第五十二話 対価
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「女神と、勇者達へ…」
その名を聞いたアルレイヤの顔は、意外にも冷静。
パーシヴァルとのやり取りで聞いていたからかも知れない。
分かりきって敢えて質問したのだろう。
「これから話すのは俺が復讐者へと変貌するに至った話だ。」
「聞かせて、下さい。」
もう、隠す必要もない。
アルレイヤなら、明かして問題ない。
俺は女神とクラスメイト達との間にあった出来事を話した。
女神と勇者達に痛め付けられ、神殺ノ遺跡へと送られた事。
そして其処で俺を召喚したヴォーディガーンと出逢い、遺跡から生還した事を話した。
「そして、今に至る。」
話を聞き終えたアルレイヤの、表情は暗い。
「まさか、女神がそのような神物だったとは…」
アルレイヤの認識では、女神は勇者国の絶対なる象徴であり誰に対しても分け隔てなく慈悲深い神であったらしい。
なんとも笑える話だろうか。
あの女神の異質さは、召喚された時に薄々と感じていた。
神殺ノ遺跡については、邪神龍ヴォーディガーンが封印されている危険な遺跡で誰一人として近付いてはならない。
と、女神より厳命されているらしい。
「そして、神殺ノ遺跡がそのような意図で使われていたとは…私も知りませんでした。」
なるほど、如何に女神とてそれを知られると都合が悪い事もあるのだろう。
アイツは、用心深いタイプっぽいしな。
「女神にとって邪魔な存在があの遺跡に送られていたんだろうな。アルケイデスもその一人だったという訳か。」
アルケイデスの名に、アルレイヤが反応する。
「なんと…アルケイデスもその遺跡に…」
「ああ、彼の遺した書物のお陰である程度の常識を知った。」
「そう言えば、何故貴方はそのような被害に遭われてしまったのでしょうか?」
あれ、話してなかったか?
「勇者の格を決める儀式で俺は、『無能』という判定を受けた。ランク無し。
そして、俺を地下牢に繋ぎ他の勇者達の殺しの練習台にさせられた。」
「なっ!?」
あまりにも非道すぎるッ…とアルレイヤが言葉を漏らす。
そうこれが普通の反応だ。
だが、奴等は違った。
愉しんでた。
自分よりも弱い惨めな存在を目にして優越感に浸り、欲望や快楽のままに俺を痛めつけた。
そういう点ではゴミ女神の目論見は成功だと言える。
「では、その力は?」
「この力は俺を本当の意味で召喚したディナから得た力さ。」
追放された遺跡で瀕死のヴォーディガーンと出会った。
そして、俺は彼女に召喚された勇者だった事実。
彼女の番いとなり、俺を陥れたクラスメイトと女神を皆殺しにすると決めた事を話した。
「そうだったのですね…でも確かに、女神とヴィーナス勇王国は謎が深い国としても有名でした。彼女によって召喚された勇者や国民は女神至上主義である者が多いらしいとも。」
ヴィーナス勇王国にとって、女神は絶対なる象徴。
女神の言う事が正しく、それが悪である事さえ正しい事になる。
しかし、召喚されて間もないクラスメイト達の変貌…何か裏があるのかも知れない。
例えば、女神の力によって洗脳を受けていたり…とか。
まぁ、それが事実だとしても俺が手を緩めることは無いがな。
「ディナと出会ってなかったら俺は何も為せないまま死んでいた。だから、ディナには感謝しても仕切れない。」
「ふっ、それは我も同じだ。お前と出逢ったお陰で我はこうして自由となった。」
お互いにとって運命を変える出会いだったのは間違いない、か。
「今回ばかりは、女神のその所業が逆に自分の首を締める結果になるとは思いもしなかったでしょうね。」
「そういう訳さ。あそこで俺を殺しておけば…結果はまた違っただろうな。」
アルレイヤが、真剣な表情をする。
「皮肉ですが、女神が貴方を追放したお陰で私も命を救われたのですね。」
確かに、そうかもな。
