間章 動き出す世界
次回、五章開幕です。
次の更新は、水曜日です。
ーー円卓十剣、壊滅ーー
ーー叛逆姫、死亡ーー
その報が真っ先に届いたのは、無論。
彼等を束ねるブリテン大帝国の女帝であった。
ドンッ!!
と、凄まじい物音が響く。
かの女帝の行動に他の国々の王が驚嘆する。
此処は、エーレ聖王国とマリア神聖国の狭間。
ある目的の為に、各国の王が集まる古城。
遥か北方には、人類の脅威。
魔神が統べる魔界大陸、そして幻界領域が広がっている。
陥落した大結界が破壊された今、この古城こそが最後の砦でもある。
そして、城内。
勇者国や同盟国の錚々たる面子が円卓を囲み、顔を並べている。
エーレ聖王国の征服王。
側に控えるは、聖王国最強の"勇者"である五勇士の長。
マリア神聖国の女皇。
左右に控えるのは、"女皇の両翼"と呼ばれる使徒。
そして背後に控えるのは、マリア神聖国唯一の勇者である"聖女"。
この会合唯一の非勇者国。
アネット小国の女王。
側に控えるのは、竜誓剣団の団長。
ブリテン大帝国の女帝。
隣に座るのは、龍神ウェールズ。
側に控えるのは、円卓十剣最強"第一席"。
ヴィーナス勇王国の女神ヴィーナス。
背後に控えるのは、騎士団長レジーナ。
それぞれの王は、古の転移魔法陣を通ってこの古城へと集まる。
現在、動きこそないが大結界が破壊された事で魔神の軍勢が攻めてくる危険性がある。
その為、マリア神聖国とエーレ聖王国に加えて各国の精兵が大結界より少し手前で前線を張っている
勇者国は、魔神の軍勢に対する絶対的な同盟国。
危急があれば即座に精鋭を動かしての対応する事が定められている。
が、全てではない。
当然だが、各国とも十分な戦力を国に残してある。
「円卓十剣がやられるとはな。」
報告を聞いた征服王が言葉を漏らす。
「だが同時に、叛逆姫も死んだと聞いたが…」
尊大さを感じさせる声色。
「そして、アネット小国が遺体を回収したと聞いたが?」
征服王がアネットの女王に問いを投げる。
やはり来たか、と。
彼女はため息を吐く。
アネットの領土近くで起きた出来事なのだ。
彼らの死体を見つけたのは竜誓剣団。
調査の結果、王城へとやって来たアルレイヤの衣服と特徴が一致していたので帝国に送った。
(あの時、私達が庇っていれば結果は変わっていたのだろう。が、我々では勇者国を、相手にすれば滅んでしまう。)
「ええ。そして遺体を調べた後、叛逆姫だと判断し帝国に渡した。」
正面を見やる女王。
女帝は至って冷静を装っているが、その表情には微かな怒りが混じっていた。
少し違和感があるとすれば、あれだけ求め狂っていたアルレイヤの死体を手に入れたにも関わらずその事に関して一切の歓喜がない。
円卓十剣の死だけに、憤りを感じている。
だが、それほどまでにこの損失は痛い筈だ。
エーレ聖王国の五勇士。
マリア神聖国の聖女と神聖騎士団。
アネットの竜誓剣団。
ヴィーナス勇王国の三代使徒と女神騎士団、そして勇者達。
ブリテン大帝国の円卓十剣と円卓騎士団。
各国を代表する最大戦力。
ブリテンはその半分を失った。
損失を考えると、計り知れない。
正直、円卓十剣の件。
アネットにとってはこれ以上ない朗報でもあった。
脅威であった帝国が少なからず弱体化したのだから。
「その件に関してはアネット小国の強力に感謝する。」
女帝が、そう声を上げる。
「だが。」
冷たい声が、城内を凍てつかせる。
威圧感を与える鋭い目つき。
銀白の髪に瞳。
正に氷の女王。
深みのある、発言。
「叛逆姫アルレイヤ・ペンドラゴンは生きている。」
その言葉に、城内に居た殆どの者がは?と声を漏らす。
「どういう事だ?」
と、虚偽を確かめるように征服王が問い掛ける。
