第四十五話 蚊帳の外、とは言わせない
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「パーシヴァルッ!?」
未完の剣を抜き、構える。
アルレイヤの額から、汗が滴り落ちる。
「円卓十剣が、四人もっ!」
やはり、先頭の男以外の三人も円卓十剣とやらの一人なのだろう。
「…………」
パーシヴァルの手には、白き大槍が握られている。
その他にも、龍の身体には幾つもの投槍が備えられている。
あれは、遠距離用だと推察出来る。
腰には、剣が2本。
「同じく、円卓十剣第八席"城塞"ガレス。所で、パーシヴァルさん。クルズさんを殺すなんて酷いです。」
「足手纏いは要らん。」
パーシヴァルは、そう吐き捨てた。
その視線は、アルレイヤを離さない。
彼に言葉を発したのは、右側に居た女騎士。
「一応、副官だったのに〜」
ガレスと呼ばれた茶髪ボブの女。
幼びた顔立ち。
小柄の身体。
天然っぽく、ひ弱そうな見た目。
とは、裏腹に両手に巨大な大盾を抱えている。
そんな、ガレスと、呼ばれた女は再び声を上げる。
「ちぇ~。まぁ、貴方が殺さなくても私が殺してましたけどね〜!」
幼びた外見からは、想像も出来ない言葉を漏らす。
奇妙な女だ。
あの薄っぺらい笑顔の裏には、狂気が眠っている。
そう、感じさせる。
龍の上に跨り、酷く冷たい目で死体を見下す。
「性格に難ありですが、扱いやすくて、便利な男だったんですけどねぇ〜?」
「本当にそうか?ガレス、君が手綱を握れなかった所為でこの男は命令を無視して先に向かったではないか。」
「でもでも、さっきのを避けれていれば助けたでしょ?」」
「ああ。だが、あんなのも避けれない騎士を生かしておく理由はない。だから、殺した。」
ーーポタッ
アルレイヤの顎から、一滴の汗が地面に落ちる。
「…ッ………」
龍によって踏み潰された時、クルズは龍斗の施した術によって身動きが取れなかった。
それを抜きにしても、あの落下速度をあの程度の男が避けきれる筈がない。
どのみち死は、避けられなかった。
都合よく、俺の力によって動きが封じられたとは考えていない。
そう見てよさそうだ。
アルレイヤは、酷く焦っていた。
彼等の実力を充分に知っている、彼女だからこそ恐れているのだろう。
「それに、今殺されても困るしね?」
「ふん。」
含みのある、言葉。
アルレイヤも、少し困惑の色を浮かべる。
殺す事が、目的ではない。と言う事か?
いやだが、クルズは皇帝がアルレイヤが早く死ぬ事を願っていると言っていた。
しかし、コイツらはアルレイヤを今殺す事は不都合だと感じている。
が、何故だ?
理由の見当はつかない。
アルレイヤもまた、心当たりがないらしい。
「それにしても〜、随分と久しぶりだなぁ、アルレイヤ様。あ、今は姫でもなんでもないんだけどさ?でもでも、やっぱり、可哀想だよねぇ。」
「…?」
「貴女の死を求めているのは、皇帝だけじゃないって事。民もまた、貴女の死を願っているのよ!」
ガレスは、楽しそうにそう答える。
アルレイヤの顔に、苦悶と悲しみの表情が浮かぶ。
円卓の騎士達の目線も、円卓十剣達の目線も全てアルレイヤと言う獲物に向いている。
まるで、俺達なぞ最初から居ないような。
そうーー蚊帳の外だ。
「まぁでも、当然だよね!モルガン様を裏切って、自分が王になる為にウーサー様達を殺したんだから!」
騎士達の顔に、怒りと憎悪が浮かぶ。
異常なまでの殺意。
「それで…パーシヴァル。結局、アルレイヤ・ペンドラゴンの処遇はどうするのだ?」
「女帝は、捕らえた後は何をしようと構わない。が、必ず殺せと。」
「へぇ、、やはり、女帝陛下は慈悲深きお方ですね!」
「パーシヴァル、こう言うのはどうでしょうか?円卓の騎士達の士気と団結をより深く高めるために、あの女を部下達の性処理として与えるのは! どのみち殺すなら、愉しんでから殺しましょう。」
「賛成。」
「相変わらずだな。ボールス、ルキウス。」
ボールスとルキウス。
ボールスは中年程の男性で、少し肥満体型。
白髪の髪に、顎髭。
顔立ちは、他の騎士と比べると決してよくはない。
腰には、歪曲した剣。
ルキウスは、若年の男。
緑色の短髪。
小柄だが、ガタイは良く鎧がしっくり来る。
表情は愉悦の笑みに染まっている。
気品はなく、下品じみている。
だが、実力は間違いなくあるのだろう。
「あー、滾ってきちまったよ。なぁ、パーシヴァルさんよ、早くコイツ捕まえて充分に楽しんでから殺しましょうよ?あの、女達と、同じようにさ。」
ピクっと。
アルレイヤが、反応する。
「彼女達に、何をしたのですか!」
アルレイヤが声を荒げる。
声には、様々な感情が見て取れる。
怒り、動揺、恐れ。
「もし、彼女達の身に何か有れば私は絶対に貴方達を許しません!
