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-87- 小夏

 

「――小夏」

「にゃるるぅんっ」


 私の呼び掛けにシロ――小夏がご機嫌に答えた。私の手に、小夏が気に入っているおもちゃが有ったから。

 指を振るたびに小夏は目をきらきらと輝かせて、飛び掛かる隙を窺っている。こちらも、いつ飛び掛かってくるか分からない緊張で集中してしまう。心臓が早鐘を打つ。


「んにゃっ!」

「きゃっ! あははっ」


 飛びつかれる度に驚いてしまうけど、小夏と遊ぶ時間はとても楽しい。だから、驚くと分かっていても、ついつい指を動かしてしまう。


「――楽しそうだな」

「きゃぁっ!」


 いつの間にか私の背後に立っていた太蝋さまの声に驚いた。心臓が更に早鐘を打って、少しだけ息が上がる。


「たっ、太蝋さま……っ」

「弁解しておくが、入る前に声は掛けたんだ。お前が小夏との遊びに夢中になっていたようだったから、勝手に入らせてもらったよ」

「あ……、そ、そうでしたか……」


 集中しすぎて、また周りの音が聞こえなくなっていたみたい……。恥ずかしい……。


「頼みたい事があって来たんだが――その前に聞きたいことができた」

「? な、何でしょうか……?」

「それは、何だ?」


 そう言って太蝋さまが指さされたのは、私の人差し指に嵌まっている――太蝋さま型の指人形だった。


 何度か小夏に(かじ)られて毛羽立っている指人形。指の先から生えている絹糸の束は、毛筋がバラバラになっていて、全体的に見窄らしい見た目になってしまっている。

 顔から血の気が引いていくのを感じた。


「あっ、えっと、これは、そのっ」

「ただの白い指人形……には見えないな? わざわざ、頭から毛が――蝋燭(ろうそく)の糸芯のような物が生えてる」

「あ、う……」

「八重?」

「~~……っ」


 太蝋さまの声は私を責め立てるような厳しい声色だった。自分の姿形に似た指人形が猫の好き勝手にされているのを見てしまったら、不愉快に思うのも無理はない。太蝋さまは小夏と仲が良くないようだし……。


 けれど、これを作った時は決して、小夏のおもちゃにしようと思っていた訳では無かった。だからこそ余計に、その時の心情を話すのが恥ずかしい。

 でも、このまま答えないでいたら、太蝋さまにあらぬ誤解をされたままになってしまう。

 私は意を決して、指人形を作った当初のことを話した。


「た、太蝋さまの手袋を作る時に、手順の確認の一環として、人差し指分だけ試し縫いしたんです……」

「うん」

「こ、これが、その時の物で……」

「そうか」

「それで、その……こう――」


 私は太蝋さまに見せるように指人形を着けた人差し指を、ぴこぴこと動かす。


「――していたら、何だか……太蝋さまのように見えてきて……」

「うん。……うん?」

「た、試しに絹糸を通してみたら、更に太蝋さまに似た指人形になって……」

「…………」

「それで、あの……もう一度、こう――動かしていたら、小夏が遊ぶように……」

「つまり……最初は八重が遊んでいた指人形ってことか?」

「は、はぃ……」


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