第六十七話 ルーパとシェカ
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ーー孤児院
「ほら、ルーパ!シェカ!休んでないで早く動きなさい」
孤児院の院長がそう叫ぶ。
サードアイ族(魔族)の娘はビクビクと身体を震わせながら、行動する。
獣人族のシェカは、肩を震わせるルーパの手を握り立ち上がる。
「わかり、ました…」
「は、はい…」
2人は、休んでいるつもりはなかった。
孤児院に訪れたある貴族達へ、食事や飲み物などを運んでいる最中である。
しかし、何も言うことは出来ない。
口答えすればどうなるか、それはもう此処に何度も何度も訪れている度に体験している。
「どう、ぞ…」
「お待たせ、しま、した…」
「ケッ、ノロマすぎるぜ…もう少し早く運んで来て貰えるかなぁ」
可笑しな髭を生やした貴族の男はそう文句を言いながら、少女達を下卑た目で眺める。
「アンタ達!なんかい言ったら分かるのさ!貴族様を待たせるなんてどう言うつもりよ!全く、他の子達はアンタらよりもよっぽど仕事が早いよ!」
「……はい」
「…」
「何か言う事があるでしょ?」
「ごめん、なさい」
「すみ、ません…」
理不尽な怒りを必死で耐えながら、今日も踏ん張る。
他の子供達とは違う扱いを受けていても、彼女達は決して折れない。
何故なら、明日…その地獄から遂に解放されるからだ。
大切な家族であるマイアとエレクトラーが迎えに来てくれる。
あの人達は、こんな扱いを受けている事を知らない…でも何かを察してくれている。
だから、いつも必ずこう言う。
私達が必ず守るって。
二人は決してウソをつかない。
私達との約束を守る為に戦ってくれている。
だから、信じる。
マイアねぇね……
エレクトラーねぇさま…
ここにいるのも、屋敷にいるのも辛い。
だからと言って、あの人達に迷惑を掛ける訳にはいかない。
闘神士としてずっと戦っている…私達の為に。
大切な命を賭けて。
こんな自分達のために。
だから…私達も負けない。
強く有れ、そう二人は言っていた。
だから弱音は吐かないって二人で決めた。
貴族達が食べ終えた食器を運び、洗面台で洗う。
二人の手は、もうボロボロであった。
「ノロマだねぇ!ったく、これだから人擬きは使い物にならない!使えないゴミめ!」
日常茶飯事の罵詈雑言。
使えない。
人擬き。
ここに訪れてから、今日まで。
何処に居ても同じような言葉を投げられる。
褒められた事は、一度もない。
でも、負けない。
(私達は強く有れって、おねえちゃん達に言われてるんだ!だから、絶対に負けない!)
貴族の男達は酒を飲み陽気になっていた。
「ふうぅ、さぁーてと…そろそろ、夜も遅くなってきた…お楽しみの時間も近付いてるってことだ」
「しかし…随分と見ないうちにこの子達もいい具合に育ってるじゃぁねぇか?ぐへへ……子爵には感謝してもしきれねぇ…」
酒を飲み進め、貴族達の視線は更にいやらしい物に変わっていく。
「子爵様も何を考えているんだか…」
孤児院の院長やシスター達は、これから此処で何が行われるのかは子爵から聞いている。
勘弁してもらいたい物だ、こんな場所で穢らわしい行為をするなど。
「ぐへへ」
一体、なんの話なのだろうか。
少なくとも良い話でないのは確かだと、確信できる。
「しかしよぉ、こんな上玉を一回キリッてのもなんか勿体ねぇなぁ…」
貴族の男がルーパの腕を掴んできた。
酷く怯えるルーパ。
シェカが咄嗟に男の腕を払う。
「おい!てめぇ、この俺様に手ェ出しやがったな!?化け物の癖に生意気なガキが!」
「シェカ!謝りなさい!貴族様に下手な真似して、あたし達に迷惑掛けたら承知しないからね!?」
「あぐっ!?」
ドスッ。
シスターが、シェカの鳩尾を思いっきり蹴り上げる。
「お、おぇ…」
シェカは、その場に倒れて悶絶し胃液を吐き散らす。
そんな事もお構いなしに、シスター達は次々とシェカの身体を痛めつける。
「や、やめて!」
「うるさいよ!」
側に居た、シスターの一人がルーパの後頭部を叩く。
痛がるルーパを見て愉しそうに、何度も何度も頭を叩き続ける。
「……うぅ」
地面に倒れ、うずくまる2人。
それを見てシスターや院長は愉快そうに笑う。
ザマァ見ろと、言わんばかりに。
「さぁ、貴族様方…そろそろ、コイツらの味見をしなさいな。ああ、でもあまり大きな音を出すんじゃないよ?憲兵団が来たら厄介だからね」
「おう、なら楽しませてもらうぜ」
貴族の男達が立ち上がる。
地べたに倒れて苦しんでいる少女達を見て、下卑た笑みを見せる。
呼吸が荒く、涎を垂らしている者もいる。
そして、ルーパとシェカの衣服に男達が手を掛ける。
ビリビリっ、と音を立てて二人の衣服が破かれる。
そして、少女の幼くも艶やかな身体が顕になる。
男達の興奮度は、更に上がる。
二人はこれから何をされるのか、幼いながらにも理解していた。
幾度となくどんな事にも耐えていた二人だったが、遂に…その精神に限界が訪れた。
ごめんなさい…
「ぐすっ……ふぐっ……おねえ、ちゃん……」
「うぇぇん…助け、て…」
その声に応えるかのように…
ドォン!!!