「そう言われてもなぁー、もう手遅れだし。」
ぴたり。と、アルレイヤの動きが止まる。
「ギャラハッドは、彼女はどうしたのですか…」
「殺したよ。」
「っ!?う、嘘です!」
「本当さ。あの女もいい声で泣いてたよ?姫が必ず助けに来る〜ってな!いやー、絶品だったぜ?あの胸も、尻もよ!」
「お前達に…お前達は、騎士としての誇りすら忘れたのか!!」
アルレイヤの、怒号。
すでに恐れはなく。
ただ怒りと、憎しみで染まっている。
俺と俺達と同じく、その闇に脚を踏み入れようとしている。
「いやー、本当にかわいそうだったよ〜!姫様を庇った所為で酷い目にあって殺されたんだからぁ!」
「まぁ、安心しろって。アンタもギャラハッドと同じような目に遭わせてやるからさ。その後は、女帝陛下がどうしようとどうでもいいからさ。」
「貴様…っ!」
ゲラゲラと、ガレスとルキウスが嗤う。
円卓の騎士、どうやら俺の知っているソレとは全く別の物らしい。
いや、或いはアレこそが本来の円卓の騎士なのかも知れない。
それにしても、勇者か…その基準が何なのか、もう俺には分からない。
「つうか、さっきからどうしたん?パーシヴァルの旦那。ずっと黙りっきりでさ。」
ルキウスが、そう声を掛かる。
しかし、パーシヴァルは返事をせずずっと固まっている。
ーー
パーシヴァルは、ある違和感を憶えていた。
先程から、ずっと感じている違和感。
冷や汗が止まらない。
アルレイヤでは、ない。
今の彼女に、聖剣が使えない彼女に脅威は感じない。
では、何だ?
其処でようやく、パーシヴァルの視線が龍斗達を捉える。
「あの2人が、気になってな。」
そこでやっと、他の円卓十剣の視線も龍斗達を捉えた。
蚊帳の外だった二人に、ようやくフォーカスが当たる。
「んん?ただの荷物持ち程度でしょ?」
「ふむ、何も感じませぬが?」
「気のせいでしょ。」
ガレス、ルキウス、ボールスは彼等に何の違和感も感じていない。
なら、やはり気の所為か?
何か、見落としている気がする…
特に、あの少年は不気味だ。
決して強くはない、魔力は凡人並み、あの程度なら気に留める必要もない。
強くはない、そう強くはないのだ。
あの女もまた、あの少年とは別物の異質さを感じる。
聖槍が先程から、妙に反応している。
何よりも何故、あの少年は嗤っている。
ーー
ようやく、パーシヴァルは気付いたらしい。
流石、と言うべきか。
魔力を制限して、取るに足らない弱者だと偽造している事に薄々と気付き始めている。
だが、いまいち掴みきれてないのだろう。
だからこそ、分かる。
奴は、強い。
バジリスク。
取るに足らない魔物だった。
アルレイヤの警戒ようからして相当に手強いと思っていたが、実際は弱かった。
が、今回は違う。
奴は、本当の強者だ。
あの遺跡に居た隻眼の魔物と同等。
或いは、それ以上。
ヒュドラとまでは、いかない。
アステリオスと対峙した時と似てる感覚。
だからこそ、その存在の大きさがわかる。
今のアルレイヤでは、勝てない。
それ程までに強い。
怒りに駆られるアルレイヤは動きたくとも動けないのだ。
簡単に言えば、今の彼女は…
喉元に槍先を突き付けられている状態。
油断しているように見えて、パーシヴァルには一切の隙がない。
アルレイヤが動き出した瞬間に、彼女は槍で一突されて殺されるだろう。
パーシヴァルの意識は俺に向いており、アルレイヤへの注意や殺意は少し削がれている。
つまり、だ。
彼女が自身に課せられた死亡フラグを回避するには、俺とディナの存在が必要不可欠であったのだ。
俺達が駆けつけなければ、間違いなく彼女は死んでいた。
即ち。
彼女の命運を握るのは…俺とディナである。
なら、ちょうどいい。
俺も少しだけ、興味があったから。
「少年、何が可笑しい?」
「少しだけ、話をしようか。」
もはや、蚊帳の外とは言わせない。
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