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-83- 蝶の封印

 朱町(あけまち)を襲った熱波が夕方に鎮まった。


 それまで身が焦げてしまいそうなほどの暑さだったのに、夕日が落ちると共に暑さは鎮まって、火焚の屋敷でも夜には動けるようになった人達が働き始めていた。


――シロは、討伐されたのだろう。


 シロが遊んでいた太蝋さま型の指人形を見ながら、私は涙を流した。誰にも見られていない自室なら、幾らでも涙を流せる。そう思いながら。

 私が育てた災いを太蝋さま率いる炎護隊の人達が鎮めてくださったのだろう。大変だったに違いない。立っているだけでも辛いほどに暑い環境だったから。


 私は、今、自身に降される罰を待っている。

 災物(さいぶつ)が何たるかを知らずに、熱波の災物を育ててしまった。沢山の人を苦しめてしまった。間接的とは言え、とても許されることでは無い。

 当然、ここを追い出されるべきだ。

 そう考えてはいるものの勝手に出ていくことは許されないと思い、せめて人の目につかない様に与えられた部屋に閉じ籠っている。


 快復してきたヨネが部屋の外から声を掛けてくれたけれど、合わせる顔がなくて「疲れているから」と嘘を言って、追いやってしまった。それすらも申し訳ない。せっかく、良くしてくれていたのに……。親切なヨネを苦しめてしまった事実が胸に刺さる。


……太蝋さまとも、お別れしなければならない。

 不出来な私に平等に接してくれた素敵な人。

 シロが熱猫(ねつびょう)であったことも包み隠さず教えてくれた。

 シロを好きに想っていた私に真実を言うのは心が痛んだだろうに……。


「八重。居るか?」


 部屋の障子の向こうから、太蝋さまの声が聞こえてきた。

 ゆっくりと視線を向けると、ぼやけた視線の向こうに淡い光を放つ炎の影が見えた。


「……はい」


 私は急いで涙を拭いて、太蝋さまを迎えるべく立ち上がった。

 そして、障子の方へ歩いていく。私が開ける前に障子は開かれた。


「にゃあ」

「……え?」


 白い猫が、太蝋さまに首根っこを掴まれた体勢で私を見ていた。

 その猫は赤い目をしていて――


「討伐は延期になった。あまりに強力に育ちすぎた為、力を封じて徐々に霊核を削っていく形に――」

「こらっ」


 喋っていた太蝋さまの後頭部を叩く手が見えた。ぎょっと目を見開いて手の主を見てみると、そこにはお義母(かあ)様が立っていらっしゃった。


「そう言う事情説明は、あとにしなさいな。先ずは、ちゃんと再会させてあげなさい」

「……再会?」


 お義母様の言葉の意味が理解できず、目を白黒させていると太蝋さまが「あー……」と言ったあと、咳払いして言った。


「ごほん……。これは、シロだ。お前が飼いたがってた白猫だよ」

「……シロ?」

「にゃうん」


 私の問い掛けにシロは憮然とした態度のまま答えた。

 その態度は私がよく知るシロの姿だった。

 自由気ままで、人を振り回すような――


「……シロっ!」


 違うところがあるとすれば、私が編んだ首輪を着けていた。

 シロに似合うと思って、わざわざ真紅に染色した絹糸が良く映えている。

 私は太蝋さまの手からシロを受け取って、腕に抱いた。

 思えば、こうして腕に抱くのは初めてだ。

 シロは何も言わずに抱き締めさせてくれた。なんて気遣いができる子なんだろう。


 シロが生きている。

 その事実を前にして私はまた涙を溢した。嬉しい涙を。


「……良かったな」

「はい……っ!」


 太蝋さまの言葉に、私は反射的に答えていた。熱猫であるシロが存在している理由を考慮せずに。


 ハッと思い付いた時、私はシロを抱き抱えながら顔を青く染めた。少し前まで、シロを強力な災物に育ててしまった自戒を唱えていたのに……。


「八重ちゃん。これから色々と説明してあげるわ。部屋に入って良いかしら?」


 太蝋さまの隣に立っていた、お義母様が柔和な笑顔を浮かべて訊ねてきた。

 それに対して私は慌てて「は、はい!」と答えて、お二人が部屋に入れる様に横へ移動した。


 シロを畳に下ろして、慌ててお二人に座布団を用意すると、お義母様が嬉しそうな顔をして「ありがとう~」と言って下さった。

 太蝋さまの隣に座る形で落ち着くと、正面に座ったお義母様は話し始める。


「先ず最初に。シロちゃん――熱猫は火蝶の守護の力で封印しました」

「封印、ですか……?」


 シロは確かに、ここにいるのに封印? どう言うことだろう?


「封じているのは災物としての力ね。今、シロちゃんは熱猫としての活動ができない状態になっているの。八重ちゃんが作った首輪の封印によってね」

「……え? わ、私が作った……?」

「えぇ、そうよ。昼間、会った時に八重ちゃんから首輪を貰ったでしょう? それを媒体にして私がシロちゃんの力を封じたのよ」

「…………」


 理解が追い付かない。

 シロが熱猫と知った後、私は風間さんの護衛を受けながら火焚の屋敷への帰路を辿っていた。その途中で巫女姿のお義母様にお会いしたのだけど……。


 その時に色々と事情を聞かれて、話す内にお義母様は理由は言わずに『首輪をくれる?』とおっしゃられた。私は討伐される運命にあるシロへの想いを断ち切るのに必要かもしれないと思って、お義母様に首輪を渡した。


 けれど、まさか、その首輪がシロの封印と関係があるなんて言われても、理解が追い付かない。

 火蝶の当主であるお義母様なら、結界を張ったり、封印を施したりと言った神掛かったことはできると知っているけれど……。

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