第七十一話 追手
すみません。
投稿予約が出来ていませんでした…気付くのが遅れてしまいました
次回の更新は水曜日の13時です。
進んでいると、森道を発見した。
暫く森の中を進んでいたが、草が覆い茂っていて馬では進み辛かった。
このまま効率よく進むには、しっかりと道になった場所を進んだ方が早い。
そう判断した俺達は、森道を進むことにした。
周りの、様子をうかがう。
道や森の中に、獣の気配はあれど人の気配はない。
これなら進めそうだ。
「リュート」
「ああ、行くか」
森の中を抜けて、道に出た。
此処からは身を潜める場所は少ない。
荷物も考えれば、速度は出せない。
そして、更に慎重に進むべきだろう。
馬がひづめの音を鳴らし、鼻息を荒く上げながら進む。
プレイアンデル姉妹とルーパーが先導してくれている。
エレクトラーの背後にはアルレイヤが乗っている。
ディナがズルいと騒ぎ始めたので、仕方なく交代した。
よっぽど嫉妬していたのか、俺の背中に胸を押し付けて密着してくる。
「ここから幻界領域までどのくらいなんだ?」
「二日でしょうか。大結界オルレアンがあった場所を通るとなると三日です」
幻界領域と人界大陸の中間には、ある結界に囲われた城塞が存在している。
神聖国の聖女が施した大結界と強固な城塞を築き、各国は其処に戦力を置いている。
魔神軍に対する抑止力とかだろう。
となると、其処の近くを通るのは避けるべきだ。
「幻界領域で気をつけるべき所はあるか?」
幻界領域。
それについての知識は、異界大全で多少得ただけ。
「そうですね…やはり、"隻魔種"と呼ばれる特殊な怪物はかなり危険かと」
「隻魔種…」
「詳しく説明すると、目・角・腕・脚などと言った部位が欠損或いは大きな傷によって不全となった魔物の総称です…目撃情報が極めて少ないですが、存在自体は確認されています
目撃情報が少ないのか、それは…目撃した者が、殺されているからです」
「なるほどな」
目撃したとしても、それを伝える前に死ねば元も子もない。
それほどまでに、やばい魔物なのだろう。
「詳しい詳細は不明です。しかし、その隻魔種は通常の魔物とは異なり極めて凶暴性と残虐性が高く、凄まじい力を持っています」
「…………」
隻魔種、か。
奴らか。
神殺ノ遺跡に蔓延っていた怪物。
それらの全てがアルレイヤの言う通り、隻眼・隻腕・隻脚のいずれかに該当していた。
魔物というより、正真正銘の怪物。
凄まじく凶暴で、残虐だった。
隻魔種…
そして、幻界領域。
あのレベルの怪物が数え切れない程に棲息してる。
考えただけで、恐ろしいな。
マイアとエレクトラーは、そんな領域で何とか生き延びたのか。
ということは、それなりに幻界領域の知識はこの場にいる誰よりもある筈だ。
「ところで、あの子達とは仲良くしていけそうか?」
「ええ……」
ま、アルレイヤがあんな善人すぎる2人を嫌うような事はないのは分かりきっている。
ルーパーとシェカに対してアルレイヤは姉のように接している。
2人も段々と、彼女に懐いているようにも見えた。
ディナは、まだ何となく距離感が測り切れて無い様子が見られる。
どう接したら良いのか、迷ってる。
それでも邪険にする事はないと思うので、そこら辺は信頼してる。
「一つ、懸念があるとしたら…本当にあの子達を幻界領域へ?」
「ああ、連れて行く。プレイアンデル姉妹もそれを望んでるし、あの子達も姉妹と共にある事を望んでいる。本人達の意思は固いし、家族を引き離す訳にはいかないしな」
「心配です…」
「死んでも守ってみせるさ」
アルレイヤは、微笑んだ。
「やっぱり、良い人ですね」
「いいや、そんな事はないぞ。俺があの四人を救ったのは、助けたかった…と言うのもあるが、もっと個人的な理由だ」
そう。
ただ助けるだけなら、あんなリスクを負うことはしない。