女帝は一切、征服王の顔を見ずに淡々と答える。
「あの死体、あれは偽物だった。あれ程までに完璧な偽装魔術は初めてみた。初見、この私でさえ騙された…微かな違和感を感じ、調べてみた所…あの死体は偽物だという事実が分かった。
が、円卓十剣の死体は確かに本物だった。」
「では、つまり…」
「アルレイヤ・ペンドラゴンはまだ、生きている。」
衝撃の事実。
例外なく、誰もが衝撃を受ける。
ただ、女神を除いて。
「女神よ、事の顛末を話してくれるか?」
女帝が、そう声を掛かける。
「いいでしょう」
徐に、女神が前へ出る。
美しい美貌。
魅惑的な身体付き。
そして、感服するほどの落ち着きよう。
(流石は、女神…勇者国の長。)
女神、いや勇者国が嫌いなアネット小国の女王も女神の堂々たる在り方には敬意を表していた。
数万年を生きる謎多き神族。
聞けば、神族の寿命は本当の意味で永遠に等しいのだとか。
竜の血を引く末裔である女王と竜誓剣団の寿命はせいぜい人よりも2倍多い程度。
「一番、詳しいのは女帝だと思うのですが…一応、めぼしい情報は全て把握しています。
まず、彼女が発見されたのは帝国…いや、勇者国の管轄外れた辺境の村です。」
聞けば、正体がバレるまでの間。
叛逆姫こと、アルレイヤはその辺境の地で身を潜めていた。
「しかし、彼女は栄光の渇望者と呼ばれる傭兵達に正体がバレて邪の森へと逃亡していました。」
其処は、女王も把握していた内容だ。
栄光の渇望者と言えば、この辺りでは有名な傭兵集団だ。
数々の依頼を淡々にこなし、リーダーの"剣鬼"は勇者の末裔でもあった。
「しかし、邪の森で剣鬼を含めた全員の死体が確認されています。そして、円卓十剣を含めた円卓騎士団の死体もまた確認されました。最も、死体の状態は酷く森の魔物や獣に食い荒らされていましたが…」
「では、本物は何処へ?」
「不明です。しかし…現場には円卓十剣と偽叛逆姫の血痕の他に、何者かの血痕が北方面に続いていました。」
「ふむ…アルレイヤ・ペンドラゴンは我の国に逃げ延びた、という事も考えられると?」
征服王が、不満そうに言葉を漏らす。
「う〜ん。現場の査察官の報告では、その血痕も大量だったそうで普通に考えれば、出血多量で死亡するだろうと聞きました〜」
相当な深手を負っている、と。
となれば、襲ってきた魔物や魔獣に殺され喰われた。
という線も捨てきれなくなってきた。
征服王が再び、問う。
「かの叛逆姫は、凄まじい治癒能力を持つと聞いたが?」
その言葉に女神が、僅かに反応する。
そして、こう答えた。
「確かに…噂に伝え聞く事が本当であればーー「それは、ない。」
沈黙を貫いていた、女帝が言葉を発する。
「あの女の聖剣の力は、その大半が封じられている。封じられた力には驚異的な再生能力も加わっている。」
「なるほど〜、ならばその線はない、と考えた方が良いですね。」
女神が、納得する。
「女神よ。貴公が所有するかの遺跡に逃げ延びた、というのは?」
遺跡…あの、邪神龍、いや神龍様が封じられているというあの禁足の地。
アネット女王は知っている。
かの神殺ノ遺跡に隠された真実。
あの遺跡は女神にとって不都合となった者を葬る為に使わられる遺跡。
「それはありませんね〜!報告書にそのような事は記されていませんでしたからぁ!」
あの、笑み。
あの笑顔に、ありとあらゆる感情が混じっている事をアネット女王リュネオは知っている。
だからこそ、これ以上は踏み込んではならない。
此方は非勇者国の立場。
つまり、ここにいる国々とは言ってしまえば敵対国ということになる。
それでもアネットが無事でいるのは、竜誓剣団の尽力とリュネオの手腕のお陰である。
