第四十二話 叛逆姫
次回の更新は水曜日の13時です。
ーーアルレイヤ・ペンドラゴン
かつてブリテン大帝国の初代王ウーサーと聖霊姫、妖精姫との間に産まれた奇跡の子。
生まれながらにして天に愛された彼女は、王とその妃達の英才教育の元で育てられた。
剣を握れば並大抵の騎士は彼女に敵わず、勉学もまた非常に優秀であった。
そして彼女をより有名にさせたのは、帝国で行われた選定の儀式。
決して抜けずと呼ばれていた聖剣エクスカリバーを彼女は僅か10歳で抜いて見せた。
聖剣を手にしたアルレイヤの活躍によって帝国はその領土を大きく広げ彼女はその武名を大陸に広げた。
しかし、悲劇が起こる。
初代王であり父ウーサーが崩御し、次の帝国は満場一致でアルレイヤが次の皇帝だと宣言した。
しかし、それをよく思わなかったのが彼女の姉モルガンであった。
姉であるモルガンは自身よりも日の目を浴びるアルレイヤに酷く嫉妬し、どうにかして蹴落とそうと画策していた。
そして、彼女はアルレイヤが自ら父皇を殺して皇位を奪おうとした…という噂を城内に流す。
モルガンは洗脳した帝国の貴族を使い彼女の母親である聖霊姫と妖精姫を暗殺した。
最悪な事に、その場にはアルレイヤと殺された母2人しか居なかった事でアルレイヤの立場は一気に悪くなる。
最後の仕上げとして、彼女が自分の側近達に自分が父を殺して帝王になると話している偽りの音声を国民に向けて聞かせた事で、アルレイヤは遂に立場を失った。
その後、アルレイヤは自身の側近達と共にモルガンを誅殺しようたが彼女の召喚した円卓の騎士の手によって失敗に終わり、帝国から姿を消した。
その後の出来事は一切、大陸には流れていない。
この真相の何処までが真実かは不明だが、コレが叛逆姫と言われた彼女に起きた出来事の一部である。
そして現在。
霧の濃い邪の森を凄まじい勢いで駆けるアルレイヤ。
まさか、こんなことになるとは…と。
アルレイヤは唇を強く噛み締める。
その考えを失念していた…まさか城内そのものに魔法を阻害する結界が張られているとは考えもしなかった。
そして更に、その場にまさか帝国の使者が居合わせるとは…
運が悪い、悪すぎた。
危惧していた事が立て続けに起きてしまった。
彼等との出逢いで、上手く行けるかも知れない。
そう思った瞬間に、悲運が訪れた。
ふと、彼等の顔を思い浮かべる。
リュートとヴォーディガーン。
報酬を受け取り、そのまま消えたと思ってしまっているだろうか。
それとも私の正体が暴かれた件を聞き、呆れてアネットを出たか。
そのどちらにしても、彼らの信頼を裏切ってしまった事に変わりはないだろう。
ザッ。
駆ける足を止めて、反転する。
後方から迫り来る気配。
かつては"味方"だった"敵"を迎え撃つ偶に剣を構える。
逃げきれない事は、百も承知。
彼等の実力は自分が一番、よく分かっている。
と言っても、その記憶も最早遠く薄れている。
しかし、だ。
それにしても、早すぎる…
或いは、あの5人組がやられた時点で動き出していたのかも知れない。
ドォォォォオン!
