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-32- 狂愛


病鼠びょうその災物憑きで決まりだな」

「問題は、どう討伐するか……っすね~」


 意思を持った災物に憑かれた上、衰弱することなく活動し続けていた少女。

 災物憑きの中でも極めて稀な事例であり、災物だけを討伐することは難しい。

 最も手っ取り早いのは災物憑きごと討伐――ヨネを殺すことである。


 太蝋と斬島の会話を聞いていた病鼠は、ヨネの顔で不気味に笑って言った。


われを殺す? くクっ……何を世迷言を……」


 病鼠は片腕を上げ、太蝋と斬島に向かって振り下ろした!


「死ぬのは貴様らだ!」


 禍々しい瘴気が放たれ、太蝋と斬島を襲う!


 しかし、二人は直前にその場から離れ、疫病を振り撒く瘴気攻撃から逃れた。

 井戸の側に置かれていた桶の中の水が、瘴気に当てられ澱んだ色になっている。

 常人が攻撃を受ければ、四肢で壊死、急所で即死。

 常人より霊力があり、抵抗を試みることが出来る炎護隊の隊員でも重い病気を患いかねない。


 病鼠は続け様に瘴気の塊を放つ。

 太蝋も斬島も避け続けたが、瘴気が当たった地面や草花に病の影響が出ており、長屋で寝込んでいる住人達に多大な影響を及ぼすのも時間の問題だ。


 病鼠が言う。


「ヨネは誰にも渡さぬ! われの花嫁だ! 貴様らなぞに殺させるものか! ヨネの全てはわれのモノ! ヨネの死もわれのモノなのだ! ヨネとわれは永遠に共にあるのだア! あハハははハ!!」


 気が狂っている主張を聞き、二人は苦虫を噛み潰したかのような顔になった。

 斬島は投げられる瘴気の塊を斬り伏せながら言った。


「お嫁さんだってんなら、大事にしなきゃ駄目だろぉっ! 女の子の身体を乱暴に使ってんじゃねぇぞ!」

「ヨネとわれの間に入り込もうなど許さぬ! ヨネに触ろうとした貴様から殺してくれるわァ!」


 次から次へと投げ込まれる瘴気の塊。

 それらを斬り伏せる毎に、斬島が使っている軍刀が刃こぼれしていく。欠けると言うよりは溶けていっている。

 このまま対応し続けていたら、間違いなく刀が折れる。そうなれば斬島は瘴気の塊に当たり、病が急速に身体へ巡って命を落とすだろう。


 そうなる前に病鼠を討伐しなければならない。

 一歩踏み込んで刀を振り下ろせば、ヨネごと病鼠を討伐することは叶う。

 だが、斬島には、その判断を下すことはできなかった。

 隊長である太蝋から命令が下されていないから――以上に、弟達や長屋の住人の快復を願って奔走していたヨネに無情な死を迎えさせたくなかった。

 心優しい少女は幸せになるべきなのだ。


 斬島はヨネに取り憑いた病鼠への怒りを叫ぶ。


「っざけんな! 幸せにしてやれないで何が旦那だ! てめぇにヨネちゃんは勿体ねぇ! とっとと消え失せろ、クソ鼠!!」

「だまれ、ダマレ、黙れェェェ!!」


 病鼠は猛烈に腹を立て、大量の瘴気の塊を発生させ、それら全てを斬島に投げ付けた……!


 全てを斬り伏せ、避けることはできない。


 しかし、一撃でも当たれば死に至る。


 刀の耐久も残り僅か。


 最早これまで――


「黙るのは貴様だ」


 冷淡な声が響くと同時に、斬島の前にきめ細かな網が現れた。

 それらの網は瘴気の塊を受け止め、巨大な炎へと姿を変える。

 瘴気の塊を燃やし尽くしているようだ。


 病鼠が目の前の光景に驚いて硬直した一瞬。同じ網が病鼠の顔を覆った! 


 視界と口を塞がれたことに困惑している内に、身体も網で雁字がんじがらめになっていく。

 病鼠は地面に転がり、じたばたと抵抗を試みる。しかし、指先一本も動かせない。

 網の両端をしっかり握り、病鼠の動きを完全に止めながら太蝋が言った。


「私の網はそう簡単に溶かせんぞ。貴様もこれで終わりだ」


 真っ暗な視界の向こうから聞こえてくる太蝋の声に病鼠は命の危機を感じた。

 何とか逃れようともがくも、身体がうねるだけで網から抜け出せない。


 ドスッと言う音と共に病鼠の意識は途絶えた。

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