第六十話 此方を引き込む一手
次回の更新は金曜日の13時:00分です。
「私も全く同じ情報を手に入れました。」
「最後の試合か…勝てれば1000勝、確かに引退するにはキリがいいかもな。」
「確かに…」
「或いは…自由の権利を買う程の金額を稼げたからか。」
おそらく、前者ではないだろうか。
流石にそれだけ勝ち抜いているなら相当の報酬を稼いでいる筈だ。
「まだ、情報はあるんだろ?」
俺がそう問い掛けると、アルレイヤが反応を示す。
「後者ですが、彼女達自身の自由を買う金は既に手に入れているらしいです。それも、100勝した時点でです。」
「ほう?それじゃ彼女達は何の為にそんな気が狂う程の試合数を重ねているんだ?」
分からないな。
なんで彼女達は闘神士を続けているのだろうか。
恐らく何らかの理由がある筈だ。
「そこでもう一つ、気になる情報が…」
「酒場での話を覚えているか?例の子爵の屋敷に居る魔族の双子」
「ああ…」
確か、酒場で話を聞いていた時に男がそんな話をしていたな。
子爵の屋敷で"魔族"と"亜人族"の子供がメイドとして迎えられたと。
「これが、詳しい情報の書かれた物です。」
小さめの羊皮紙を手渡してきた。
中身を開ける。
「なるほどな。」
「姉妹と共にこの国に奴隷として連れてこられた魔族と亜人の娘…現在、子爵との何らかの事情によってこの子達はメイドとして働いているそうです。」
「姉妹とこの子達は元々、知り合いだったのか?」
「ええ、聞く所によるとプレイアンデル姉妹の国は亜人との交流があったそうです。」
「へぇ?勇者国は、そういった繋がりを嫌ってる筈…つまり、姉妹の居た国は非勇者国か。」
かなり、複雑だな。
だが、一つ言えるのは勇者国をよく思っていない事は確かだろう。
自国を滅ぼした勇者国に忠義があるとも思えないしな。
「さてと、どうするか。」
あの酒場での一件を思い返す。
あの場では流されてしまったが、彼女達の誠意に応えれば相応の対価を返してくれる筈だ。
叛逆の神女と彼女達の間には、何らかの事情がある。
例えば、叛逆の神女に恩があるとか。
そうなると、ただ俺が武威を示した位じゃ話してくれないかも知れない。
だからこそ、2人に情報収集を頼んでおいてよかったな。
「しかし…」
交渉材料…彼女達をこちら側に引き込む鍵が足りないな。
金銭面で彼女達を引き込むのは難しいだろう。
かといって脅す、というのも逆効果だ。
大人しく、諦めるか?
いいや、それはない。
あの二人は間違いなく、利用価値がある。
此処で手に入れておくべきだ。
「そして、最後にとっておきの情報があるぞ。」
「なに?」
まだ、あるのか?
俺の予想以上に多いな。
「よくそんなに情報が集まるな。」
フッ、とディナが笑う。
「情報を欲するならば、それを専門とする者に頼ればいいと思わぬか?」
「情報屋か。」
如何にも。
と、ディナが答える。
「このエーレ聖王国は情報の国でもあります。勇者国の中でも情報屋の取り締まりが緩和的であり容認されている節があるのです。彼等を見つけた後は、授かっていた宝石類を換金して得た金銭を持ち報酬として交渉すれば簡単に雇う事も可能です。」
なるほどな…
どんな事もプロに任せるのが手っ取り早いからな。
しかし、情報屋か…盲点だった。
元の世界では…いや、やめておこう。
やはり、アルレイヤは起点が効くな。
ディナも、こういう時は頼りになる。
「勝手な行動をした事は謝ります。」
「いいや、気にしなくていいさ。それに、好きに動いてくれて良いと言ったのは俺だしな。そこら辺の判断は任せてたし。
寧ろ、情報屋に頼むってのは最善手だったと思う。」
逆に、ナイスと褒めてやりたい。
「それにしても情報屋か…元の世界では比較的に馴染みの薄い言葉だな。」
「この世界でも、情報屋という言葉を知っているのは少ないと思いますよ。彼等の殆どが闇に紛れ身を潜めています。
そして彼等もただ報酬を払えば情報を売ってくれるとは限りません。」
「というと?」
「彼等にも彼等の流儀があります。情報を売るに足る人間が否か…それを的確に判断し、選別する能力にも長けています。私は父上よりそういった時の作法などを学んでいましたので…」
"作法"、つまり暗号とかそういった感じのものだろう。
彼等は情報のプロであり、絶対に他者に簡単に秘密を漏らすような真似をしてはならない。
「彼等にも流儀があるしな。それで、その情報っての何なんだ?」
「それはーー」
アルレイヤの表情が曇る。
「闘神士に"最強"の称号に名を連ねる闘神士達は皆…最後の試合で死亡しているそうです。」
「ーーへぇ?」
それは少し、穏やかじゃないな。
更に詳しく聞くと、歴代の最強の闘神士全員が満遍なく死亡または行方不明となっているらしい。
偶然、とは言えない。
最後の試合で慢心して死んでしまう…というのはある意味では納得出来る。
が、行方不明というのはどうしても引っ掛かる。
「最後の試合で死んでしまう…それはある意味、納得は出来る。」
「ええ…」
今、周囲には誰もいない。
万が一、俺達の会話が聞かれては困るからな。
「死亡した闘神士の試合が行われる前日に、スポンサーでもあるアリエーゼ子爵と会合しているらしいです。」
一見、それだけ聞いても疑うような事はない。
スポンサーが選手と会う、と言うのは不思議ではない。
「その会合を終えた後から、闘神士の体調が芳しくない様子が確認されているそうです。」
「……ほぅ」
それは、疑わしいな。
いや、間違いなく裏がある。
「更に、です。ここからが寧ろ、重要かも知れません…」
「なんだ?」
「ある情報屋の話によると、アリエーゼ子爵の屋敷で働いている一人の侍女が酒の席で、酔った勢いである事を彼に話したらしいです。
『子爵の屋敷で匿われている魔族と亜人族の女は姉妹が試合している間に性奴隷として貴族の間で売り飛ばされる!
