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-63- 妻の支え

 

 八重、太蝋、斬島、ヨネ、ヨネの弟妹三人……と言う大所帯で向かう先は、北天町に新築された豪邸・梅本邸だ。

 この梅本邸には、太蝋と斬島がよく知る人物が住んでいる。それは――


「タロー! ミチユキー!」


 豪邸の玄関口で元気良く腕を振っている少年――柿丸だ。

 今日、太蝋は柿丸を災物被害から救ったことへの礼をしたいと言われて、柿丸の父である梅本桃吾うめもと とうごに屋敷へ招待されていた。


 招待されていたのは太蝋だけでなく、炎護隊の大隊長である剛田も含まれていたのだが、そちらは欠席。柿丸が招待したいと言った斬島も招待客に含められ、更には太蝋の妻である八重にも話が行き、斬島の提案でヨネとその弟妹までもが招待される運びとなったのだ。


「柿丸~! 元気だったか~?」

「うん! 最近は、ずっとベーゴマの練習してたから、今日こそミチユキに勝つよ!」

「おっ? 言ったなぁ? そこまで言うんなら、今日はとことん――」


 斬島と柿丸が談笑を始めた矢先、柿丸の背後から男女が現れた。柿丸の父母だ。


「皆様。暑い中、よく参られました。さ、中へお入りください」


 柿丸の父・梅本桃吾が言うと、その隣に立っていた柿丸の母・梅本トキはつんと澄ました顔をして軽いお辞儀をした。それに太蝋と八重、ヨネがお辞儀で返し、桃吾の案内で梅本邸の中に足を踏み入れる。


 歓迎の茶と菓子が出され、大人達で談笑をする中、子供達はそれぞれに挨拶を交わし、どんな遊びをしようか相談し合っていた。柿丸は当然のようにベーゴマがしたいと言っており、ヨネの二人の弟、田一と豆吉はベーゴマに異存ないようだ。しかし、子供達の中で唯一の女の子であるヨネの妹・あずきはおままごとを希望している。


 どうしたものかと話し合う子供達の姿を横目に、大人達は茶を口につけながら、萬治まんじの一件を話題に上げていた。


「――改めまして……この度は息子の命を救ってくださり、誠にありがとうございました。火焚様や斬島様の炎護隊方々のお力がなければ、萬治の無念も浮かばれなかったことでしょう。何度、礼を伝えても足りません」


 梅本夫妻は揃って頭を下げた。そんな二人を見て、八重は何と返事をしていいものか分からず目を泳がせた。八重からすれば台風災物の一件は別世界の話を聞いているようなものだ。返答に困るのも無理はない。

 すると、太蝋が「顔をお上げください」と言ってから、八重の手を取り、梅本夫妻を見据えて言った。


「今回の一件、無事に解決しましたのは我が妻、八重の力添えあってのことです。私共、炎護隊だけの力では到底難しかったでしょう」


 突然手を握られて、話題に上げられたことに八重は更に戸惑った。太蝋が言っている意味の正体は、恐らく手袋のことだ。だが、八重としては、まだ信じ難いごとであり人に誇っていいものか分からない。堂々と胸を張っていいものか、分からなかった。


 そんな八重の心を知ってか知らずか、桃吾はじっと八重を見たあと、太蝋に視線を向け直して「そうでしたか」とにこやかに返した。


「私も妻の支えがなければ、難しい局面をいくつも乗り越えて参りました。我々二人は互いに良き妻に恵まれた、果報者でございますね」

「……えぇ」


 さらりと妻自慢を返され、太蝋はフッと苦笑を漏らしながら相槌を返した。

 恐らく、桃吾は気が付いていない。太蝋の言葉通りに、八重が太蝋と柿丸の命を救った、とは……。

 その後、一同は梅本邸の庭へと移動し、先ずはベーゴマで遊ぶことにした子供達の様子を見守ることとなった。

……と言っても、見守っているのは梅本夫妻だけだ。


独楽こまに沿って、糸を巻き付けたら――」

「はい……、はい……」


 太蝋の手解きを受けながら、八重は子供達に混じって初めてのベーゴマに挑戦していた。

 そのすぐ隣では斬島と柿丸によるベーゴマ勝負が既に始まっており、田一と豆吉も熱狂の声を上げながら応援している。さらにその横ではヨネが、あずきのために独楽に糸を巻き付けており、あずきはそれを投げる練習をしている。

 突如として設立されたベーゴマ道場には、中々に入門者が多いようだ。


 糸の巻き付け方を覚えた八重は、あずきと共に投げる練習を始め、ほのぼのとしたベーゴマ遊びを楽しんでいる。


 一方、斬島と柿丸の独壇場と化していた土俵に新星が現れた。

 それはヨネの独楽である。

 まさか、あずきに投げ方を教えていたヨネが勝負に参加しにくるとは思わず、斬島、柿丸、弟の二人は驚愕の眼差しでヨネを見つめていた。


 ベーゴマの勝敗は最後まで回っていた独楽で決まる。土俵を飛び出しても負けとなり、独楽同士がぶつかった時などは一番の盛り上がりを見せるのだ。ぶつかって勢いが削がれた独楽が回らなくなるか。ぶつかった勢いで土俵を出てしまうか。どちらにしても手に汗握る戦いが繰り広げられている。


 三つに増えたベーゴマ勝負に於いては、意外や意外、ヨネが勝者となった。互いに好敵手がいなかった斬島と柿丸としては、意外なところから第三の敵が現れたようなものだ。


 田一や豆吉も勝負の場に参加するようになり、混戦を期す中、大人も子供も交えたベーゴマ大会は実に熱の入ったものになったようだ。


 途中、何度か太蝋と八重、あずきも参加し、八重の独楽が同じところをずっと回っていると言う器用すぎる結果を残したり、力任せに投げたあずきの独楽が斬島の顔にぶつかったりと事件もありながら、初心者も楽しめる時間になった。

 太蝋は相変わらず、ベーゴマが下手らしく、投げ込んですぐに転けてしまったり、他の独楽にぶつかりに行って自滅したり、と……惨敗な結果を残した。

 

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