と、凄まじい音を立てて。
孤児院の扉が蹴り飛ばされる。
誰も彼もが、扉の方を注目する。
何者だ、そんな下らない問いを掛けるまでもなく扉の前に立っていた二人の巨大な人影が此方に近づいて来る。
「あ、あなた達は…」
足音が凄まじい勢いで、近づいてくる。
「ぼぎゃぇ!?」
ルーパに手を掛けていた貴族の男が勢いよく吹き飛び、孤児院の壁に激突する。
続けてシェカに手を出そうとしていた貴族の男が大きく浮き上がり、そのまま地面に叩きつけられる。
(え…)
「許さぬ」
2人は、その人物達を見て涙を浮かべる。
来てくれた、と。
ーー
「マイアねぇね?」
「エレクトラーねぇさま?」
どうして、ここに…?
2人は明日の試合の準備で来れないと聞いていた。
でも確かに、2人はこの場に居る。
エレクトラーが、院長の胸ぐらを掴み持ち上げる。
「う"くるし、ぃ…」
彼女の顔は、これ以上ないくらいに怒りが滲んでいた。
「こ、こんな事をして、いいのかい!?」
ドゴォ!
「おぎゃあ!?」
エレクトラーが、院長を殴り飛ばす。
「し、子爵に報告してやるわよ!? こんなことしてタダで済むとーーうぎゃ!」
「少し黙れよ」
低い声が響く。
恐ろしく、冷酷で怖い声だった。
「この子達は我々が連れて行く…貴様達はもう終わりだ」
マイアが、倒れている二人に手を伸ばす。
きゅっ、と二人の手を掴み立たせると抱きしめる。
温かい…
全身から、二人を大切に思う気持ちが伝わってくる。
本当に私達を救いに来てくれたんだ、そう実感し涙を流す。
「ねぇね…」
「マイアねぇさま…」
「辛い思いをさせてしまってすまない…だが、もう大丈夫だこれからは私達が絶対に2人を離さない。でも、もう此処には居られない、そしてこれから壮絶な旅をしなければならない、死ぬかも知れない…それでも、着いて来てくれる?」
「う、ん」
「うん!」
涙を溢しながら、更に強く抱きしめる。
「わたしたちは、おねえちゃん達と一緒なら……それで幸せなの」
マイアは慈愛に満ちた笑みを浮かべて二人の頭を撫でる。
「エレクトラー、二人を連れて先に行ってて。少し進んだ先であの二人が待ってるから」
「はい」
「私は、結末を見届けてから合流する」
エレクトラーは、2人を抱き上げて孤児院を去ろうとする。
「……ぇ?」
「……おねぇさま?」
ふと、扉の前に…龍の姿を形取った、男が立っていた。
龍の顔をした仮面。
漆黒に染まった鎧。
仮面から覗く、紅き瞳。
ルーパとシェカは、エレクトラーに身を寄せた。
「大丈夫…彼は、味方だ。とても頼りになる」
エレクトラーが、優しい口調でそう言う。
「いい人?」
「怖くない?」
「うん、後は任せる」
鎧の人は、こくりと頷く。
そして、シェカとルーパの頭を優しく撫でる。
ビクッ
初めこそ、殴られる。
そう思ったが、杞憂だった。
頭を優しく、撫でられた。
初めてだ、お姉ちゃん達以外の人に私達がどんな種族なのか理解した上で撫でられたのは。
龍のような人は、私達を撫でた後、孤児院へと入っていく。
背後から声が、聞こえる。
「さてと…このまま乗り切れると思って安心したのか?残念だったな…生憎だが、お前達はここまでだ。一部始終、あの子達には悪いが見させて貰っていた…正直、ここまでとは思ってなかったよ…だが、それとは別に感謝もしてる」
酷く、恐ろしい声。
「これで心置きなく、お前達を殺せる」
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