第四十三話 襲来
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龍や騎士達が向かった方角。
冒険者や傭兵の話。
邪の森。
脚を踏み入れると、尋常ならざる殺気や悪意で充満していた。
龍の鳴き声。
銅鑼の音。
騎士達の歓声。
これらの集まる場所を追跡する。
あまりにも楽な捜索。
有り余るステータス補正とスキルのお陰で本隊に見つかる前に彼女の元に辿り着けるはずだ。
アルレイヤが発見されてから然程、時は経っていない。
より悪意が濃い場所を進む。
そして、ようやく見つけた。
その時の状況は、正直危なかった。
俺達の気配に気付いた龍が襲い掛かってくるが、瞬殺。
そして、アルレイヤに覆い被さっていた男の動きを止める。
男の力が抜けた事で、アルレイヤはようやく脱出する。
俺に敵意がある対象にしか効かないので、アルレイヤは動ける。
「ッ」
何かを言い掛けたが、止まる。
冷静さを、取り戻したらしい。
思考はちゃんと働いているようだ。
安心した。
「助か、りました…」
申し訳なさそうな顔をして、アルレイヤが一礼する。
「気にすんな」
そう言って、動けず固まっている騎士を見る。
「こいつが円卓十剣って奴か?」
「いえ、彼等は円卓騎士団の団員です。」
「なるほどな、円卓十剣は来てない?」
「いいえ、其処の男が円卓十剣の一人が率いる団の副将だと言っていたので居る事に間違いはありません。」
アルレイヤは、鎧に付着した泥などを払う。
彼女の姿を一瞥する。
俺達が辿り着く間に、何度か激しい戦闘があったのだろう。
返り血などが付着していた。
「面倒な事になってるみたいだな?」
「どうして、ここへ来てしまったのですか……?」
身動きの取れない男を警戒しながら、アルレイヤがそう質問する。
こういう時でも警戒は怠らないのか。
流石だな。
俺は彼女の問いに答える、その前に
ドス。
騎士を気絶させる。
まだ聞きたいことがあるので殺さない。
龍の方は、どうでも良い。
意識を完全に失った事を確認し、話し始める。
「いやー、アネットではアンタの話題で持ちきりさ。正体がバレた経緯はその、災難だったな。
その話の流れでアンタが邪の森へ逃げたって聞いて追いかけて来たって訳さ。」
そう答える俺に、彼女は困ったような表情を見せる。
「私が聞いているのは、そ、そういうことではありません…あの、それで……どうしてここに?」
「おいおい。俺達は互いに契約を結んだ協力者だ。アネットで例の件を聞いてな、ここまで追いかけてきた。」
「その通りだ。」
ディナが続く。
「しょ、正気なのですか?このままでは、貴方達も!」
「円卓騎士団に狙われる、だろ?」
「その通りですよ!早くここから逃げないと、追手はもう恐らく、すぐそこまで来ている筈です!」
「ああ、だからアンタと一緒に逃げる為にここに来た。」
「どうしてっ!?」
「協力者じゃからな。見捨てる訳にはいくまい。」
そう、俺達は協力者。
簡単に見捨てるわけにも行かない。
「本音を話すが。俺達はアンタを手放すと言う選択肢は考えていない。アンタが幾ら拒もうとも俺達は絶対に折れない。」
「そ、それでも…」
頑固だな。
そこまでして、俺達を巻き込みたくないのか。
「それでも、なんだ?」
「だからっ!私と一緒にいると、貴殿らも巻き込まれてしまいます!それに、私でなくとも協力してくれる者はいる筈です!」
苦痛と悲しみに溢れた表情。
本気で俺達を心配して忠告している。
だからこそ、だ。
「そうだろうな。だが、アンタ程の実力があってアンタ程の人柄に優れた人間はそう簡単に見つかる訳じゃない。」
「ーーッ!?」
アルレイヤは、少し言葉に詰まる。
それでもやはり、彼女は迷っている。
本当に一切の悪意もない善なる人間である彼女だからこそ、譲れないのだろう。
