-84- 八重の霊力
「……あぁ、そうだわ。火縄のお二人から、八重ちゃんの霊力が高いことは伏せてほしいって言われてたわね」
「え?」
「知らなかったでしょう? 自分が千重ちゃん並みの霊力を持ってるなんて」
「え、ええと……」
「火縄のお二人は、八重ちゃんの霊力が高いことが周りに知れたら、八重ちゃんが危険かもしれないから……って言って、八重ちゃん本人にも知らせていなかったのよ。敵を騙すには味方からってね」
隠されていた? 危険? 騙す? ……一体、どう言うこと……?
何もかも分からない。一体、私は何者なの……?
「けれど、もう火焚の嫁になったから大丈夫でしょう。これからは存分に力を発揮すると良いわ!」
……。
…………。
……力を発揮……?
何の力を……?
「母上。八重が混乱しています」
「あら、まあ。可愛らしいこと」
「母上」
何やら太蝋さまが仲裁に入ってくださったようだけれど、それを気にするほどの余力も無い。とにかく頭が混乱してる。
「ともかくね。八重ちゃんの守護の力のお蔭で、シロちゃんの熱猫としての力を封じることが出来たの。これだけ強力な封印なら早々綻びることは無いわ」
「は、はぁ……」
最早、気の抜けた返事しか返せない。
すると、急にお義母様が纏う空気が変わった。
「とは言え、シロちゃんが熱猫であることに変わりはないわ。いずれは消滅させなくてはならない」
「あ……」
お義母様の言葉で現実に引き戻された。
そうだわ。シロは災物。人類に災害を齎す者。消してしまわなければならない。
そうしなければ、今日のような悲劇が再び起こってしまう。
……近い内に、シロとの別れが訪れるんだわ。
でも――
「看取れるのなら……それが、良いです」
せめて、看取りたい。消えゆくシロを見送りたい。
今日のように姿形が朧げになって分からなくなるのを、ただ見ているだけなのは嫌。できることなら消えゆく瞬間まで傍にいたい。
「……にゃるぅん」
シロはご機嫌そうに鳴いて、私の傍に横たわった。そのまま毛繕いを始める。こんな姿を見れるのも、あと何回になるのか……。
私はシロの頭に手を伸ばした。指先で少し撫でると、シロは許容してくれた。これも初めてのことだった。
「まぁ、それは今すぐでなくても大丈夫よ」
「……え?」
お義母様は私とシロを交互に見た後、片目をパチッと閉じて言った。実に奇麗に閉じられていた。
「霊力を一定数保ち続ければ、その子はずっと存在してるわ。霊力の持ちすぎは良くないけれど、存在を維持し続ける為に霊力を与える分には害はないもの。ちょっと変わった飼い猫として、家で飼えば良いわ」
……飼っても良い? シロを? 災物なのに……?
私は信じ難い思いで、災物討伐の任に就かれている太蝋さまを見上げた。
「い、良いのですか……?」
太蝋さまはシロを殺さなければならないと言っていた。それが正しいことだと私も頭では理解していた。
なのに、力を封印されているとは言え、災物を家で飼うなんて許されることなのだろうか……?
太蝋さまは咳払いしたあと、気まずそうにしながら答えた。
「ごほん……。本来なら良くは無い」
「太蝋?」
「……。だが、今回の熱猫が強力な存在であったことは周知の事実だ。それを一時的に封印し、徐々に霊核を削っていくことでしか討伐が可能でないとなれば……まぁ、多少の時間が掛かったとしても怪しまれることは無いだろう」
災物討伐の専門家である太蝋さまが、熱猫であるシロの存在を一時的に見逃す……と言うこと?
……つまり、許される限り、シロを傍に置いていて良いと言うこと?
「熱猫の力を封印する役目は八重ちゃんに任せるわ。あとで、封印が緩まないようにするための手順を教えるから覚えてね」
夢心地で居たところへ、お義母様がそんなことをおっしゃった。
……つまり、シロのお世話は全部、私がして良いと言うこと?
シロを可愛がっていて良いと言うこと……?
じわじわと嬉しさが込み上げてくる。
傍に居てほしいと思っていた子を、傍に置いておける。それを許してもらえた。
「は、はいっ。精一杯、努めます……っ! ありがとうございます……っ!」
私はお義母様に向かって、三つ指をついてお礼を言った。
また嬉し涙が込み上げてきて、それを見られない為でもあった。
災物であるシロが存在していることを喜ぶなんて、きっと許されない。
これはただ、熱猫を確実に討伐する為の作戦の一環。私は、そのお手伝いを少しするだけ。
きっと、その間は火焚の屋敷に居ても許される。
私は贖罪の機会を与えて貰えたのだ。
熱猫であるシロを封印し続けると言う、お役目を貰うことで――
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