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クソデカ姫

作者: ののめの

思いつきで書いた話です。

おやゆび姫や一寸法師がいるならでかい姫がいてもいいよな、と思ったけどスケール感の管理と寝泊まりや衣服どうすんの問題があるからあんまりでかい方はいないんだろうなと思いました。まる。

 むかしむかしあるところに、とても仲の良い夫婦が住んでおりました。

 夫婦は貧しくもなく幸せな暮らしをしていましたが、子供にだけは恵まれませんでした。そこで夫婦は、毎日神様にお祈りをしました。

 

「神様、私達には子供がおりません。どうか私達に元気な子供を授けてください」

 

 そのお祈りが神様に届いたのか、やがて二人の間にかわいらしい女の子が生まれました。生まれたばかりの女の子を抱いて、夫婦はとても喜びました。


「ああ、なんてかわいいんだろう。私達の小さなお姫様や、元気に育つんだよ」


 女の子は「エル」と名付けられ、それはそれは大事に育てられました。

 エルはすくすくと育ち、賢くて元気な子になりましたが、三歳を過ぎるとどんどん体が大きくなり始めました。五歳になる頃には男の子よりも頭ひとつ大きくなり、七歳になると大人の男とそう変わらない背丈になりました。

 夫婦はたいそう不思議がりましたが、それでもエルがかわいいのは変わりません。

 

「私達の小さなお姫様や、お前は本当にかわいいねえ」

 

 と、自分達より背の高くなったエルを撫でては優しく微笑んでいました。

 

 そんなある日、エルの家にグランデ伯爵という偉い人がやってきました。

 賢くて働き者で、そして大きな女の子に育ったエルの噂を聞いて来たのです。

 

「うちで預からせてもらえないか。きっと立派なレディに育ててみせよう」

 

 夫婦は一晩考えた後、グランデ伯爵にエルを預けることにしました。

 

「頑張るんだよ、私達の小さなお姫様や」

 

 グランデ伯爵のお屋敷に行く日の朝、夫婦はそう言ってエルを抱きしめました。

 

 グランデ伯爵に預けられたエルは、お手伝いとしてお屋敷で働く合間にお勉強をすることになりました。

 

「エル、あの窓を拭いてちょうだい」

「はい、わかりました!」

 

 大人の男よりも背の高くなったエルは、はしごを使わなくても大きな窓を隅から隅まで拭くことができました。

 

「エル、庭木を切るのを手伝っておくれ」

「はい、わかりました!」

 

 庭木と同じくらい背の高くなったエルは、庭師を抱き上げて高い枝を切ってもらいました。

 

「エルさんは覚えるのが早いですね」

「ありがとうございます!」

 

 賢いエルは、お屋敷にやってくる先生から習ったことをたちまち覚えてしまいました。

 

 賢くて働き者のエルはお屋敷の人みんなに好かれるようになり、大切にされてすくすく成長していきました。

 あんまり大きくなったのでお屋敷に入りきらなくなり、離れをエルの寝泊まりする小屋に造り変えたほどです。

 

 そんなある日、グランデ伯爵のお屋敷にお城から馬車がやってきました。

 賢くて働き者で、そしてとても大きな女の子に育ったエルの噂を聞いて来たのです。

 

「お城で働いてくれませんか。あなたのその大きな体はみんなの役に立つでしょう」

 

 エルはお屋敷の人達と相談して、お城で働くことに決めました。

 

「しっかりやるんだよ、私達の小さなお姫様や」

 

 お城に行く日の朝、見送りに来てくれた夫婦はそう言ってエルの手を握ってくれました。

 エルは馬車に乗れないほど大きくなっていたので、馬車の後ろを歩いてお城に行きました。

 

 お城に着いたエルは、大臣の下で働くことになりました。エルにはお城の離宮がまるまるひとつ与えられ、腕のいい仕立て屋が何人も集まって、上等な生地を何枚も使ってきれいなドレスを作ってもらいました。

 お城に住んできれいなドレスを着たエルは、グランデ伯爵のお屋敷でマナーをしっかり勉強したこともあって、まるで本当のお姫様のようでした。

 

「素敵なお部屋とドレスをいただいたんですもの、今まで以上に頑張らないと!」

 

 エルはすっかり張り切って、それはそれはよく働きました。

 

「エルや。この荷物を北の砦に届けてくれるかい」

「はい、わかりました!」

 

 お城の庭木よりも大きくなったエルは馬車いっぱいの荷物を抱えてひとっ走りで川を越え、山を越えて、一日もしないうちに砦に荷物を届けて帰ってきました。


「エルや。大雨で北の川が氾濫するかもしれないから、手伝っておくれ」

「はい、わかりました!」


 家よりも大きくなったエルは重たい土嚢をひょいと掴むと、ずんずんと川の端へ積んでいきました。おかげで川は氾濫せず、大勢の人がエルに感謝しました。

 

