第六十一話 決闘、死闘
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「よぉ、昨日振りだな」
俺はわざとらしく、そう言った。
「君はあの時の少年か…それで、私達になんの用だ?」
マイアが、僅かな警戒体制を取る。
が、口元は少しばかり綻んでいる。
「アンタが言ってただろ?何かを得るには、対価と覚悟を持って来いとな…だから、望み通り来てやったぞ」
「たった一人でか?」
挑戦状のチケットを受け取ったのは、俺だけだ。
だから3人でこの場に来るというのは、ルールに反する。
そしてそれは、彼女達の言った"覚悟"を踏み躙る行為に等しい。
「何が望みだ?」
「俺が勝ったら叛逆の神女の居場所と、俺の話を聞いてもらいたい」
「もし、負けたら?」
こいつは、何を言っているのだろうか。
初めから負けた時の事を考えている阿呆が居る訳ないだろう?
「俺が負ける?くくっ…」
「何を笑っている?」
「初めから負けた時の事を考える馬鹿なんているわけねぇだろうが!
それともなんだ、俺に負けるのが怖いのか?」
「……クソガキが…私達に勝てると思ってるのか?」
エレクトラーの口調が荒くなる。
というより、コッチが素なのだろう。
最強の闘神士なら今みたいな口調の方が似合ってる。
「なぁ、あの子達は大事か?」
その単語にエレクトラーから、凄まじい殺気が放たれる。
これまでの気高さなど嘘かのような荒々しい獣のような殺意。
やはり、亜人と魔族の子達は彼女達の心を動かす為のトリガー。
「貴様…あの子達に手を出すなら殺す!」
「落ち着きなさいエレクトラー、彼があの子達に害悪を加えるのような人間には見えない。」
殺意を剥き出しにする妹に対して、姉は冷静で表情も崩さない。
鋭い観察眼に加えて、どんな状況でも決して動じず物事を冷静に判断し適切な対応が出来て機転が効く、それが俺の聞いたマイア・プレイアンデルの人物像。
一方の、エレクトラー・プレイアンデル。
彼女は姉と違い、気性が荒く少し自身にとって重要な事を刺激されると冷静でいられなくなる。
似ているようで違う。
双子…だから同じ、という認識は間違っている。
顔と背丈は同じでも、心の在り方はまるで違う。
「だとしても何故!今、あの子達の事が出てくるのかしら。」
「それを知りたいのなら、俺と戦えよ。闘神士らしく、決闘で決めよう…勝者には、勝者に相応しい対価が与えられる…そうだろ?」
「フッ、その通りだ…着いてこい。」
マイアとエレクトラーが闘神場の方へ歩いて行く。
俺も彼女達の後ろを着いていく。
闘神場内に入ると、マイアが場内に居た運営側の人間と何やら話している。
そして、暫く歩くとようやく目的地に辿り着いた。
其処は今日の昼に訪れた巨大な闘技場のステージ。
昼の時は観客席からこの場所を見下ろしていた。
その時は、其処まで大きさは感じなかった。
しかし、実際に訪れると俺の想像を遥かに超える広さだった。
「運営に話は付けてある。この場に、闘神場には誰一人として居ない。
「居るのは私達と君だけだ」
なんとも気が利く。
それは非常に助かる。
俺の力を彼女達以外に知られる事はない、これは良い誤算だった。
「気遣い感謝する」
「気にしなくていい。たった一人で私達の前に現れた敬意に応えたまでさ」
敬意、か。
それに応えなくてはならないのは俺の方だと思うがな。
突如、現れて決闘を突きつけてきた俺に応えてくれた彼女達の誇り高さに敬意を表するべきだろう。
「時間も勿体無い…始めようか」
「ああ、そうだな」
姉妹が武器を構える。
姉のマイアは大きな矛。
妹のエレクトラーは大きな丸盾。
情報通りだ。
プレイアンデル姉妹は正に二人で一つ。
絶対なる防御と圧倒的な攻撃力を二人で補う双子所以の戦闘方法。
「神龍鎧装」
俺もまた、鎧を纏う。
そして、長剣を構える。
「先制は譲るよ」
「そうかーーならば、征くぞッ!!」
ドンッ
エレクトラーが地面を蹴る。
巨大な丸盾を前方で構えながら、此方に向かって一直線に走ってくる。
あんなに重そうな盾を軽々と持ち上げて、凄まじい速度で迫ってくる。
視界が狭められる。
だが、それは向こうも同じだ。
どう動くのか…警戒は怠らない。
あの大きな盾に、剣を合わせれば…安物の長剣なぞ簡単に折れてしまうだろう。
だから、神龍鎧装という絶対的な鎧でもあり武器でもある籠手で迎撃する。
刹那ーーエレクトラーの盾が俺の視界を外れ、マイアが俺の眼前へ現れる。
エレクトラーは囮。
本命は、マイア。
そして、何より…想定以上に間合いが遠い。
息の合った連携。
双子だからこそ、完璧なタイミングを掴める。
「ーー『凪』」
ブォン!
