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-85- 蝋燭男の小さな嫉妬

 

 熱波災物(さいぶつ)が発生し、封印された日の夜。


 私は新たに火焚家に加わった白猫のシロを撫でられる時間を満喫していた。

 自由気ままに火焚家を出入りしていた時のシロは、私が手を出したら匂いを嗅ぐ程度で撫でさせてくれるような雰囲気ではなかった。

 けれど、今は手の匂いを嗅いだ後に、擦り寄ってくれるようになっている。撫でても良いと伝えてくれているみたいに。


「シロ」

「にゃあ?」

「貴女の名前だけれど……シロから変えても良いかしら?」

「にゃうん?」

「ほら、シロは仮の名前だったから……。うちで暮らすようになるなら、ちゃんとした名前が良いんじゃないかと思ったの。……シロのままが良い?」

「……にゃふん」


 興味ない、と言いたげにシロはそっぽを向いた。今まで通りでも、新しい名になっても構わないと言いたげにも見えた。


「考えてみても良いかしら?」

「……にゃお」

「良い? それじゃあ、思い付いたら言うわね?」

「……にゃふぅん」

「……ふふっ。何が良いかしら……」


 あくまでも災物(さいぶつ)である熱猫(ねつびょう)を封じるお役目を貰ったにすぎないけれど、私はシロが新たな家族の一員になったと思ってる。家族には、ちゃんとした名前をあげるべきだと思った。その方がきっと、シロも火焚家の一員である実感を持ってくれると――


「随分とご機嫌だな」

「きゃっ……!」


 シロの名前を考え始めた瞬間、背後から太蝋さまが現れて、伸し掛かるように私を抱き締めた。思わぬ強襲に驚いて声を上げると、耳元で太蝋さまが不機嫌そうに囁く。


「私相手に、そこまでご機嫌になったことは無いだろう」

「えっ……そ、そんな、ことは……」

「いいや、無い。シロ相手に話してる時は笑いっぱなしじゃないか」

「ええと……それは……だって……」


 太蝋さまの手によって討伐される運命だった子が、無事な姿で自分の手元に戻ってきたなんて嬉しいとしか思えなくて……はしゃいでしまった。

 それが、太蝋さまのお気に障ったのかしら……? やっぱり、その場で討伐すべきだったと思われている……?

 太蝋さまはシロの無事を喜んでいないのかもしれない。そう思うと悲しくなった。


「あー……そんな顔をさせたくて言ったんじゃない」

「……え?」


 困ったような声が耳元で響いたと思ったら、次の瞬間には耳に柔らかな感触とちゅ……と言う水音が聞こえた。太蝋さまに耳へ口付けされたらしい……っ。


「昼は仕方ないとしても、夜くらいは私の相手をしてくれないか。女房殿」


 切なげに囁かれた言葉の意味を理解する頃には、私は布団に押し倒されていた。

 そして、太蝋さまから情熱的な口付けを施される。


「ん……っ」


 太蝋さまは何度も何度も繰り返し、私の唇を塞いだ。

 塞ぐ時は強く押しつけるように……。

 離れる時は軽く吸い上げながら……。

 その緩急に私は胸を高鳴らせて、呼吸が浅くなり、息が乱れていく。


 息苦しくなるくらい何度も口付けをされているのに、されればされるほど、次をして欲しくなってしまう。

 太蝋さまと唇を重ね合わせると、まるで身体に火が点いたみたいに全身が熱くなる。


 強くなっていく太蝋さまの炎が私達の姿を照らしだす。部屋の行灯が必要なくなるくらい、互いの姿がよく見えるようになる。

 太蝋さまは私を見下ろして、指先で頬を撫でてきた。

 その感覚に身体中がさざなみが打つ。……決して嫌ではない感覚。


「……良い顔だ。もっとしてやりたくなるな」

「え……。あっ……――」


 太蝋さまの言葉の意味が分からないまま、また唇を塞がれた。

 立て続けに口付けをされている内に、身体の方にも触れられる感覚が……。

 太蝋さまは私の浴衣の帯に手を掛け、するすると解いていく。

 そして、浴衣の隙間から手を差し込まれた。


(えっ……!?)


 太蝋さまの熱い手が私の腹を撫でた。触れるか触れないかの絶妙な距離で。

 何処に手を置かれているかは、手の平の熱で分かった。その熱は徐々に上へと移動していっている。


――口付けを交わすようになってから、初めて訪れた変化。

 私にとって口付けし合う関係になったことが、ここ最近で一番の変化だった。

 それが塗り替えられようとしている。

 太蝋さまは私の唇を吸い上げながら離れると、次に首筋に顔を埋めた。


「ひゃっ……!?」


 強く首筋を吸われる感覚に驚いて身体が跳ねた。

 大袈裟な反応をしてしまったように感じて、途端に恥ずかしくなる。


 そう思っていると、吸われた首筋を今度は舐め上げられた。

 ぬるりと熱い生き物が首筋を蠢く感覚に身体中が波打つ。

 昼間に熱風で煽られた時よりも首筋が熱い。耳も頬も――身体中が熱くなっていく。


「たっ、太蝋さま……っ」


 私の呼び掛けに太蝋さまは答えず、首筋や肩に舌を這わせながら身体に触れる手を動かし始めている。


――……どうして?

 昨日の触れ合いでも、口付け以上のことは無かったのに。

 こんな……まるで、夫婦のような触れ合い――


(あ……。だから……?)


 太蝋さまは夫婦らしい触れ合いを求めている……と言うこと?

 だから、こんなに浴衣が乱れる触れ合いを……?


 いずれは、そんな日が来ると知っていたはず。けど、今とは思わなかった。そんな素振りは感じられなかった。

 口付けし合うようになる前みたいに、太蝋さまが何を求められているか分かる空気感は、まるで無かった。


 私は急に思えた出来事を前に、困惑してしまった。

 太蝋さまにされていることに、ただただ、どうして今なの? と疑問が湧き上がってくる。


 その答えを太蝋さまがくれる素振りもなくて、私は恥ずかしさと混乱から涙を浮かべてしまった。

 それが、太蝋さまに悲劇を(もたら)すなんて思わずに。


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