邪神龍を信仰しながらも生きながらえている事が何よりの証拠でもあった。
「ところでーー、此度のヴィーナス勇王国への派遣の話はどうなっているのです?」
「ああ、そう言えばそんな話も出ていたな。」
女神も、ぽんと手を叩きその話を始める。
「そうでしたそうでした!来るべき戦いに備えて彼等には相応の力と経験を付けて貰わなくてはなりません。そこで、勇者国より選りすぐりの戦士を派遣して欲しいのです!」
異世界の勇者達。
そういえば、女神も勇者を召喚したと聞いていた。
「ふむ…それで、其奴らは我らが育てる資格はあるのか?」
征服王が、女神に鋭い視線を向ける。
征服王は生粋の武人である。
強き者こそ絶対を掲げる征服王の元に集まった勇者達もまた最強を誇る戦士達。
そんな征服王は勇者の血を引く一人で、今の聖王国があるのは彼と彼の率いる勇者達が多くを犠牲にして創り上げたおかげでもある。
「ええ、あります。彼等は、魔神とその軍勢を討ち倒す才があると私は確信しています〜!しかし〜、なにぶん癖が強くてですねぇ〜、扱いづらい勇者も居るのでー、少し教育もしてほしくてですね??」
女神は、そう自信満々に答える。
それ程までに此度の勇者達は豊作なのだろう。
アネット小国としては、少しやるせない。
これ以上、強力な勇者が増えても困る。
勇者たる勇者ならば良いが…先の受付嬢達の一件といい…勇者国より召喚される勇者や勇者国に住まう民達は些か、問題しか起こさない。
(ああ、そう言えば…その一件で、受付嬢達を助けてくれた冒険者達が居たわね…竜誓剣団の子達も彼等を探したけど、見つからなかったのよね。)
アネットとしては良くやった、と礼をしておきたかった。
「来るべき戦争の為にも勇者という強力な戦力は育てて置いた方が良いでしょうし!」
女神が微笑む。
だが、その通りだ。
魔神とその軍勢の放つ強力な呪いに対抗出来るのは異世界より来たりし勇者のみ。
彼等が倒れれば、人類はなすすべなく滅びるだろう。
「…ふん。なら、五勇士からセタンタを送ろう。」
「まぁ!ありがとうございます!」
「帝国からも、円卓十剣を送ってやる。良いな?モルガンよ。」
「いいでしょう。」
「では、アネットも竜誓剣団を。」
「まぁまぁ!感謝感謝ですッ!」
女神は、ご機嫌そうだ。
「皆様の協力、ヴィーナス勇王国の女王として…女神として感謝します!所で〜、マリア神聖国は〜どうでしょうか?」
チラっと、リュネオがマリア神聖国の女皇を見る。
いやしかし、いつ見ても美しい。
マリア・ヨハン・フランシェス。
美しい純白の長髪。
絵に描いたような美貌と醸し出される慈愛。
これまで、彼女は一言も話さず会話を聞いていた。
ニコニコと、まるで生まれたばかりの赤子を見守る様な笑顔で…
ここに至るまで、たったのひと言も喋っていない。
「勿論、協力致します。しかし、魔神ばかりに執着していると…足元を掬われるかも知れませんよ?」
まずは、了解。
そして、次の言葉は何らかの警告。
心が落ち着くような、優しい声色。
包み込まれるような声に、正気を失いそうになる。
女神が首をかしげる。
「うんとー、どう言う意味ですです?」
「敵は…魔神だけではないかも知れませんよ?って事でございます。」
「んんー??他にどんな敵がいるのですかぁ?」
「貴女を憎む…神からの刺客。とか?」
何を言ってるのだ、と。
誰もがそんな顔をしている。
女神も、意味不明な表情を見せる。
「あり得ませんよ〜仮に私を憎む者が居たとしても、勇者国を敵に回すのは正気とは思えませんー。だから、絶対に有り得ません!」
そう、言葉を返す女神。
その笑みに僅かな苛立ちが覗いている。
「なら、世界を敵に回してでも貴女を憎む者は居ないと?」
