第七十七話 裁き
お久しぶりです。
そして、新年明けましておめでとう御座います。
今年の抱負はなるべく多く投稿していきたいので頑張ります。
「身体がっ、動かないッ!?」
コンボヴァルは、すぐに自分の身体の変化に気付く。
暗がりの向こうから、何か不気味な声が聞こえてきた。
その瞬間ーー言葉に出来ないような不快感と共に身体の自由を奪われる感覚がした。
一体、何が起きたのだ…と。
コンボヴァルは、後ろを振り返ろうとするが首すら動かせない。
手も足も、指先も。
首も顔も。
瞬きも、視線でさえも…ある方向から動かす事は出来ない。
ただ、動かない視線が向かう先を見つめるしかない。
この不気味な現象を体験しているのはコンボヴァルだけでなく、おそらく後方の部下達も同じだろう。
現に、アーレムもまた同じように全く動けなくなっている。
ガサ、ガサ…
茂みの奥から、何かが此方に向かって歩いてくる。
全身に寒気がする。
動かない身体が、震える感覚がする。
恐ろしく。
悍ましい。
そんな何かが姿を現した。
(人…?それも、まだ子供か?)
その人物は、青年。
昏い外套を着込み、顔は仮面、身体は鎧で身を包んでいる。
受けている仮面からは、紅き瞳が此方を覗いている。
アルレイヤがその人物に向けて、剣を地面に突き立て膝をつく。
コンボヴァルは、この時点で危惧していた第二の協力者がこの男であると理解した。
(反逆姫が、膝を?一体、どういう関係だ…?)
分からない。
ただ、今考えるべきなのはこの致命的な窮地から脱する方法を模索する事だ。
「囮、ご苦労だったなアルレイヤ」
「いえ…全ては貴方の作戦通りです」
仮面の男が、此方に向き直る。
凄まじい重圧。
本能でわかる。
これまで見てきた者の中でも、アレは化け物の類いである。
エーレ聖王国の五勇士と相対した時と同じ感覚に近い…が、それでも少し違う。
奴らのような、尊大さや気高さ…力強さを感じられない。
あるのはただ、恐怖という言葉のみ。
言い表すならば、深い闇を纏った龍とでも言おうか。
とにかく、別の意味でやばい。
だが、コンボヴァルにはそれでもなを勝利を疑っていない。
何故なら、自分には切り札があるから。
どんな強者でも、どんな怪物でも、決して逃れることの出来ない最強の禁物。
女神ですら恐れ、太古に封印した"毒"がある。
現に、これまで殺してきたほぼ全ての者がこの毒によって命を落とした。
勇者の血を引く猛者も。
隻魔種に位置する怪物も。
勇者でさえも毒で死んだ。
つまり、"毒"こそこの世界で最も最強に相応しい武器。
屍の使徒が持つ剣や弓矢、そのどれもに致死量レベルの毒が塗り込まれている。
擦り傷一つですら、致命的。
毒が身体に入れば、数秒も経たずに毒が回り始める。
当たれば、自分達の勝利なのだ。
相手が誰であろうと関係ない。
「初めまして」
男が言葉を発する。
不気味な声だ。
高音と低音、雑音が入り混じった不気味な声。
此方を不安にさせるような響き。
「な、なに、ものだ…、なにを、したぁ」
「質問が多いな。悪いがお前達の動きを封じさせて貰った」
龍斗が術を解かない限り、コンボヴァル達は身動きを取ることが出来ない。
何かを企んでいるようだが、無意味だ。
「それにお前達と会話に興じるつもりはない。お前達は此処で殺す。一人残らずな」
その言葉に、コンボヴァルは激しく動揺する。
「ただ…無抵抗のお前達を殺してもいいが、チャンスをやろう。そこのお前と、そこの女…お前達のどちらかが俺達に勝てたら解放してやろう。アルレイヤ、やれるな?」
「ええ」
これは、アルレイヤが望んだ事だ。
彼女はずっと悩んでいた。
自分は龍斗達の為に何が出来ているのかと…
そこで彼女は、屍の使徒を討ち倒すことで自分の価値を証明すると提案してきた。
龍斗としては、既にアルレイヤの事は信頼している。