「ぎゅラァダァぁ!!」
「ォォォォオ!」
大きく響く銅鑼。
近づいてくる竜叫。
迫り来る雄叫び。
間違いない、円卓十剣が来ている。
既に、円卓の騎士と思われる兵士と刃を交えた。
あの頃よりも、より洗練されていた。
流石は、帝国…いや、大陸最狂。
並の騎士団で苦戦するほどの実力…私の所属していた頃よりも更に洗練されている。
一人一人が1匹の危険種を単独で狩れるほどの剣技を有している。
これが何百人も居るのだから最強というのも頷ける。
そしてそれを束ねる最強の聖騎士。
一人一人が数千、数百の軍に匹敵する程の"個"の力を持つ怪物達。
その名はーー"円卓十剣"
女帝モルガンが絶対的な信頼を置く最強の勇者達。
帝国の絶対の剣であり、盾でもある。
十剣の一位〜三位の騎士は神に匹敵するほどの力を有している。
たった10人で東側諸国の連合軍を一網打尽にして見せたその実力。
黒竜騎士団を最強たらしめたのは円卓騎士団ではなく、円卓十剣が最強であるがゆえにそう呼ばれている。
その中でも、第一位"絶剣"と呼ばれる男の力は常軌を逸している。
その男は、あの非勇者でありながら"人界最強"となったレジーナをして怪物と言わしめた程の傑物。
これまで召喚された異界からの勇者の中でも"最強''の名を欲しいままにする。
神族でも龍族でもない、ただの"人"。
そんな男が自分を追っているのなら、我が人生はもはやここまででしょう。
深き霧の向こうより、紅き龍が出現する。
龍はそのまま突撃してきた。
帝国と盟友関係にあたる龍神によって騎士団に与えらた龍達。
ただでさえ強力な騎士団に加えて、その機動力と破壊力を蓄えた龍が加わった事で帝国の武力は大陸一となった。
アルレイヤは身体を捻りながら、後方へ引く。
ガキン!
龍の振るった鉤爪と剣が衝突し、轟音を打ち鳴らす。
ビリビリと防いだ腕が痺れる。
硬く重い…
何よりも先の一撃…
確実な、殺意があった。
目的は、捕縛ではないのだろう。
殺意を帯びた瞳がアルレイヤを映す。
刹那――アルレイヤが地を蹴る。
ギュン!
聖霊の加護によって速度を上げる。
剣に魔力を込める。
横一文字の斬撃。
ズバンッ!
その斬撃は、赤龍の首を掻っ切る。
声にならぬ悲鳴を上げる龍。
龍の大きな首がポトリと地面に落ちる。
美しい切断面が、顔を覗かせる。
そして、龍に騎乗していた騎士が跳躍し、地に降り立つ。
その一瞬の隙を見逃すほどアルレイヤは愚かではない。
一瞬で、肉薄する。
「っ!?」
アルレイヤの接近に咄嗟に反撃に出ようとする騎士。
しかし、その胸元にはすでに聖霊の焔を纏った剣が貫いていた。
「あ"…」
鎧や兜があっても、彼女の剣には関係ない。
殆どの加護を失った聖剣であれど、妖精と聖霊の加護さえあれば全てを斬り貫く剣となる。
騎士は兜の空いた穴から、焦げた煙を吐き絶命した。
ベキ、ベキッ!
バキョ、ボギボキ!
「ぎゅラァでダァ!!」
木々をへし折りながら、緑龍が現れる。
先程から、龍は突進してくるばかりである。
襲い来る龍と騎士を次々に斬り倒す。
戦闘しながらも、思考はどう逃げるか。
必死に離脱しようとするが、追撃の手が止まない。
「死ねぇ!!」
ガキィン!
数人の騎士が振るった剣撃が外に弧を描く。
アルレイヤは、複数人の騎士の剣撃を見事に受け流し誘う。
その隙を。
数度受け流され、騎士達は気づく。
「なっーー」
ザン、ザシュ、ドシュ、ズバッ!
気付いた時には、既に詰んでいた。
騎士達は絶命する。
主を失った龍が攻撃に出る。
が、アルレイヤの剣が龍達の命を刈り取る。
夥しい血を噴き上げ、龍は絶命する。
「はぁっ、はぁっ…ッ」
汗が止まらない。
全身に冷や汗が流れる。
気が、抜けない。
抜けば、死ぬ。
「!」
ドッ!
ガキィン!
「ッ!」
前方から数匹の龍の気配。
前方に警戒する。
そこで違和感を憶える。
気配の数が少ない…そして気づく。
龍は囮。
本命は後方。
微かな気配の方向へ、突っ込む。
「流石ですね。」
其処には、剣を構えた一人の騎士が立っていた。
他の円卓の騎士とは鎧の形も、雰囲気も異なっている。
その顔に、見覚えがあった。
「我が名はクルズ。円卓十剣が一人ガレス様が率いる騎士団の副団長である。姫、いや叛逆者よ覚悟せよ!」
対峙しただけでわかる。
強い、と。
これまでの騎士達よりも格上の騎士。
あの構えに一切の隙がない。
一方のアルレイヤは、満身創痍。
聖剣の加護はせいぜい傷を癒す程度の物しか残っておらず。
切り札として残してあるアレも消費が激しい。
だが、やるしかない。
ここは狭く動きずらい。
有利な場所を取らなくては…
キィンッ!
