-88- かすがいとなる者
太蝋さまの姿を模した指人形を作って、嬉々として遊んでいたなんてこと、本人に知られてしまった。白状してしまった。
恥ずかしい。穴があったら入ってしまいたい。その穴が地獄に通じていると知らされたとしても。
「……可愛すぎないか」
あまりの恥ずかしさに心臓が止まってしまいそう……。きっと、太蝋さまも呆れ返って……。
……?
今、何かを聞き逃した……?
「……え?」
「あー……いや……」
いけない。太蝋さまの言葉を聞き逃してしまったんだわ。
どうしよう。お怒りの言葉だったら。
怒ってない訳がないわ。自分の指人形を作られた挙句、猫のおもちゃにしていたなんて――
「ぅにゃあっ!」
「あっ、小夏……っ!」
動揺していたら小夏に指人形を持って行かれてしまった。
咄嗟に取り返そうと前のめりになるも、素早い小夏を捕らえられる筈もなく、小夏は指人形を咥えて縁側に出てしまった。そして、その場で指人形を好き勝手に扱って遊んでいる……。咥えて振り回したり、手で転がし回ったり、遠くに飛ばして追いかけて行ったり……。
あぁ……どうしよう……っ。太蝋さま型の指人形を、太蝋さまの目の前でおもちゃにされてしまっている。私が始めた遊びとは言え、太蝋さまの中にある小夏に対する印象が更に悪くなってしまうんじゃ……!
「まったく……ここぞとばかりに遊んでくれているな……」
「も、もうし――」
「八重は謝らなくて良い」
「……っ」
謝ることも許されないほど怒らせてしまったのだわ……。どうしよう、太蝋さまに顔向けできない……。
「……。とは言え、まぁ……製作者として罰の一つでも受けてもらおうか」
「っ。は、はいっ。な、何でも致しま――」
許しの機会を貰える。そう思って振り返ろうとした瞬間、襟元がぐいっと後ろへ引っ張られた。
一瞬、倒れてしまうかと覚悟したけれど、背中は太蝋さまに支えられていた。その太蝋さまに襟元を引っ張られたのだけど……。
「ひゃっ……!?」
首筋にピリッとした痛みが走った。――この痛みには覚えがある。
私は太蝋さまに何をされたのか悟り、頬に血が集まるのを感じた。
「……一先ず、これで良いと言うことにしておこう。続きの罰は夜に」
「~っ……か、かしこまりました……」
「うん。良い子だ」
そう言って、太蝋さまは私の首筋をすーっ……と指先で撫でる。腰から背中にかけて、ぞわぞわと肌が粟立つ。身体の内側に火が灯ったように熱い。
「ふにゃあ!」
「ッ。何だ、急に……! お前は、また……!」
私がぼうっとしていると縁側で遊んでいた筈の小夏が、太蝋さまに襲い掛かっていた……!
「こ、小夏……っ」
小夏の暴挙を止めようと振り返ると、太蝋さまがこちらに手の平を向けて言った。
「大丈夫だから。私達の攻防に口を出さなくて良い。これから先も、こう言うことは頻繁にありそうだ」
太蝋さまは冷静にそうおっしゃったけれど、その腕に小夏が全身で絡みついてる……。
本気で獲物を仕留める時の顔じゃないのかしら……。
「ふぶぶぶ!」
「この……ッ! 人の腕に噛み付くな! 蹴るな! 私の腕は、お前のおもちゃじゃない!」
「むぶっ! ふぶっ! ぶぶっ!」
「蹴るなと……! 人の話を聞け……! この……!」
あぁ……太蝋さまが着られている軍服が大変なことになってしまう……。
太蝋さまは、こんなことがこの先も続くと思うとおっしゃっていたけど……だ、大丈夫かしら……?
片や災物を討伐する者。片や封印された災物。
お互いの立場を思えば、仲良くできないのは仕方がないことなのかもしれないけど……。
……喧嘩するほど仲が良い……とは、なってくれないかしら?
そんなことを願いながら、私は太蝋さまと小夏の攻防を見守ることしかできなかった。
それが、まさか、私からの愛情を巡っての争いだとは知らずに――
第四章【熱願冷諦】 完