自分の為に、他人を巻き込みたくない。
そんな思いが、嫌というほどに伝わってくる。
だが、やはり彼女もまた思い違いをしている。
「あとはまぁそうだな。いずれ俺達は帝国をも敵に回すつもりだった。だから、今回の事は気にしなくていい。」
「っ、、、」
「それに、あんたの今回の目的地は古の魔女と会うことだろ。俺も古の魔女に会わないとならない。
互いの目的はある意味では一致している。」
アルレイヤは、黙り込む。
「アンタは言ったな。帝国とはいずれケジメを付けると。だが、今の現状ではそれは無理だというのは俺でも分かる。」
「その通りです。」
「それがどうしてなのかわからないが、アンタは古の魔女がその無理を実現出来る"鍵"だと確信している。」
「!」
「だったら尚更、俺達と協力しない手はないだろ?それに、準備が整うまでの間はその魔女に匿って貰えばいい。」
俺はずっと考えていた考察と提案を話した。
彼女の表情から察するに、図星。
「古の魔女に、ですか……?」
「ああ。女神でさえ分からない居場所に隠れてしまえば、帝国も無茶な手出しは出来なくなる。その間にアンタは、その問題を解決すればいい。」
「た、確かに…それはもっともですが」
古の魔女がどんな人物かは知らない。
だが、俺の想像通りの人物なら交渉の余地はあるかも知れない。
それに、アルレイヤを手放す選択肢は出来れば避けたい。
彼女は有能だ。
剣士として、前衛としては文句なし。
妖精の加護によって、真偽の判断。
他者や自分に施せる偽装の加護。
仮に仲間になったとしても、決して裏切る事はないだろうと思わせる程の善人。
これ程の優秀な人材を、手放すのは勿体無い。
それに…こういった人間は売られた恩義を返す際に異常なほどの執着を見せる。
そう言った人間ほど信用できて、操りやすい人材は居ない。
「?」
俺にとってこんなにも都合のいい条件が合う相手はいない。
「それに、古の魔女の居場所とされる幻界領域への行き先を知っているアンタに離脱されたら困る。それに、幻界領域には強い魔物がうじゃうじゃ居るんだろ?なら、少しでも戦力が欲しいしな。」
幻界領域には、神殺ノ遺跡に居たような隻眼の魔物が蔓延っていると聞いた。
俺とディナだけでも充分かも知れないが、個の力には限界がある。
それに、今のアルレイヤがたった一人でそんな所に向かって無事で済むとは考えずらい。
俺は彼女にそう話した。
「俺は例の異界暗文の解読、そしてアンタは鍵となる何かを魔女ならどうにか出来るかも知れない。どうだ?手を組まない手はないだろ?」
「それは、、、、」
「つまり、協力関係を無碍にする理由はない。」
「それでも、分かりません…どうして貴方はそんなに私を気にかけるのです?」
そう聞かれた俺は、一瞬黙り込む。
それは…いや、そうか。
合点が行った…どうして俺が、こんなにも彼女を気に掛けていたのか。
「面影があったから、、、」
「?」
「俺には、幼馴染が居た。そいつは誰よりも真っ直ぐで誰よりも優しくて、他人の為なら自分だって厭わない"善人"だ。
今のあんたを見てると、本当にそっくりだ…だからかもな、こんなにアンタを気にかけるのは…」
ふと、幼馴染…鬼龍院藍那の姿が思い浮かぶ。
元の世界で、あれほど善意に満ち溢れた人間を見た事がなかった。
そして、この異世界でもそんな鬼龍院と同じ性質を持った人物に出会った。
「外見は勿論、似てない。まぁ、美人なのはどっちも同じだが。喋り方も背丈も似ていない。所作はまぁ似ているが、その心の在り方や雰囲気はアイツそっくりだ。」
後は、そうだな。
誰かの為になると、自分を犠牲にしようとする所…とかな。
確かに、彼女を利用しようと近付いた事は否定できないしするつもりはない。
都合の良い境遇、完璧な戦力。
手放す理由は、なかった。
それだけで、果たして俺がリスクを背負ってここまで来ただろうか?