剣と剣が、ぶつかる。
「っ!?」
剣速が速く、一撃が重い。
一撃一撃が鋭く、明確に命を刈り取ろうとしてくる。
「やはり、本腰を入れて来たのですね……これまで現れた騎士とは比べ物になりませんね。」
「陛下も痺れを切らしていますからな。だーが、我々の目的は違う所にある。」
クルズの視線がアルレイヤの顔から外れ、躰へと向かう。
そして、下卑た笑みを浮かべる。
「その女神の如き美貌と、その全てを惑わす躰ッ! 帝国のいや、大陸中の貴族や変態達が大金をはたく理由がわかる! この私とてその一人だからな!」
その声と共にクルズが剣を握る手に力を込める。
グググっと、アルレイヤが押し込まれる。
「ッ!?」
(この力…やはり、姉の…)
剣に凄まじい程の魔術が施されている。
それだけではない。
アルレイヤは、これを押し返す体力や力が落ちている。
精神力も集中力も散漫している。
無論、それは四方八方から感じる気配に割いているからだ。
どうする?
ここで、未完の聖剣の力を解放するか?
いや、でも…
「あ…」
脚に力が入らず、体勢を崩しかける。
それを好機と見たクルズとその愛龍が一気に攻勢を仕掛ける。
バサァッ!
「ふん!!」
龍の放った一撃がアルレイヤの剣を弾き飛ばし、クルズがアルレイヤのガラ空きとなった腹部に剣の尾を鳩尾に放つ。
「――ぅッ!?」
苦しそうな声を上げ、アルレイヤが地に倒れる。
「はははっ!長きに渡る逃亡生活で疲労が限界に見えるぞアルレイヤ!本来ならば私如きなど容易く突破できるだろうに!?」
「……くっ」
胃液を口から溢し、苦しそうにしながら剣を拾おうとする。
が、クルズの手によって剣が砕かれる。
そして抵抗する力もなく、クルズに両手首を掴まれる。
自分が何をされるのか、嫌でも理解してしまった。
「まさか……っ」
「ふふふふふ……その、まさかだっ!貴様の様な上玉を何もせずに殺すのが勿体なかろう!」
身体に、力が入らない。
聖霊と妖精達の加護が消え掛かっている。
未完の聖剣が、使えない。
「私クルズが貴様の初めての男だ、そして未来永劫、最初で最後の快楽を与えてから、存分に殺してやろう。なに、そのような顔をするな。最初は皆がそんな顔をするが始まれば怒りは快楽へと代わりやがてよがり狂う事になるのだからな!」
アルレイヤの上にのしかかる。
「円卓の騎士の誇りを忘れたのですか…いついかなる、、、」
「黙れ!」
アルレイヤの口を手で塞ぐ。
「……っ!!」
「諦めろ、貴様が幾ら抵抗しようとも我が愛龍グラードが貴様をいつでも殺せるように待機している。」
「…………」
「まだ、抵抗するか。ええい、ならばその手脚を切り落としてやる。おい、グラードよ!この女の手脚を切り落とせ!」
クルズは、抵抗するアルレイヤを押さえ付け自身が信頼する龍グラードに指示を出す。
「………………?」
しかし、幾ら待っても応答がない。
「おい、グラード…っ!?」
クルズが苛立ちながら、振り向く。
其処には、龍ではなく一人の人間が立っていた。
片手に、龍の首を持って。
一体、いつから其処に居た…
クルズの額から冷や汗が流れ落ちる。
何故、この私がここまで何者かの接近を許したのか。
油断、慢心、興奮で我を忘れていたらしい。
見た所、まだ若い冒険者か傭兵の類だろう。
(愚かな、死ねぇい!ーーーーん?)
なん、だ?
身体が動かない。
そんなクルズを無視するように、その人物はアルレイヤに向けて言葉を飛ばす。
「大変な事になってるな。」
この話が面白い!続きが気になる!と思ってくださった方は是非、評価や感想を宜しくお願い致します!