風切り音が鳴る。
異常な腕力から放たれる強力な一振り。
矛が有り得ない角度まで撓りながら、迫り来る。
咄嗟に、腕を交差させて防御態勢を取る。
ーーゾクッ
瞬間、腕が粉砕される未来が脳裏に浮かぶ。
防御を捨てて、身体を仰け反らせる。
フォン!
と、俺の顔を矛が通過する。
休む暇もなく、エレクトラーの大盾が振り下ろされる。
俺はエレクトラーの腕を蹴り、軌道を逸らす。
ドゴォン!
逸らされた盾は、闘神場の固い地面に突き刺さる。
俺は転がりながら距離を取る。
「我らの必勝戦法を凌ぐとは…」
マイアが驚いた様子で、俺を見据える。
「しかも、姉上の一撃が防御不可だと悟り咄嗟に回避した反応速度…見事です」
エレクトラーもまた、賞賛の声を上げる。
「ですが、今のは小手調べ…次は、本気だ!」
フッ
エレクトラーが、再び特攻。
前方から、巨大な丸盾が此方に向かって迫ってくる。
気配察知が背後に現れた気配を捉える。
その正体は、マイア。
大矛をありったけの力で横に薙ぐ。
(疾い…)
横に飛び、回避…
「「ーー『覇砕』!!」」
大盾と大矛が衝突する。
大きな衝撃音と共に凄まじい衝撃波が爆散する。
龍斗は咄嗟に防御するが、その腕は凄まじい衝撃波によって弾かれ身体は後方に吹き飛ばされる。
「くっ…!」
致命傷には届かなかったが…
耳が聞こえない、鼓膜が破れた。
完全に見誤った…あの挟み攻撃に失敗などなかった。
どんな形であっても、アレは放たれていた。
「これも…か、君はこれまで出会ったどんな敵よりも手強いな」
「ですが、次で終わりです」
少し、油断していた…
この2人は俺の想定していたよりも一回り上を行く…
なんて…なんて嬉しい、誤算だろうか。
彼女達は絶対に、手に入れる。
「少し舐めていた…最強の闘神士ってのを俺は何処か舐めてたのかもな…強くなった気でいた、あれだけ油断も慢心もしないって自分の心に言い聞かせていたのにな」
アレだけ偉そうにしておいてこのザマだ。
やっぱり俺は、どうしようもない愚者だ。
「だから、もう油断も慢心もしない…全力を持ってお前達を打ちのめす」
想定よりも早いが試す時が来た。
ディナとの修行で身につけた新たな神龍鎧装。
空気が変わる。
2人もまた、これまでとは違う空気に気付いた。
警戒度を上げる。
「ーー『神龍鎧装・改』」
ガシャン、ガコン…
鎧が変化する。
更に禍々しく、更にゴツく。
背中に機械型の龍の翼が還元する。
神龍鎧装・改…
新たに習得した神龍鎧装の進化。
通常のモードよりも更にMP(魔力)を消費するが、その能力は完全なる上位互換。
「姉様…これは」
「ああ…『龍』か」
2人の額に、汗が流れる。
猛者だからこそ、理解する。
アレは…正真正銘の怪物だと。
だが、彼女達は決して武器は捨てない。
かつての戦友達の名を汚さぬ為にも。
「時間が掛かってすまなかった…待たせたな」
力が溢れる。
魔力が高まる。
思った以上に、強化されてる。
「行くぞ」