いいや、あり得ない。
なら、やはり…俺がここへ来た理由は一つしかない、か。
「そんな人間を放っておくのは、なんというか心が痛むし、後々に後悔しそうだった。それだけだ。」
「…貴方は、本当に…」
アルレイヤの顔に微かに笑顔が見える。
美しい顔で、微笑んだ。
「優しいですね。」
「ふん。」
「照れておる。」
「うるさい。」
そんな緊張感のない、やり取りを終える。
円卓の騎士の方に目を向ける。
「何か、少しでも情報を引き出すとするか。」
そろそろ、気絶から起き上がる頃。
念の為に、動きは封じている。
それだけでなく、毒や麻痺などの状態異常を付与している。
殺さない、程度に。
「ーーぁ……?かぁはぁ…ぁ、痛ぃ…ひぃぃ…」
円卓の騎士を見下す。
俺が間に合わなければ、アルレイヤはこいつに…
奴の動きを止める直前、その行動と発言を耳にした。
コイツは、害虫だ。
殺すべき人間。
そして、俺は急いでいて神龍外装の兜(仮面)を装着するのを忘れていた。
その為、素顔は割れている。
故に、殺す事は確定事項。
俺は淡々と言った。
「今から質問に答えろ。そうしたら、救済が訪れる。」
"死"と言う素敵な救済をな。
あながち、間違いではない。
死にたくても死なないこの状況で、死は何よりも救い。
聞きたいことは、沢山ある。
「こ、ぞうっ…我が、部下達は、どうしたっ…!」
ギロっと睨み、騎士がそう問うてくる。
「ああ、あいつらか?皆殺しにして来た」
一瞬、静まり返る。
そして、騎士はハッとしながら叫ぶ。
「ありえん!……お、……おまえたちのような、取るに足らん矮小なガキと女が! くっ!? それより、も、何をした!身体が動か、ん!」
「さぁ?何をしたんだろうな?」
「あ、あまり我々を!円卓騎士団を舐めるなよっ!? ぐっ……そして、売国奴め! ぐ、、ふ、はは……円卓騎士団に捕まれば、かのお方より自由に扱う事を許されて、いる!ぐははは、…貴様を最期まで守ろうとしたあの女共は、いい声で…」
ドシュ!
男の顔面を思いっきり踏みつける。
男の耳元で、呟く。
「聞くに堪えないなこのクソ野郎。お前、家族は居るか?」
「な、なんだ、きさーーギャァ!」
「答えは、居るか。居ないか。」
「こ、答えれば、見逃して、くれるのかあっ!」
「考えてやるよ。で、?」
「い、居る!妻と娘が二人。」
「なら、そいつらも同じ目に遭わせてやるよ。」
「なっ、!?き、貴様ぁぁぁぁあ!そ、そんな事、この俺が許さんぞォォォォ!我が愛しい、大切な宝物をそんな眼に遭わせてみろ!?呪ってやる、貴様が死んでも、呪い続けてやる!いいかーー」
「!?」
ーーゾワッ
瞬間、凄まじい悪寒が襲う。
強烈な、殺意。
圧倒的な、威圧感。
「アルレイヤ、ディナ!」
ーーグシャーー
空より堕ちてきた、純白の龍。
その強靭な前脚が、クルズの頭を踏み潰した。
脳みそと血が、辺りに飛び散る。
即死は、明らかだった。
「…………」
俺達もまた、避けなければあの龍の下敷きになっていた。
アルレイヤが、視線を前方に向ける。
「ーーーッ!?」
驚愕。
動揺。
焦り。
外は既に、日暮近い。
鎧を身に纏った巨大な、白龍が4匹
これまでの龍とは、違う。
そして、何よりも。
その先頭に立つ龍は、纏う重圧も雰囲気も異質。
その上に、跨る人物も然り。
「…………」
警戒を、最大限まで引き上げる。
「見つけたぞ。アルレイヤ・ペンドラゴン」
冷たく、殺意に満ちた声が響く。
純白の鎧。
重々しい、鎧。
白き、大槍。
銀の短髪。
瞳は、翠緑。
この尋常ならざる雰囲気。
あのヒュドラと似た物を感じる。
残りの3人もまた、異質。
鎧は纏えど、兜は在らず。
隣を見る。
アルレイヤは、動揺していた。
「まさ、か…貴方は!」
白い男が、口を開く。
「叛逆姫アルレイヤ・ペンドラゴンよ。女帝陛下の命により貴様を殺しに来た。」
ガシャン。と、2メートル程ある白き大槍の槍先をアルレイヤに向ける。
男の目が、僅かに俺達を見据える。
「元部下として、名乗ろうか。女帝モルガンが信頼せし円卓十剣が一人にして第六の席を預かるもの。我が名はーー」
男は、静かにその名を紡ぐ。
「"聖槍"パーシヴァルである。」
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