-42- 球形化を求刑されそうになる休憩人
束となった決済書類を黙々と処理していく太蝋。
部下達はその姿を憧れの眼差しで見つめて囁きあった。
「隊長は今日も凛々しいな」
「うんうん。こんなに暑いと言うのにバテる様子は一切無い」
「俺達も気張らないとな」
「おう……!」
互いに健闘し合おうと話し合う部下達は、打って変わって口を揃え「それにしても……」と言って、斬島に呆れの視線を送った。
斬島は書机の上に手製のメンコを並べ、ビー玉が入った袋を重ね、手元ではベーゴマを布で磨いていた。鈍色に光を放つベーゴマを眺めては、にやにやと楽しげに笑っている。仕事をしている様子は一切無い。太蝋とは対照的だ。
部下達から呆れられた目を向けられていると気が付いた斬島は、ベーゴマを持った手で部下達をビシッと指差しながら言った。
「休憩だって仕事の内だぞ~! いいか! 俺は〝鬼畜が基地来る〟ような有事に備えて、頭と身体を休めている所なのだ!」
堂々と駄洒落を披露して得意げに胸を張る斬島を見て、部下達は呆れの溜息を漏らした。またくだらないことを言っている、と。
冷ややかな視線で見られて、分が悪いと見るや否や、斬島は矛先を太蝋へ向けた。
「それになぁ、隊長だって仕事以外のこと考えながら書類捌いてるんだぞ」
「え?」
「あの炎の揺らぎは悩みごとがある証拠――」
斬島がそこまで言ったところで太蝋は頭を上げた。
「斬島。お前に求刑してやる」
「へっ?」
求刑、などと物騒な単語が飛び出てきたことに斬島が驚いていると、太蝋は事務室の扉の方を指差しながら、ドスの効いた低い声で言った。
「さっきから廊下が騒がしい。何とかしてこい」
太蝋の命令を受け、斬島と部下達は事務室の外を通っている廊下で響いている音に耳を傾けた。何やら騒動の元があっちへ行ったり、こっちへ行ったりとしているようだ。ベーゴマを磨くことに時間を使うくらいなら、静かな仕事環境を取り戻す為に一役買ってこい――刑に服してこいと、太蝋は言いたいらしい。
絶対に面倒ごとだと思った斬島は、手を揉みながらヘラついた笑顔で太蝋の元へ近付いていく。
「休憩を求刑してくださるって話じゃあ――」
「お前を溶かして球形に丸めてやってもいいんだがな」
「人間大の球って、大砲の弾じゃないっすか!?」
「そうだ。演習用の弾にしてやっても良いんだぞ」
「うぅうん!? 演習は無駄じゃないけど、壁か地面に当てられる前提だから……つまりは無駄撃ちされる運命ってこと!?」
頭を抱えて大袈裟な反応を見せる斬島に、太蝋は指先で蝋の弾丸を作る仕草を見せつけながら言った。
「丸めるぞ」
「ハイッ! イッテキマスッ!!」
斬島は完璧な敬礼をして素早く事務室を出て行った。こうまで言わなければ、斬島は真面目に働かない。実力は確かにある筈だと言うのに。
ともあれ、事務室内での騒ぎの原因は一旦無くなった。廊下で起こっている騒ぎが解決するまで、斬島は事務室へ戻って来ないだろう。言った先でサボっていたら話にならないのだが。
そんなことを思いつつ、太蝋や太蝋のように真面目な部下達は書類仕事を進めた。災物討伐が主な任務とは言え、報告書やら申請書やらの束は作戦が起きる度に増えていく。書机の上から書類が無くなることは、先ず無いだろう。
斬島が事務室を出て行って数十分が経過した。いい加減、戻ってきても可笑しくない頃合いだが事務室の扉が開く様子は見られない。
……どころか、何故だか段々と廊下の騒ぎが大きくなってきている気がする。それも、その騒ぎの中心は移動しておらず、太蝋達が使っている事務室の前に固定されているようだ。
「おぉおおぉ~~!!」
とうとう、騒ぎの中に歓声までもが聞こえてくるようになった。何故、軍基地の廊下で歓声が上がっているのか。斬島は騒ぎを鎮めに行ったのではなく、連れ帰って来たのではないだろうか。そんな嫌な予感を覚えた太蝋は席から立ち上がり、事務室の扉を開いて廊下の外へ出た。
出て行った先で太蝋が見たのは――