俺達と出会っていなければ、アルレイヤは今頃…殺されていたかも知れない。
「理由は分かりました。」
「悪いな、胸糞悪い話をしちまってよ。」
俺は嗤う。
「だから俺は誓ったのさ。この憎い世界をぶち壊すってな。」
声高らかに、天に手を伸ばす。
「俺を、俺達を裏切ったクソ野郎共を皆殺しにする。容赦も手加減もしない…そして俺を邪魔する奴らも総じて皆殺しにする。
アンタが重んじる騎士道に反する最低で下劣な行為だ。俺達は既に穢れている…だが、アンタはまだ美しい心のままだ。
だから、アンタまで巻き込むつもりはない。」
「そうだ。これから我らが行うのは残虐で凄惨な復讐だ。付き合う必要はない。」
俺達は本気で、アルレイヤを巻き込むつまりはない。
彼女の在り方を見ていたら、共犯者として引き込む気すら失せてしまった。
だが、彼女の答えは違った。
「いいえ。私も根本は貴方達と変わりません。それにリュートさんとディナさんは私の命を救ってくれた…その恩義に報いる為にも…」
地に跪き、剣を掲げる。
「私は貴方達のーー剣となりましょう。」
ゆっくりと、頭を垂れる。
元女王と言うより、騎士と言った方が相応しいような。
「あの日、女王であった私は消えました。今の私は姉への復讐を望む一人の騎士です。」
「復讐は決して褒められるものじゃない。」
当然だ。
復讐とは、何処までも身勝手で独りよがりな行為。
称賛などされる筈もない。
「この復讐は俺達だけの物だ。多くのものがこの道を愚かであまりにも人道を外れた行為だと否定するだろう。当然だ、俺達はただの憎悪で人の命を奪おうとするのだから。」
「ならば私も同じです。」
「…………」
アルレイヤは目を開き、俺達を見る。
「私もまた復讐に囚われた身、もはやかつての誇りは穢れています。そしてこれからも…だからこそ、私もまた貴方達を肯定しましょう。」
「…………」
「貴方達の剣で在りたい…そう思っています。」
ったく…何処まで、コイツは…
完全に信頼しきっている…俺達をどういう人間なのか知っても尚、恩義を突き通そうとしている。
あれ程の警戒心は何処に行ったのだろうか…いや、コレが本来のアルレイヤなのだろう。
「そうか…ま、好きにすると良いさ。」
「ええ。」
まさか、ここまで信頼されるとはな。
なら、悪いな。
コレを利用しない手はない。
おそらく今の彼女なら、俺達を裏切る事は決してあり得ないだろう。
金での契約なら、或いはあったかもしれない。
金ではなく、命を救われた恩義。
其処にあった思惑すら知らない純粋で、少し哀れな忠義心。
それを、そういう風になると思って動いた俺の性根の悪さに吐き気がする。
彼女の正体がバレた時点で、俺は既に企んでいた。
リスクを犯してまで、彼女を救った。
幼馴染に似ていた、と言う理由は嘘ではない。
本当に心の底から、そう思った。
だがな。
「ほんと、助かるよ。」
アルレイヤという人間が、善人で居てくれて。
彼女だからこそ、ここまでうまく事が運べた。
信頼、即ち呪縛。
俺は、俺の目的の為に動いたに過ぎない。
どうしようもないこの復讐を果たす為には、"駒"を集める必要があった。
出来れば、俺達を裏切らないような人物。
同じ志を持つもの然り。
最も適当なのは…扱い易い人間。
簡単に言えば、騙し易い人間。
それが、アルレイヤだった。
「……」
「リュートさん?」
俺は、救いようのないクソ野郎だ。
それは、自覚している。
それでも俺は、恩は忘れない。
お前が俺に利用される分、それ相応の対価は払うつもりだ。
「アルレイヤ…悪いな。この報いは、いつか必ず。」
だから今は、利用させて貰う。
安心してくれ。
必ず、対価は支払う。
それは、奴等も例外ではない。
クラスメイト、いや、勇者達…そして女神。
お前達への対価は…苦痛と絶望に塗れたーー
ーー"死"を与えてやろう。
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