-44- 独楽回しに必要な
「――なるほど。それで柿丸があそこに参加してると言う訳か」
「はい。柿丸と言う名であると分かったのも、斬島中尉が遊び途中で聞き出したものでして……」
一連の流れを聞き終えた太蝋は、斬島による天岩戸作戦が柿丸を呼び出したのだと理解し、呆れながらも感心の溜息を漏らした。
「人の懐に入るのが得意な斬島らしい。遊びを通じて口を割らせたんだろう」
「おっしゃる通りです」
「それで――」
太蝋は未だベーゴマに熱中している斬島達を見て言う。
「いつになったら、この騒ぎは収まるんだ」
「え、ええと……そ、それは……」
状況説明をした隊員にも、ベーゴマ大会がいつ終わるかは定かでないらしい。斬島と柿丸が一対一の戦いを繰り広げているのを見るに、終わりも近そうだが……。
そんなことを思っていると、一同がわあっと歓声を上げた。
何事かと視線を向けると、斬島が天を仰いでおり、柿丸が地面に伏せて悔しがっている姿があった。
柿丸が悔しそうに叫ぶ。
「ちくしょう! もうちょっとで勝てたのにぃっ!」
「ふっふっふっ……甘い。甘いぞ、柿丸。甘柿、干し柿より、甘ぁい!!」
「なんだとぉっ!?」
「教えてやろう。お前が俺に勝てなかった原因……それは――」
「そ、それは……?」
ごくりと生唾を飲み込んで、柿丸は勝者である斬島を見上げて言葉の続きを待った。
斬島は愛独楽である独楽丸を柿丸に見せつけながら、眉をキリッと吊り上げて答えた。
「愛だぁあっ!」
「あ、あい……!?」
一体何を言い始めたのかと思いながら、太蝋含めた隊員と柿丸が茫然と斬島の主張を聞いた。
「愛を持ってして独楽に接し続ければ、独楽自身のことが見えてくる! 独楽のことが分かれば、如何な回し方が良いかが見えてくる! 回る癖を理解すれば、紐の巻き付け方も変わってくる! つまりは愛だ! 独楽への愛があれば、ベーゴマ界への頂点に立つことも」
「ほう? 中尉になって以降、昇級を拒んでいる男の口から頂点と言う言葉を聞くことになろうとはな」
語りに熱が入り始めた斬島の言葉を遮り、太蝋が嫌味を口にした。それを聞いた途端、その場にいた隊員達は慌てて太蝋へ敬礼する。この場に於いて、最も階級や立場が高いのは火焚太蝋大尉だからだ。
太蝋の姿を認めた斬島は冷や汗を流しながら、腰を低くして言い訳しに近付いて来た。
「これには、深~い訳がありましてぇ……」
「経緯は聞いている。お前の狙いも理解した」
「さ、左様で――」
「不可解なことがあるとするなら、だ」
「は、はい。何でしょう」
太蝋は左、正面、右と伸びている通路を順序よく指差した後、言った。
「何故、よりにもよって第一隊の事務室前の三叉路で遊んでいるんだ。私は騒ぎを鎮めてこいと言ったつもりだったんだがな。まさか、騒ぎの元となって帰ってくるとは思わなかった」
熱い炎である筈の太蝋の頭の火は、鋭さを思わせる細い火になっていて、太蝋の内なる静かな怒りを表しているようだった。火がいつ爆発するか分かったものではない恐ろしさを纏っている。
しかし、斬島はへらへらと笑顔を浮かべて言った。
「いやぁ、ベーゴマをするのが丁度良い広さがここだったもんで……」
一本道の通路でするより広く場所を取れるから、ここをベーゴマ遊びの会場にしたとまともな理由があると言いたげだ。だが、それに対しても、太蝋は鋭い切り込みを入れる。
「よくもまぁ、ここの三叉路がベーゴマ遊びに丁度良いなんて知ってたな?」
「ぎくっ」
「お前、以前にもここでベーゴマ遊びをしたことがあるんだろう?」
「ぎくぎくっ」
「その時の遊び相手は誰だ? 今ここに集まってる第三隊の四小隊か?」
「いや、第二隊の中にもベーゴマ仲間は居るんですけどね。今は出払ってるらしくって……」
語るに落ちると言った状況を再現し、斬島は完全に言い逃れできる術をなくした。道理で遊び道具を職場に持ち込んでいる筈だ。恐らく、ベーゴマだけでなく、ビー玉やメンコで遊ぶ相手も同じ炎護隊の中に居るのだろう。それ自体は悪いことではない。問題は職務中に行なっていることが間違っている。
逃亡していた柿丸を誘い出すための作戦が功を奏したのは良いとしても、その後も引き続いて公務を放って遊んでいたのは、いただけない。第三炎護中隊の第四小隊に関しては一般の子供を取り逃してしまった責もある。太蝋の直接的な部下では無いため、何かしらの罰を与えるように第三炎護中隊に知らせる必要性が出てきてしまった。斬島は例外だが。
太蝋は諸々のことに頭を抱えながら、また一つ溜息を吐いて言った。
「ともかく、柿丸少年の捜索作戦は終了だ。各々、持ち場に戻れ。斬島、お前には――」
「なんでィ。楽しいことしてるって聞いて来たのに、終わりにしちまうのかヨォ」




