第六十二話 交渉
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「それで、話とはなんだ?」
決闘に勝利した俺は、彼女達と話す権利を得た。
そして、人目につかない俺達の宿で俺達は話している。
「そうだな、アンタらとアンタが大切にしている物に危機が迫ってると言ったら?」
エレクトラーが、不可解と言った様子で首を傾ける。
マイアも、何を言ってるのか理解出来ていない様子だ。
「どういう事だ?」
「明日の試合…辞退するべきだ」
「……なに?」
「運営とアリエーゼ子爵が結託してアンタらを試合の時に誅殺しようと暗躍しているのを聞いた」
「…ありえん、よりにもよって子爵が?」
困惑した様子のエレクトラーとマイアに説明する為に、アルレイヤ達が集めた子爵の情報を伝えた。
子爵の黒い噂の知っている情報は全て満遍なく彼女達に伝えた。
信じずともいい、不信感さえ持ってくれればやり易い。
「ふむ…仮にそれが事実だとして、君はどうして我等にこだわる」
「決まってる。アンタらは俺が最も欲しい叛逆の神女についての情報を持っている…俺としては、それを知る前にアンタらに死なれると困るんだよ」
と、言っても。
ここで情報を教えて貰ったとして、見捨てるつもりもない。
あの決闘で確信した。
彼女達の実力は本物で、幻界領域を突破する為の大切な駒に相応しい。
「今回も子爵が罠を仕掛けている、という証拠はあるか?」
「いや、ない」
「そうか…」
少し黙るマイア。
だが微かに、その表情は曇っている。
「我々は子爵に少なからず恩がある…が、それはもう充分に返し切ったと思っている。だが、やはり信じられん…あの子爵が?」
子爵への恩とは、2人の幼子達を屋敷で匿ってくれた事だろう。
だが、今の言い方だと彼女達はもう既に子爵への恩義はないと思える。
彼女達の子爵に対する印象はまだ悪人とは言い難いようだ。
「そこでもう一つ、最悪な情報がある」
「なんだ?」
「それはーー」
彼女達が最も嫌う、ある情報を告げる。
それは匿われている少女達が彼女達の試合中に貴族達の性奴隷として売り捌かれるという話と屋敷で侍女や執事達に裏で激しい差別と暴力を振るわれている。
そんな、話だ。
「事実か?」
「おそらくな」
「…………」
「子爵は既に動き出しているらしい…子爵の屋敷に何人かの貴族達が訪問していたって情報も聞いた。まだ信じきれないだろ?そこで俺に良い提案がある」
2人は、揺れている。
だから、安心して彼女達がこちら側に堕ちるように布石を打っておく。
マイアに、ある小さい宝石を手渡す。
「これは…盗聴石か」
そう、俺が渡したのは盗聴石と呼ばれる主に情報屋などが好き好んで扱う魔導具。
壁越しでも対象の声を拾う事が出来る便利な道具だ。
スマホを渡す手も考えたが、彼女達にスマホに関する知識もないし録音機能も万能とは言えない。
だから、確実性のある物を選んだ。
「ああ、使い方はアンタに任せるよ…今の話で少なからず子爵に不信感があるなら使うといいさ、所で決闘はどうするんだ?」
「無論だ…たとえ何が起きようと我らは逃げない」
揺るがない覚悟。
闘神士としての誇りが、彼女達にはある。
この反応も予想通りだった訳だ。
だからこそ、布石として盗聴石を渡しておいた。
今の彼女達は迷っている。
そして俺は拡散している、彼女達が今日取ると思われる行動を…
「例えどんな陰謀が渦巻いていようと、我々は逃げない…必ず勝ってみせるさ」
「そこに少女達とこの国から逃げるっていう選択肢はないのか?もし、そうなるなら俺達は全力でアンタらを援助するぜ?」
「それが出来たらいいがな」
「その通りだ」
エレクトラーが、話し出す。
「例え、運良くこの国から逃げ出せたとしても…我々は逃亡者となりエーレ聖王の怒りを買い、追跡者から逃げる日々が待ち受けているだろう…あの子達を庇いながら逃げ続けるのは得策ではない」
「その通りだ…あの子達はまだ幼い少女だ、そんなあの子達に辛い思いはさせたくない…」
やはり、彼女達は善人だ。
この期に及んでも、自分達ではなく他者を気遣っている。
優しすぎる…が、今回に限ってはその思いやりも無駄だ。
奴らは間違いなく、あの子達も彼女達も…どちらに対しても悪意を振り撒いてくるだろう。
「確実に追っ手が来ない隠れ場が有ればいいのか?」
「そんな所があるなら、な」
「あるぞ」
ある。
俺は確信を込めて、そう言った。
「叛逆の神女が住んでる場所だ。アンタらは、叛逆の神女の居場所を知ってるんだろう?なら、そこを隠れ蓑に使えるんじゃないか?」
「……正気か?」
「問題あるのか?」
呆れた様子で、俺を見るマイア。
ため息混じりにエレクトラーが答える。
「問題しかないだろうが…無謀だ」
「如何にも幻界領域は未知の領域だ。そんな場所の更に奥へ向かうそんな馬鹿な真似はやめておけ」
「…………」
今の言葉。
やはり、彼女達は知っているのか。
なら尚更、諦められない。
「道中は、俺達が必ずアンタらを守ってやるさ。これでも俺達は強い…それはアンタらが一番よく分かっている筈だろ?」
マイアが、アルレイヤとディナを一瞥する。
「確かに、君は強かった…其処の2人も相当に強い…無論、我々も腕には自信がある。
だが、それでも幻界領域に脚を踏み入れるのは無謀だ…人智を超えた魑魅魍魎が蔓延る森を突破するなど…かの帝国の円卓十剣であっても進めたのは森の中盤程だ…」
へぇ、円卓十剣がねぇ…
それは良いことを聞いたかも知れない。
「なら、なおさら安心しろ」
「なに?」
円卓十剣の誰が幻界領域を突破しようとしたのかは知らない。
全員かも知れないし、一人かも知れない。
それでも、奴らが失敗した。
その事実だけが有れば充分だ。
「こんな話を聞かなかったか?円卓十剣と騎士団が全滅したと」
「ああ…聞き及んでいる」
「それをやったのが、俺達だと言ったらどうする?」
「な、なに?」
「円卓十剣と騎士団を殺したのはーー俺達だ」
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