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いとし、かなし、いとはかなし

作者: 日向 葵

「離さない」

 知らなかった。この人が途方もない激情を体の内に飼っていたなんて。自分を抱き締める腕の強さにそれを知る。

「……うん」

 肩越しに藤の花房が青く揺れてにじむ。甘く薫る風に、伝えたい言の葉はさらわれてしまった。だから、耳許で囁かれた求めてやまなかった五文字ごと、目の前の体を大事に抱きとめる。

 抱き返す力は、息が詰まりそうなほどで。ずっとこの人はこうしたかったのだと理解する。今までは退路を用意されていたのだ。始めからそんなもの必要なかったのに。

 霞のようにたなびく藤の花園に二人きり。音もない今ここにあるものがすべて。

 ああ、夢みたいだ。眦からよろこびがひとつぶ。

 薄むらさきの檻はやがて朽ちるだろう。だからあなたの、白く永遠の腕の中にこのままずっと閉じ込められたい。



幼稚園には藤棚がありまして、私はこの花が成長すると葡萄になるんだと思ってました。

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― 新着の感想 ―
[一言]  美しい文章と情景が好きです。  藤を「薄むらさきの檻」と表現するところが特に好きです。  文字数は少ないのに、この作品から重い感情を受け取りました。  ありがとうございました。
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