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-67- ご馳走

 

「あれですか? (くだん)の猫って」

「えぇ。とても奇麗な白猫よね」

「あぁ、まぁ……奇麗ですけど……」


 ヨネさんと話しながら、私は白猫の元ににぼしを持っていく。ヨネさんはその様子を後ろから覗き込んでいた。わざわざ台所に行って、料理番の人に聞いて、にぼしを貰って来てくれたくらいだから、ヨネさんも猫が好きなのだと思っていたけれど……。


「ヨネさんは、猫、苦手?」

「普通に触れますよ。でも……」

「でも?」

「なんか……その猫は、ちょっと……よく分かんないけど、苦手です」

「え?」


 猫は苦手じゃないけど、この白猫は苦手? この子は普通の猫と少し違うのかしら? ヨネさん自身も、この子を苦手に思う理由が分からないみたいだけれど……。


 一先ず、私はにぼしが乗った布を白猫の顔前に差し出してみた。


「にぼしは如何かしら?」


 私の問いかけに白猫は鼻先だけ、ひくひくと動かしてにぼしの匂いを嗅いだ。猫なら魚は大好物だろうと思っていたけれど……どうやら、違ったみたい。

 白猫は匂いを嗅ぐと、ふいっと顔を逸らして溜息を吐いた。にぼしはお気に召さなかったらしい。せっかくヨネさんが持って来てくれたのに困ったわ……。


 そう思っていると、後ろで見ていたヨネさんが言った。


「やっぱり出汁に使われた後だから、匂いが無くなってるんじゃないですか? 動物って鼻が効くし、匂いのしないものは美味しそうに見えないんじゃ?」

「匂い……」


 ヨネさんの話を聞いて、私はくたっとなっているにぼしを見下ろして考えた。水分を含んで匂いが飛んでしまったなら、また乾かせば美味しそうな匂いを出してくれるかしら?

 私はにぼしを手の平の上に置いて、火蝶の力でにぼしを乾燥させ始めた。


「なっ、何してるんですか、奥様!?」


 驚いたヨネさんの声を聞いて、私はにぼしを乾かしながら答える。


「えっと……霊力を使って、にぼしを乾かしてみてるの」

「はぁ? 霊力を使ってって……どうやって?」

「え? えっと……霊核から霊力を取り出して、手の平に集中させたら、それを熱に変えて――」


 そうして説明している内に手の平のにぼしは、すっかり乾燥していた。さっきまで興味なさそうにしていた白猫が、起き上がってこっちをじっと見つめている。赤い目はやる気に満ち溢れていて、早くにぼしを食べさせろと言っているみたいだった。


「ええと……食べる?」

「にゃるぅんっ」


 白猫はご機嫌な声で返事をして、私の手からにぼしを受け取って食べ始めた。乾燥させたばかりのにぼしを、ばりばりと噛み砕いて食べる白猫は幸せそうだった。そんな白猫を見てヨネさんがまた言う。


「やっぱり匂いが理由だったんですね」

「そうみたい。美味しそうに食べてくれて良かった……。ヨネさんの助言のお蔭ね」

「それよりもにぼしを乾かせちゃう方が凄いと思うんですけど。それ、火蝶の力か何かですか?」

「えぇ。火蝶一族は、多かれ少なかれ火の霊力を使えるから……」


 半端者である私でも、火を操ったり、物体に霊力を込める程度のことはできる。にぼしを乾燥させたのは、手の平に霊力を集めて、霊力を熱に変えることで可能にした。物理的な火を出すことはできないけれど、ある程度の熱なら霊力で操れる。


……尤も、優秀な火蝶である姉様は、こんなものでは無かった。


 火蝶特有の力である結界を張ることは勿論、鱗粉の力を以ってして怪我を治す治癒能力も持っていた。更に物理的な火を出すことも可能で、火蝶の歴史を何世代も遡らないと、同じだけの力を持つ人はいないと言われるくらい、類稀なる才能の持ち主だった。


 片翅(かたはね)の半端者である私が妹であったことが申し訳ないくらい、姉様は優秀な火蝶だったのに……。


「にゃあん」


 白猫の声でハッと我に帰った時には、手の平にあったにぼしは奇麗に無くなっていた。白猫が残さず食べてくれたみたい。


「美味しかった?」

「にゃるるんっ」

「ふふ、そう……良かった」


 ご機嫌に返事をする白猫の姿が愛らしくて、ついつい頬が緩んでしまう。ともあれ、約束を守れて良かった……。


「あんたが食べたにぼしを持って来てあげたのは、あたしなんだからね。あたしにも感謝しなさいよ、シロ助!」


 私の後ろから顔を覗かせてヨネさんが言った。にぼしを持って来てくれたのはヨネさんだから、感謝すべきとは思うのだけど、それ以上に気になる言葉がある。


「し、シロ助?」


 雄か雌かも分からない白猫に、スケ……だなんて良いのかしら?

 そんな私の疑問にヨネさんが答えてくれる。


「野良猫の呼び名なんて適当で分かり易ければ良いんです」

「で、でも、性別がどっちか分からないわ……」

「性別は、お尻見れば分かるでしょ?」

「え?」

「〝たま〟があれば雄――」

「よっヨネさんっ……!」


 またも明け透けな発言がヨネさんの口から飛び出てきて、私は恥ずかしさに顔を両手で覆った。そんな私を見たからか、ヨネさんは呆れたように溜息を吐く。


「これくらいで恥ずかしがらないでくださいよ。雄雌(おすめす)の見分けするためには見ないと分かんないんですから」

「そっ、それは、そうだけれど……っ。な、何もはっきり口にしなくても……っ」


 生物の雌雄(しゆう)を見分けるには、その部分を見るのが手っ取り早いとは理解していても、それに関する言葉を口にするのも、聞くのも恥ずかしくて堪らない。そう思う私の方が可笑しいのかしら……?


「あ。シロ助、帰っちゃった」

「え?」


 そうこうとヨネさんと話している内に、白猫は鳴き声一つ残さず姿を消していた。私たちの会話の内容に呆れてしまったのか、にぼしを食べて満足したから帰ってしまったのか。


 いずれにしても、恥ずかしさで顔を覆っていたせいで見送れなかった。そんな寂しさを抱いて、窓の外を見ているとヨネさんが言う。


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