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-64- 二人だけの賭けごと

 

 いよいよ、本当に子供達だけが遊び始めた頃。

 太蝋と八重は梅本夫妻と談笑し、斬島とヨネは子供達の様子を一緒に見ていた。

 柿丸にヨネの弟妹達と言う歳の近い友人が出来たことを喜ぶ斬島。久々に子供らしく遊んでいる弟妹達の姿を見られたことを喜ぶヨネ。

 兄貴分、姉貴分として子供達を見守る二人だったが、ヨネの方から何気なく斬島に話しかけたことで談笑が始まった。


「ねぇ、さっき言ってた賭け。あたしも参加して良い?」

「賭け? ……って、隊長が骨抜きになるまでの期間? あれ、本当に俺しか賭けてる人間いないよ?」


 ヨネが参加表明したのを聞き、斬島は苦笑しながら真実を話した。自分達の直属の上官である太蝋を賭けの対象にするなんてことは、斬島くらいにしか出来ないのだ。他に参加しそうなのは剛田くらいなものではないだろうか。


「それじゃあ賭けにならないじゃん。あたしが参加してあげる」

「ヨネちゃんは、当てる自信あるの?」

「当然。むしろ、あたしの方が有利なんだから」

「言われてみれば、そうだ」


 夫婦としての二人を見る確率が高いのはヨネの方だ。ともすれば、太蝋が八重に骨抜きになる時期を、見定める判断材料もヨネの方が多いと言える。勝敗が見えているも同然な賭けなら、乗らない手はないのだろう。


「じゃあ、どれくらいだと思う? 俺はさっき言ったけど、半年ね」

「それって、結婚してから半年ってこと?」

「おっ。流石ヨネちゃん、抜け目ないね。まぁ、結婚してからって考えるべきかな。今で二ヶ月くらいになるんだったかな~?」

「斬島さんの予想では四ヶ月後ってことになるのね」

「そういうこと」


 ヨネが賭ける月日の参考に斬島がいくつか質問に答えると、ヨネは少し考えたあと五本ある内の四本の指を立てて言った。


「四ヶ月」


 斬島はヨネの四本の指を見て、目を見張って驚いた。


「……それって、今から二ヶ月後ってこと?」

「そう。斬島さんより二ヶ月早い方に賭ける」


 妙に自信満々な様子で言うヨネを見下ろし、斬島は苦笑した。


「いやぁ~……それは流石に早くないかなぁ? あの二人、祝言直後の一ヶ月間、会わなかった時期があるんだよ?」

「え? 何それ、聞いてない!!」

「実質、やっと一ヶ月経過しました~ってところなんじゃないかな」

「ちょっと! 斬島さん、あたしが知らないって分かってて言わなかったでしょ! ずるい!!」

「いやいや? そんなことないよ? 「もしかしたら知ってるんじゃないかな~」って思ってたから、言わなかっただけでさ」

「それ「もしかしたら知らないかも」って思ってたことにもなるじゃん!」

「おぉ~。やっぱり、ヨネちゃん鋭いねぇ。さっすがぁ!」

「誤魔化さないでよ! 卑怯者!」

「はいは~い。ワタクシ卑怯者なのでぇ、ヨネちゃんの賭け月数は四ヶ月ってことにさせて頂きまぁす」


 ぺろりと舌を出して、しれっとヨネの賭け先を決めてしまった斬島。

 実に憎たらしい顔で言う斬島を見上げてヨネは、騙された悔しさを晴らすように斬島の腕をぽこぽこと殴りつけ始めた!


「うぅ~~!!」

「痛い痛い! ヨッ、ヨネちゃん、案外力強いのね!?」

「うるさぁいっ! ばかばかばか!」


 弟妹達の前では姉らしく大人っぽい態度を取ると言うのに、斬島に対しては随分と子供っぽい態度をとるヨネ。いや、十四歳の少女が、三十過ぎの男に手玉に取られれば、こうなるのも不思議ではない。

 ただ、ヨネが斬島とは対等な会話が出来ると思い込んでいただけだ。


 こうして、斬島とヨネによる賭け事も発生した交流会は、楽しいまま幕が閉じた。

 新たな出会いと、顔見知りの隣人との親交を深めた場として――


  △ ▽ △




――あぁ……少しの間、眠ってしまっていたみたい。


……?


 あの子は、どこに行ったの?


 ここで、一緒に眠っていたはずなのに。


……あぁ、お腹が空いた。


 そうだ。あの子のためにも、ご飯をとってこなきゃ。


 きっと、お腹を空かせているはず。


 沢山のご飯を持って、何処かへ行ったあの子を見つけなくちゃ。


 寒がりのあの子を、暖めてやらなくちゃ。


 あの子を――



 苦しめた雄どもを、こらしめてやらなくちゃ。





   第三章【風の前の塵】 完

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