「エルや。この船を海に浮かべておくれ」

「はい、わかりました!」

 

 お城くらい大きくなったエルは出来上がったばかりの船をそっと抱えて、海に浮かべました。噂の大きなレディを目にした観客は大盛り上がりで、船の進水式は大成功に終わりました。

 

 賢くて働き者で、そして素敵なレディに育ったエルはお城の人みんなから愛されました。もう大きな離宮の中でも体を丸めないと眠れなくなっていたエルのために、もっともっと大きな離宮とふかふかのベッドが作られたくらいです。


 そんなある日、北の国から悪魔の王が攻めてきました。地獄からやってきた悪魔の王は次々と周りの国を攻め滅ぼし、とうとうエルのいるこの王国まで兵を差し向けてきたのです。

 王国の兵士達は勇敢に戦いましたが、悪魔の軍勢は強く、じりじりと追い詰められていきました。そうして悪魔の軍勢がいよいよお城に近付いてきて、王子様とお城の兵士がお城を守るために出て行こうとした時、エルは言いました。


「私が行きますわ、王子様。私が悪魔の軍勢を追い払います」

「ダメだ! 君は戦ったこともないレディじゃないか。危ない目には遭わせられない」

「大丈夫です、私は大きなレディですから。悪魔の軍勢なんて指一本で追い払って差し上げます」


 王子様は懸命に止めましたが、エルは一歩も引きません。とうとう王子様は、自分も一緒に行くという条件でエルを悪魔の軍勢と戦いに行かせることにしました。

 お城の外には真っ黒いじゅうたんのように悪魔の軍勢が押し寄せていて、大人の男よりもひと回りもふた回りも大きな悪魔の将軍が指揮を取っていました。


「がははは、ちっぽけな人間が俺様に敵うものか! それ、一息に攻め落としてしまえ!」


 そこへ、王子様を肩に乗せたエルがやってきました。ずしん、と地響きをさせてお城の前に立ちはだかったエルに、悪魔の将軍は震え上がりました。


「な、な、なんだ、貴様は」

「ご機嫌よう。私はエル、王国の大きなレディですわ」


 エルはそう言うと、悪魔の将軍をひょいとつまみ上げて、ぴんと指で弾きました。悪魔の将軍は悲鳴を上げながら遠くへ飛んでいって、たちまち見えなくなってしまいました。


「指揮官がいなくなったぞ! それ、一気に突き崩せ!」


 王子様が号令を出し、兵士達がわっと悪魔の軍勢に向かっていきます。悪魔の将軍がいなくなって混乱した悪魔の兵士達は次々に討ち取られて、悪魔の軍勢は波が引くように逃げていきました。


 エルのおかげで王国は悪魔の軍勢から守られ、国中がエルに感謝しました。エルは王様から大きな勲章をもらい、ドレスの襟にバッジのように勲章をつけました。

 ところで、エルに追い払われて逃げていった悪魔の軍勢はすっかりエルが怖くなったのか、エルのいない遠くの国に攻め入っているようでした。あちこちの国が大変なことになっている、と聞いた王様は、エルに言いました。


「悪魔の王を倒さなければ、これからも大勢の人が苦しむことになるだろう。エルや、悪魔の王の城まで行って退治してくれないか」

「はい、お任せください。悪魔の王なんてひと吹きでこらしめて差し上げますわ」

「エルだけでは危ないから、私も一緒に行こう」

「ありがとうございます、王子様」


 こうしてエルは王子様を肩に乗せ、悪魔の王を退治しに出かけました。

 エルは一足で川を越え、二足で山を越え、三足で海を越えて、あっという間に悪魔の王の城に着きました。

 お城と同じくらい大きなエルが悪魔の王の城の門をノックすると、門が開いてわっと悪魔の軍勢が出てきました。悪魔の軍勢はエルを槍や剣で突いたり切ったりしますが、エルには痛くも痒くもありません。


「ちくりともしませんわ。バラの棘に触ったくらいは痛いかと思ったのに」

「私が魔法をかけて君を守っているんだ。あんまり強い魔法ではないが、このくらいなら十分に防げる」

「まあ、王子様のおかげなのですね。ありがとうございます」

 

 エルは王子様にお礼を言うと、悪魔の軍勢の中で特に大きな一体をつまみ上げました。大人の男二人ぶんくらいの背丈のある大きな悪魔の将軍は、宙ぶらりんになって悲鳴を上げながらエルの鼻先に連れてこられました。

 