あの4人を助ける事で、得られる恩恵があったからというのもある。
仲間にしたかった理由はいくつかある。
一つは、戦力の補充。
その点では、プレイアンデル姉妹は非常に優秀な戦士ということ。
もう一つは、あの四人は幻界領域に踏み入った経験が少しある。
そして、あの四人を同行させる事によって叛逆の神女との会合の際に有利に働く可能性があったから。
「……?」
「簡単なことだ」
何故、有利に働くのか。
叛逆の神女は、追っ手を避ける為に幻界領域の中で隠れている。
そんな警戒心の強い人物が、身元が分からない俺達を歓迎するとは思えない。
しかし…
「ああ…」
アルレイヤは、理解したらしい。
例の彼女と関わりすらない、自分達がいきなり訪ねるよりも叛逆の神女と少なからず関わった経験がある四人が一緒と訪れる。
そのほうが、彼女も警戒心が和らぎ謁見は出来る筈だ。
おかしな話ではない。
むしろ、筋が通っている話だ。
一度も関わりのない怪しい人間。
一度関わった事のあるある程度信用出来る人間。
前者よりも、後者の方が接触もしやすいのは言わずもがな。
ただ一つ、懸念もある。
プレイアンデルの口ぶり。
面識がある者同士の話としては、違和感もある。
少しだけ、距離感がある。
仲間、友人、協力者…そのどれにも当てはまらない。
あと叛逆の神女との関係性も聞いておくべきだな。
「そして…」
叛逆の神女が、もし俺の思うような人物なら。
ルーパーやシェカのような小さな子供を追い返す事は出来ない。
戦う術を持たない無力な子供を、幻界領域のような恐ろしい場所を何度も体験させるような鬼畜ではない筈だ。
あくまで、推測にすぎない。
だがそれでも、叛逆の神女が悪人とも思えない。
彼女は確か、ハイエルフと言われていた。
アルレイヤは、ハイエルフではないが近しい種族ではある。
だから、買い被っているのかも知れない…
まぁ、それを抜きにしてもルーパーとシェカは絶対に生き残らせる。
そして叛逆の神女のもとに、連れて行く。
「なるほど、其処までお考えだったのですか。やはり、素晴らしいですね」
「まぁ、ただの打算でしかないけどね」
ルーパーとシェカを見る。
プレイアンデル姉妹やディナと、とても楽しそうに話している。
ふと、孤児院で初めて見た時の2人の姿を思い出す。
…………。
孤児院のシスター。
貴族達。
奴等から、侮辱の言葉や暴力。
種族の違い。
それだけの理由で、あらゆる理不尽に晒されていた。
それでも、希望があると諦めなかった。
理不尽な目に遭い、世界に絶望し…救いようのない復讐に手を出した俺とは心の強さが違った。
俺には、理不尽を受け入れる強さと覚悟がなかった。
でも、あの子達には理不尽を受け入れる強さと覚悟があった。
アルレイヤ達の言う通り、あの子達は立派だ。
だからこそ、守らなければならない。
一人でも善人が救われる世界に造り替える為に…
ありとあらゆる、悪を燃やし尽くす。
ーー
そんな最中。
ディナが何かを感じ取り、背後を振り返る。
其処から数秒遅れて、アルレイヤとプレイアンデル姉妹…そして俺が反応する。
遠くの方から、がさがさと僅かに物音が聞こえた。
幾つもの馬を走らせる音。
「…まさか」
後方に、目をよく凝らす。
ゆらぬらと、揺れる灯り。
無数の集団となって様々な方向に動く赤い灯り。
「リュート」
アルレイヤが、声を掛ける。
「ああ」
予め、想定はしていた。
その時の対策もしっかりと練ってある。
だが、しかし。
孤児院での一連の出来事から、まだあまり時間は経っていない筈だ。
来るとしても、もう少し掛かると思っていたが…
存外。
奴等の中にも優秀な人間が居るのだろう。
だか、そうか。
やっぱり、来たか。
なら、仕方ない。
「地獄へようこそ」
俺達の行く先を阻むというのなら…容赦なく。
皆殺しだ。