龍斗の姿が変える。
「ッ!?」
突如。
エレクトラーの目の前に拳を振り抜こうとする龍斗が現れる。
慌てて大盾を構える。
龍斗の拳とエレクトラーの盾が衝突する。
「ッ!!?」
放たれた拳が彼女の盾を弾き飛ばす。
ガラ空きとなった腹部に、龍斗の放ったもう片方の拳がめり込む。
「ゴハッ!?」
口から吐血し、エレクトラーの身体が後方に吹き飛ばされる。
「エレクトラーッ!」
マイアが、矛の柄を握る。
龍斗の姿が再び消えている。
全方向を警戒し、反撃の様子を伺う。
「!そこかッ!」
気配がした方向に矛を振り下ろす。
が、その矛は空気を斬り裂いただけだった。
ハッ!としたのも束の間、マイアの眼前には龍の手のような籠手が迫っていた。
「ーー絶技『龍爪拳』」
矛の柄を寸前で拳と顔の間に出す。
しかし、その威力は凄まじく拳が彼女を撃ち抜いた。
巨体が、後方に飛ばされる。
血を吐きながら、矛の柄の尻を地面に突き刺して何とか壁との衝突を避ける。
ピシッ、バキッ
兜のバイザーが半分割れ、碧い瞳が姿を現す。
マイアは、戦慄する。
先程までは、両者の実力にそれほどまでの差はなかった。
ステータス面では龍斗が優っていても、これまでの戦歴と経験がそれを掠めていた。
が、今は違う。
両者の間には、埋める事の出来ない壁があるのだ。
チラッと、エレクトラーの方に目を向ける。
「くっ…」
傷が深い。
たった一撃で、あのダメージだ。
次は耐えられないだろう…だから、次で決める。
「エレクトラー、アレをやるぞ」
「はい!」
2人が立ち上がる。
そしてエレクトラーが、巨大な盾を勢いよく回転させる。
激しい回転速度が、竜巻を起こす。
「我が怒りは嵐となりて 憎き汝らを喰らう旋風とならん
ーー『旋風よ、蹂躙せよ嵐』!」
吹き荒れる竜巻が、龍斗へ向けて放たれる。
「絶技ーー『災禍の門』」
右腕を上げ、掌を突き出す。
眼前に災禍の渦、門が開かれる。
全てを否定する反射術式が、強大な竜巻を弾き返す。
「化け物め…があっ!?」
エレクトラーが竜巻に巻き込まれて、壁に衝突する。
そしてそのまま意識を失う。
「そして、上か」
上を見上げる。
やはり、何処までもエレクトラーの攻撃は布石。
本命は、マイアの矛による一撃か。
「我が一撃は、国をも断つ!ーー『国墜』」
流星のように、勢いよく降下してくる。
回避は間に合わない。
ならば、迎撃するのみ。
拳を握り締める。
籠手の肘に備わっていたマフラーから莫大な魔力が噴射する。
音速を超えた速度で、拳を振り上げる。
「絶技ーー『天螺』」
螺旋を描き放たれた一撃が矛の刃と衝突する。
激しい力と力のぶつかり合いによって、魔力が稲妻となって奔る。
せめぎ合い…とはならず、龍斗の絶技『天螺』がマイアを撃ち抜いた。
「見事…だ」
マイアは満足そうに笑い、地に倒れた。
この話が面白い!続きが気になる!と思ってくださった方は是非、評価や感想を宜しくお願い致します!




