第四十七話 俺の名はーー
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「くだらない、だと?」
ゴウッ!
凄まじい魔力の風圧が突き抜ける。
肌で感じる。
その憎悪と怒り。
たが、あまりにも生温い。
「小僧、くだらない。そう言ったのか?」
大槍を握り締める音が、響く。
まだ早い。
折角の舞台の幕を閉じるには、早過ぎる。
ここまでずっと、蚊帳の外だったんだ。
最後くらいは、俺達が飾らせて貰うぜ?
「ああ、くだらない。あまりにもくだらなすぎる。反吐が出る。」
そう、吐き捨てる。
半分は、共感できる。
何故なら、俺も分かるから。
奪われる事の、苦しみを…
この身で知っている。
だから、全てを否定出来ない。
俺は、女帝の想いを半分は肯定しよう。
「ほう?何処が下らないのだ。言ってみるがいい!」
「要は全てを持っていたアルレイヤへの醜い嫉妬だろ?コレをくだらないと言って何が悪い。女帝の苦労も努力も知らないし、どうでも良い。全てを奪われそうになったのだって、そいつの怠慢だ。」
「ふざけるな!あの日のモルガン様の絶望を知らない愚か者が偉そうに語るな!」
その怒りはもっともだ。
だがな、お前達もまた分かっていない。
「ああ、知らないとも。だが、お前達もまた知らないんだろ?」
「何がだ?」
チラッと、アルレイヤの方に顔を向ける。
「信頼し尊敬していた実の姉に訳も分からず、全てを失い殺されそうになった妹の絶望を!」
「っ!!?」
「リュー殿…」
女帝が酷く絶望したように…彼女もまた、絶望の淵に立った。
しかも、訳も分からず自分が剣を捧げると誓った肉親に裏切られた絶望は測り知れないだろう。
それでも、それでも決してアルレイヤは折れなかった。
生きる事を諦めなかった。
「狂った嫉妬で愚行に走った女帝より、アルレイヤの方がよっぽど立派だ。
どっちが王に相応しいのかが明確に分かるな。」
「おい…」
「お前達にとって女帝がどんな存在かは知らないが、俺にとっちゃ女帝は器の小さい愚王だね。」
「貴様ーーその発言の意味が分かっているのか?」
酷く、冷酷な声色。
張り詰める大気。
息苦しささえ、感じる。
「ああ、勿論さ。」
初めから、俺の腹は決まっている。
まもなく、フィナーレを迎える。
「お前達は…どんな思いを持って女帝に付いて、アルレイヤを裏切った?」
「女帝の理想の為にだ。」
「私は〜、そっちの方が利益があったから〜」
「俺は、欲望のままに…」
「女帝の御心のままにだ。」
各々がそう答える。
一つは、理想の為。
一つは、利益の為。
一つは、欲望の為。
一つは、忠義の為。
どれも、自分勝手。
或いは、人間らしい答え。
そして、どれもこれも俺が求めていた答えだ。
「それが、女帝に召喚されし勇者である我等の役目である。」
パーシヴァルが、そう言い切った。
勇者である自分達の役目、か。
「その為ならば、誰かを裏切っても構わないと?」
答えは、予想がつく。
「如何にも!我らは女帝に召喚されし勇者である。全ては女帝の赴くままに、我らは当に、かつての騎士道など地に堕ちた。あのお方の為ならば、如何なる事も成して見せよう。
それが例え、人の道を外れた事だとしても!
勇者こそ"正義"である。」
パーシヴァルは、そう言い切った。
勇者、その誇り高き名前は…この世界では既に汚れ、地に堕ちた。
勇者こそが、正義…か。
勇者達の行動もまた、彼等からすれば正義なのか。
正義の定義は、それぞれだ。
誰かが、これを正義だと言えば正義となる。
コレから奴らに起こる悲劇もまた俺にとっては正義である。
お前達が勇者だとするのならば…この俺達もまた勇者なのだろう。
ならばもう、心は痛まない。
「ふふ、ふふっーーフッハハハハハハ!!!」
俺は、声高らかに嗤う。
「気でも狂ったか?」
パーシヴァルも、他の円卓十剣も、アルレイヤも俺を奇怪な目で見ている。
「いいや、正気だよ!だが、これが笑わずにはいられるか!?お前達は、勇者こそが正義だと言ったな?」
深い憎しみと怒り。
そして、皮肉をのせて。
「ああ、そうだ。」
肯定する。
その言葉は、嘘偽りなく…なんの悪気も篭っていない。
本気で自分たちが正しいのだと、そう確信を込めて言っているのだ。
なんて、清々しい…
なんて、美しい…
そして、なんて愚かなのだ。
ああ、忌々しい。
奴等の顔は今、あの日の女神とクラスメイト達の物と同じだ。
抑えろ、落ち着け。
まだだ、まだ早い。
分かっている、分かっているとも。
奴等はーー俺にとって
救う価値も無い、クソ野郎にすぎない。
「ならば、お前達に良い事を教えてやろう。」
その腐った忠義と性根に、敬意を込めて。
彼等の誇りと忠義を穢す、この名を送ろう。
声高らかに、嗤う。
空高く、見下す彼等を見下す。
これから焼き尽くす、この美しき世界にも。
「俺の名はーーリュート・イズモ!異界より来た勇者!そして……」
憎悪と復讐の色に染まり、両親より与えられた名前は穢れた。
数多に裏切られ、蹂躙され、絶望に染まった復讐者はその名を名乗る。
「この世界に蔓延る全ての勇者と…憎き女神を蹂躙し…この世界を焼き尽くす者だ。」
さぁーー物語の終焉と行こうか。
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