(分からない…なぜ、女皇マリアは此処まで女神に絡むのか…)
「はい!」
「その言葉に嘘偽りはない?」
「…………んー? 長いですねぇ~、まだこの話続けるのですか?しつこいような気もするんですが…私が居ない、と言ってるので居ないのでは?ええ、居ないのでこの話は終わりにしませんか?それとも、まだ続けるんですか?」
リュネオはため息を吐く。
女神は、キレている。
こう言う言葉が長く続く時は大抵、頭に来ている証拠だ。
女皇も一体、何を考えているのか…
「そういえば、面白い話を聞いたのですが…アレは、そう…女神が、殺されたーー「あのー、何でしょう、やめてもらえます?」
女皇が、美しく微笑む。
「私ったら、ついつい!」
ワザとらしい…
「それで、マリア神聖国からは誰を派遣してくれるのでしょうか??」
「聖女を。」
「はい、ありがとうございます!」
リュネオは、再びため息を吐く。
(何とか、収まったかしら…)
「さ、会議を再開しますね。」
女神が手をパンと、叩く。
すると、映像が空間に浮かび上がった。
それは、エーレ聖王国とマリア神聖国の北に広がる対魔神防衛地点だった大結界の映像だった。
「この前、あの大結界が突如として現れた魔神の軍勢によって破壊されてしまいました。その後、特に目立った動きはなかったのですが…先日、魔神軍に僅かな動きがあったそうです。
これは、いよいよ本格的な魔神による侵攻が始まると私は思っています。
なので、これはより一層…勇者国同士、協力しなければなりません。」
と、女神が真剣な表情で言った。
「ふむ…一人、協力に否定的な女が居るがな。」
征服王が、女皇を睨む。
「私ですか?」
「その薄っぺらい笑みはやめろ。」
「おい、貴様。誰に口を聞いている?殺すぞ。」
女皇の右隣に控えていた、大女が口を開いた。
「フン、ならば試してみるか?」
「はい、そこまでです。」
女神が、手をパチンと叩きその場を収める。
神聖国と聖王国は、決して仲良くない。
寧ろ、仲が悪い。
征服王としては、ふわふわしている女皇の態度が気に食わないらしい。
「それで、他に質問とかはありますか?」
「女帝よ。仮にアルレイヤの死体が偽物ならば本物は円卓十剣と騎士団をたった一人で壊滅させたのか?」
そう、そこだ。
実の所、女神も各国もアルレイヤ・ペンドラゴンについては然程詳しくない。
彼女が女王として君臨したのは、一年にも満たない。
そして此処に居る殆どの者が、彼女を知らない。
「仮にアルレイヤがあの円卓十剣と騎士団をたった一人で相手取り、それを壊滅させたのなら警戒すべきだが…」
「それは、不可能だ。今のアルレイヤが円卓十剣と騎士団、そして龍をたった一人で壊滅させるなど有り得ない。」
「では、他に何者かが裏に居ると?」
リュネオは、思う。
仮に、それが本当でも恐ろしい事に変わりはない。
この世界に住まう者なら、帝国が誇る円卓騎士団と龍を同時に相手取る事の異常さが分かるだろう。
それを相手に、壊滅にまで至る者が居るのなら…それは危険かも知れない。
「その可能性を考慮すべきだ。」
「そうですね…私も調べてみましょう。仮にその者が勇者国に敵対する意思を持っているならば…我々は、総力を以ってコレを葬らなければなりません。」
そんな最中、一人の兵士が部屋に入ってくる。
そして、征服王の元に近寄り耳打ちをする。
「ほう?」と、征服王は興味深そうにつぶやいた。
「女神よ、そして女帝よ…今し方、面白い情報が入ったぞ。」
その言葉に、皆が耳を傾ける。
「どうやら、我が国で叛逆姫と円卓十剣を葬ったとほざく傭兵団がいるそうだ。」
この話が面白い!続きが気になる!と思ってくださった方は是非、評価や感想を宜しくお願い致します!