「悪魔の王様と話がしたいのです。連れてきていただけますか?」

「こ、断ると言ったらどうする?」

「あなたをえいっと遠くへ投げてしまいますわ」

「ひいっ! わかった、わかったから投げないでくれぇ!」

 

 悪魔の将軍は地面に下ろしてもらうと、大慌てで城の中に引っ込んでいきました。やがて城から出てきた悪魔の王様は、他の悪魔とそう変わらない大きさをしていました。

 

「お前が大きなレディとやらか。大きなだけのただの人間ではないか」

「ご機嫌よう、王様。どうか他の国に攻め入るのをやめてはいただけませんか?」

「断ると言ったら?」

「あなたをふうっと吹いて吹き飛ばしてしまいますわ」

「面白い! できるものならやってみるがいい」

 

 悪魔の王は大口を開けて笑うと、何やら呪文を唱えます。悪魔の王の体はびかっと光ったかと思えばぐんぐんと大きくなり、家ほどの大きさになりました。

 

「まあ。あなたも大きくなれるのね」

「お前ほど大きくはならんが、大きさだけが強さではない。我が力を見るがよい!」

 

 悪魔の王が呪文を唱えると、大きな火の玉がエルに飛んできました。しかしエルの肩に乗った王子様も呪文を唱えて、きらきら光る氷の壁で火の玉を防ぎます。

 

「危ないでしょう。火傷をしたらどうしてくれるのです」

「ええい、少し大きいだけの人間が生意気な!」

 

 悪魔の王はまた呪文を唱えて雷を呼びますが、王子様が呪文を唱えると雷はエルから逸れて、別の所に落ちました。

 

「きゃあ、怖い! 私、雷は苦手なのです」

 

 ぴしゃん、と雷が落ちるとエルが悲鳴を上げ、その声の大きさに悪魔の軍勢がいくらか吹き飛ばされました。王子様はエルの肩にしっかり掴まっていたので平気でしたが、悪魔の王も勢いに押されて少し後ろに下がってしまいます。

 

「くうっ、少し大きいだけの人間がこしゃくな!」

 

 悪魔の王は次の呪文を唱えようとしましたが、その前にエルが邪魔をしました。また雷を落とされてはたまらない、と思ったのです。

 エルは大きく息を吸い込むと、ふうっとお城に向けてひと吹きしました。猛烈な風に悪魔の軍勢は散り散りに吹き飛ばされ、城の屋根もいくらか吹き飛び、悪魔の王もたまらず飛ばされて城に叩きつけられました。


「ぐううっ、なんだこの人間は! 少し大きいだけなのになんて強さだ!」

「観念しないと、このままえいっとお城ごと踏んづけてしまいますわよ」

「わ、わかった! もう他の国に攻め入ったりしない、今まで攻め落とした国も返して地獄に帰るから許してくれ」

 

 とうとう悪魔の王は観念して、頭を下げて謝りました。

 悪魔の王を退治したエルが海を越え、山を越え、川を越えてお城に戻ると、みんな歓声を上げて出迎えてくれました。

 

「大きなレディが帰ってきたぞ!」

「王子様、万歳! 大きなレディ、万歳!」

 

 わっと手を上げてエルを褒め称える人達の中から王様が出てきて、また大きな勲章をエルに渡してくれました。エルが勲章を受け取ってドレスの襟につけると、王様は深々と頭を下げて言いました。

 

「わしだけでなく、世界中の人がお前に感謝している。そこでお前になんでもひとつ、望みの褒美を与えたいと思う。好きなものを言ってくれ」

「あら、私は何もいりませんわ。だってお城に住まわせてもらって、素敵なドレスまで着せてもらっているのですもの。今が一番幸せですから、これ以上何もいりません」

 

 エルがそう答えると、エルの肩に乗った王子様が言いました。

 

「それなら、私に褒美を決めさせて欲しい。エル、私の妃になってくれないか?」

「いいのですか? 私、こんなに大きなレディですけれど」

「もちろんだ。君より賢く、働き者で、そして心の大きな優しいレディを私は知らない。どうかその優しさで、この国を守っておくれ」

 

 王子様がエルの頬にちゅっとキスをすると、エルはたちまち真っ赤になりました。「喜んで」とエルは小さな声で言いましたが、その声はみんなにしっかりと聞こえていました。

 

 こうしてエルは王子様と結婚し、大きなレディから大きなお妃様になりました。結婚式に招かれた夫婦はエルの肩に登って頬擦りをして、エルに優しい言葉をかけました。

 

「本当に立派になって。幸せになるんだよ、私達の小さなお姫様や」

 

 どれだけエルの体が大きくなっても、夫婦にとってエルはいつまでも「小さなお姫様」なのでした。

 

 めでたし、めでたし。

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