そして姉妹は、試合中に命を落とす』と。」
有力すぎる情報だ。
それが、本当だとすれば…
「よし。やるべき事は決まった…」
アルレイヤが苦悶の表情を浮かべて、言葉を発する。
「なぜ、そのような事を…」
どっちに対して、そう言っているのか。
恐らく、アルレイヤならどちらに対してもだろう。
姉妹に限らず、最後の試合に闘神士が死亡する。
その筋書きを描く運営側の考えは理解出来る。
例えば、最後の試合で最強の名を欲しいままに手にしていた者が無名の闘神士に討たれる。
すると、どうだろう。
客は、新たな英雄の誕生によって大いに盛り上がる。
「ここまで言えば、わかるだろ?」
「うむ。」
「最強の闘神士を討ち破った闘神士は次の"最強"の名を継ぐ戦死の筆頭になる?」
「そう、つまり世代交代ってやつだ。」
漫画やアニメだったら間違いなく盛り上がる。
最強がまだ無名の戦士によって敗れる。
新たな時代が始まる合図となる。
「そんな、身勝手な…!で、ですが、闘神士の全員が死亡した訳ではありません!自由の身を手に入れた者もいます…」
「そりゃな。大して人気も客寄せの価値もない闘神士が何処で好きにやろうとどうでもいいだろ?」
確かに、と。
アルレイヤが頷く。
そう、確かに自由の身を得た者もいる。
だがそれは、敢えてそうしたに過ぎない。
全員を始末しようものなら、運営は必ず疑われる。
だから、人気のなく利用価値がない闘神士は野放しにしておく事で闘神士は自由に"希望"を持つ。
「999勝した正に最強の英雄が、なんの戦歴も無い無名の戦士に討たれたらどうなる?」
「そんな人物を討ったとなれば、間違いなく莫大な人気を手に入れる…」
「そうだ。」
プレイアンデル姉妹という、最強の象徴。
それを討った者が得られるのは、絶対なる栄誉。
次の最強の名を欲しいままにし、莫大な人気を誇る事になる。
「納得出来ない、そんな顔だな。
闘神士の観客が好きなのはただのプレイアンデル姉妹じゃない。
自分達の"賭けた時に莫大な利益を生む"存在がたまたま彼女達だっただけだ。
だから、観客からすれば彼女達が死んだらその試合は大損だが…彼女達を殺した次の闘神士に賭け続ければ再び莫大な利益を得る事が出来るだろ?」
これが、真実だろう。
俺だって、そうかも知れない。
「ッ……確、かに…」
納得したくないが、してしまう。
と言った所だろうな。
優しすぎる彼女からしたら、受け入れ難い事実だろう。
まぁ、ここら辺は重要でもなんでもない。
「それで…どうするのでしょうか、子爵の魔の手が伸びる当日を狙って彼女達を救い出すのですか?」
「いいや?当日までまた必要はない。」
そんな手間を取るよりももっと、手っ取り早い方法がある。
出来る限り、面倒事を起こす事は避けるべきだ。
最も簡単な方法で彼女達を此方側に引き込む。
悪いなアリエーゼ子爵とやら、お前達の思い通りには行かない。
「よしそれじゃ、俺の考えはーー」
2人に俺は今後の作戦を説明する。
ーー
その日の夜。
プレイアンデル姉妹は子爵の屋敷に匿われている魔族と亜人族の子と面会した帰り道を歩いていた。
「姉上。」
妹のエレクトラーが何かに気付き姉のマイアに声を掛ける。
「……あれは」
嫌というほど見た巨大な闘神場の大門の前に、見慣れない人影があった。
その人影は、姉妹を見つけるとニヤリと笑い彼女達の目の前に立つ。
「よぉ、昨日振りだな。」
「君は…」
マイアは、その男の顔に見覚えがあった。
それは昨日の夜。
行きつけの酒場で、自分達に"あの方"の事を聞いて来た男だ。
「何用だ?」
「其方の妹さんが言った通り…"覚悟"と"対価"を払いに来たぞ。」
エレクトラーとマイアは、その言葉に少し嬉しそうに口角を上げた。
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