンバーの身内が面倒をお掛けしました」
深々と頭を下げるのはスカイホワイト。
「まあ、よい。――また仕切り直しさせてもらうぞ」
それだけ告げるとさっさと基地に戻っていく。
「せっかくアクネージュさまに会えたのに~~~~!!」
最後に聞こえた悲鳴は聞かなかったことにする。
「ったく」
舌打ち。
苛立ち混じりで愛用の鞭を振るう。
「なんで、お前は私を苛つかせる」
いい加減にしろ。
「お前は元の世界で幸せになるんだ」
スカイレッドの兄。赤岩聡一。彼はかつて私の右腕だった。
それは人間の世界を知るために人間のふりをして調査をしている時にたまたま見つけた。
『落ちてるのか?』
雨の夜。飲酒運転でスピードを出し過ぎた車が赤信号の中に突っ込んで歩行者を轢いて、そのまま逃走したというのを人間の世界で学習して知るのだが、当時はそんな知識を得ていなかったので人間が落ちているとしか思えなかった。
落ちている人間なら拾ってもいいだろうと気まぐれのようなことに思いつき、汚い状態のそれを拾って帰った。
死に掛けていたので実験も兼ねていじり治療をした。
『ここは……?』
そいつが意識を取り戻したらどんな反応をするのか面白がって見物していたが、そいつは記憶をすべて失っていて、私の研究室を見ても地球じゃないことに気付いていなかった。
その事に関して拍子抜けしたが、私を恩人だと思って恩を返そうとする態度は面白くて、気に入った。
名前が無いと不便だから適当に【我武者羅】と名付けて、地球侵略のための右腕として利用した。
記憶は失っていたが、地球の常識はなんとなく知っていたので、彼らの生活に息づいた作戦を立てて実行をしていたが、そこで邪魔として沸いてきたのが、滑空戦隊スカイレンジャーという存在で、そいつらと何度も何度も戦闘をした。
そのたびに作戦失敗したが、他の幹部も似たようなものだったので悔しい想いとか屈辱は感じたが、それに関して他の幹部にねちねち言われてもお前もだろうと言い返せてきた。
我らの首魁の怒りは酷かったが。
「まさか、お前がレッドの兄だったなんてな」
ずっと支えてくれた。作戦失敗してもすぐに新しい作戦を考えて慰めてくれて、至らぬところをフォローしてくれた。
………情が生まれるのも仕方ないだろう。
ただ役に立つ存在ではなく、隣に立っていてほしい存在だと気付いた瞬間に知った事実。
『兄……き……』
我武者羅の素顔を見た時のレッドの動揺。動揺したレッドが本名を叫んだのを聞いて、レッドの経歴を調べた。
そこで知ったのは自分が信頼していた右腕の我武者羅はレッドの行方不明になった兄。レッドは兄を探すために戦隊にスカウトされたという事実だった。
『……手放さないといけないわね』
そんな想いもあり、何らかの作戦失敗のツケを払わせるという目的で手放したのだ。
『愛していたわ』
『アクネージュさま?』
耳元で囁き、そっと唇を奪い、同時に記憶を抜き去って……。
これからは敵同士。もう以前のように傍にいられないと覚悟をして――。
だけど、どうしてこうなった。
「アクネージュさまぁぁぁぁ!!」
手放した側近が、自分の名前を叫んで大きなうちわを持っているのはいったいどういうことだろう。
「スカイレッド……」
さっさと回収しろと力なく呟くと、
「ああ………そうする……」
もう何度目か分からない事態にレッドも疲れたように答えて兄の元に向かう。
(もう私に関わるな)
いっそ、攻撃をしたら現実を知ってくれるだろうか。
「いい加減にしろよ兄貴」
アクネージュに洗脳されて敵になっていた兄に説教する。これで何度目なのかアクネージュとの戦闘に毎回邪魔して、
「なんであんな敵に」
「――敵じゃない」
静かな声だった。
真っすぐで歪みもない強い意志を宿している声。
「あの方が好きなんだ。ずっと、一目会った時から」
「兄貴……」
「どうして告げなかったんだろうという記憶にないのに後悔ばかり浮かんで、苦しくて、せつなくて……一緒に居させてほしかったと心が叫んでいるんだ」
悲痛な叫び。
「だからもう悔やみたくないから求めるままに叫ぶんだ」
あの方に届くように。
「多分、これは一生に一度の恋だ」
兄は切なげに彼方に視線を向けていた。まるでそちらの方向に愛する人が居るかのように――。
戦隊のロミジュリを書きたかった。