あらゆる場面において、価値があると思っている。
それでも彼女自身は納得出来ていなかったのだろう。
「さぁ、どうする?」
「くくく、やってやる」
コンボヴァルが、微かにほくそ笑んでいた。
絶望が、希望に満ちた表情。
「その前に一つ聞かせろ…貴様が円卓を屠った人物か?」
「ああ、その通りだ」
「そうか…なら、貴様を殺せば俺は本当の意味で最強の座を手に入れる事が出来る!」
背中に掛けた、大槍を構える。
その穂先は、真黒。
どうみても普通の槍ではない。
アルレイヤと奴らの問答からも察するに、あの槍には毒が塗り込まれている。
禁術と呼ぶモノの正体が、毒とは…
納得は出来る。
神殺ノ遺跡で毒の恐ろしさは充分に理解している。
しかも、現在におけるこの世界は毒についての知識が乏しい。
治療薬も治療法もない現在に於いて、毒という存在は恐ろしい程の脅威だろう。
「貴様は選択を誤った。この俺には勝てない…何故ならば、どんな生物も"毒"という呪いからは逃れることが出来ない」
勝ち誇った顔で、豪語する。
「試してみるか?」
「ふん、死ねぇぇい!」
コンボヴァルが、地面を強く蹴る。
凄まじい踏み込みで、一気に龍斗の間合いを詰める。
そして、首目掛けて槍を振るう。
龍斗はそれを軽々と躱して、男の腹に蹴りを入れる。
「ガハッ、ハッハハ!?掠めたな?!俺の勝ちだァ!」
槍の穂先に塗り込まれた毒は正に猛毒。
少しでも擦れば、数秒で死に至る劇物。
全身が麻痺し。
皮膚が剥がれ落ち。
骨が溶けて。
最後は跡形もなく消えてしまう。
強力な酸性、融解性、致死性が高い毒。
その正体はかつて、神すら死に至らしめたと謳われる伝説の毒龍神ヒュドラの毒。
扱うコンボヴァルでさえ、この毒に巻き込まれて死ぬリスクがある。
この男が如何に強かろうと、この毒を受けて生き残る可能性は0である。
勝利を確信し、大笑いする。
理性など忘れ、戦士としてのプライドすら捨てて、愉悦に浸る。
馬鹿な男だと、嘲り笑う。
「楽しそうだな」
ぴたり、とコンボヴァルの動きが止まる。
聞こえてきた声の違和感に、固まる。
悲鳴、絶叫ではない…此方を煽るような声?
恐る恐る、振り返る。
「な、ど、どうして…生きている」
あり得ない。
コンボヴァルは、そう言葉を漏らす。
有り得ない事が起きている…確かに、この男にはヒュドラの毒が注入された。
本来であれば、この男は苦しむ間もなく死んでいた筈だ。
だというのに…どうして平然と立っている?
「悪いな、既に体験済みだ」
「ーーは?」
意味が分からない。
ヒュドラの毒を体験済み?
いや、ハッタリだ…しかし、この男は今実際にヒュドラの毒を受けて生きている…
「さてと、次はどうする?」
「な、舐めるな!」
コンボヴァルは再び槍を構える。
全身に魔力を漲らせ、地を蹴り男目掛けて飛び掛かる。
男の頭蓋を貫かんと、槍を振るう。
が、その槍は男の眼前でぴたりと止まる。
「くっ!?」
「なんだ、この程度か…警戒しすぎていたかもな」
力いっぱいに槍を引き戻そうとするが、全く動かない。
「悪いな、あまり時間もない」
ゾッ、コンボヴァルの全身に寒気が迫る。
恐ろしい程の殺気。
身体が震え、冷や汗が止まらない。
仮面から覗く男の目が、赤黒く煌めく。
「ま、まて…取引をしよう!ーーがっ!」
龍斗の腕がコンボヴァルの首を掴む。
ミシミシ、と骨が軋む音が静かな夜に響く。
コンボヴァルは苦しそうに、口から泡を吐きながら必死に龍斗の腕を首から引き離そうとしている。
しかし、一ミリたりとも動かない。
「まぁまぁ強かったよ、お前」
ボギィ!
最期に聞こえたのは、自分の首の骨が無惨にもへし折られる音だった。
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