-43- お天道様の顔を見るには
「行っけぇえ! 独楽丸ぅう!」
「負けるなぁっ! 亀八ぃっ!」
斬島と謎の少年によるベーゴマ対決が繰り広げられていた。
その周囲を取り囲むように十数名の見知った顔が並んでおり、彼らが第三炎護中隊の隊員であることはすぐに分かった。
「ほ、火焚大尉……」
殆どの隊員がベーゴマ対決に熱中している中、一人冷静な面持ちで見守っていた隊員が太蝋の登場を受けて冷や汗を流した。上官の登場に気が付くことなく、ベーゴマ回しに夢中になっている隊員達を太蝋は冷ややかな目で見つめながら、冷や汗を流して敬礼している隊員に訊ねた。
「……これは、一体何の騒ぎだ?」
「はっ。あちらの少年が騒動の中心人物なのですが――」
「少年? 随分と、いい歳こいた大きい子供だな」
「は、ははっ……」
実際の謎の少年ではなく、その少年相手に本気のベーゴマ対決をしている斬島を大きい子供と称し太蝋は皮肉を口にした。乾いた笑いで返しながら、隊員はこうなるまでに至った経緯を説明し始めた。
第三炎護中隊所属の第四小隊は、前日からこの日の午前まで災物調査の任務に当たっていた。帝都から西南方向に位置する土地で、台風の子災物・風蛙の発見報告があったからだ。その真意を確かめるべく向かった第四小隊だったが、調査地域が山間であり且つ帝都を流れる川の上流付近であったことから、調査を切り上げ状況報告に帰還したそうだ。
機関車に乗って帝都に戻って来た時、折り返し運行しようとしていた同じ機関車に無賃乗車しようとする子供を発見。それが件の謎の少年――柿丸。
柿丸は第四小隊の隊員に身柄を確保され、親の所在や名前などの情報を聞いた。しかし、柿丸は一切何も答えず、更には隊員の手から逃れて再び機関車に乗り込もうとしていたらしい。
児童保護の為に呼んだ警察の到着を待つことも考えたが、駅員の手には負えないほどにすばしっこく、目を離した瞬間に機関車に乗り込むだろうと考えられた。その結果、一時保護と言う面目で第四小隊が少年を引き連れて基地へ帰還したとのこと。
そこでも身元の確認を柿丸に訊ねたが、何も答えなかった。ただ、ぶすっと口を尖らせて恨みがましい目で睨み返してくるばかり。非常に気の強い少年であることは確かだった。
そろそろ警察が少年の身元引き受けに来る頃合いだろうと思っていた時、少年は閉じ込められていた事務室の扉が開いたのを目にした瞬間、またもすばしっこい動きで飛び出してしまった。
そこから少年確保の大騒ぎとなり、暫くの間炎護隊が使用している庁舎内をあっちへこっちへと逃げ回っていたそうだ。
そこへ騒ぎの沈静を太蝋から命令された斬島が現れ、少年にまつわる説明を同じように聞いたところ、斬島はベーゴマを取り出して言った。
「――それじゃあ、ちょっとしたお祭り騒ぎでも始めてみるか」
「は、はい?」
「楽しそうなことしてたら、ひょっこり顔出すかもしれないだろ? お天道様みたいにさ」
そう言って、斬島はにやりと悪戯っ子っぽい笑顔を浮かべた。そして、第四小隊の中でベーゴマ遊びが出来る隊員を呼び寄せろと言い、少年捜索を一時中断してベーゴマ対決を始めたのである。




