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邪に堕ちし神達の番 〜復讐の焔は、世界をも焼き尽くす。〜  作者: ぷん
一章 異世界召喚篇 〜追放と絶望を添えて〜
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第三話 追放の地

冷たい地面。

ゴツゴツしている。

身体中が痛い。

骨は何本も折れて、呼吸もし辛い。


「――ッ、……」


辺りを見渡すが、全く何も見えない。

ただ真っ暗な空間がずっと続いている。

何も聞こえない…だが、死臭に似たドギツイ臭いが辺りに充満している。


「神殺ノ遺跡。」


確か、四邪神の一核である邪龍が生き絶えた遺跡だったか?

ただの人間である俺にでも分かる。

ここは、やばい。

何も見えないのは、精神的にも辛いな。

俺の命は恐らく長くない…

身体が次第に衰弱しているのが分かる。

だが、死ぬ訳にはいかない…


復讐を果たす迄は…死なない。

死んでたまるか…奴等を皆殺しにしてやる。

ただまずは、ここから脱出しなければ。


だが、どうやって?

少しずつ足を引きずって進んでいるが、全く移動している感覚がない。

視界は無いに等しいので、手探りで進む。

慎重に進まなければならない。


未知の領域。

何が待っているか分からない…邪神と呼ばれる神ですら死んだとされる遺跡だ。

やばくない訳がない。


あ、そうだ。

思い出した…俺は、ここに召喚された時にあのクソビッチに手渡された宝石をポケットから取り出す。

これは、光結晶。

暗い空間で使用するライトみたいな物だ。

掴んで手に持つ。卵程の大きさなので持ちやすい。

結晶に触れる。

えっと確か、結晶には魔力が込められているから呪文を唱えれば光るんだっけ?


「ーー《光よ照らせ(ライト)》」


呪文を唱える。

すると結晶が淡く光り始めた。

元の世界のライトよりは弱いが、それでも明るい。

持ち主の声と共に発動する魔法…凄いな。

本当に、異世界だと思い知らされる。


まだかなり暗いが視界はマシになった。


剥き出しの岩肌。

凹凸の激しい天井。

カサカサと蠢く何か。

足場も悪い。


かなり古めかしい遺跡なのだろう。

至る所がボロボロに朽ち果てている。

胸糞な事に、人骨と思われる骨も所々に落ちている。

彼等もまた、俺と同じ様に捨てられてのだろうか…そう考えると、ますます奴らに復讐しないと気が済まない。

人間の醜さは知っていた筈なのに、自分は完全に忘れていた。

アレが人間の本性なのだと。


身体中が悲鳴を上げている。

ん?

何だ…

一つ部屋を抜けて、また一つ部屋に入り灯りを照らす。

そこには、何らかの怪物の死体が辺りに散らばっていた。


「――ぅッ!?」


酷い臭いだ。

鼻がひん曲がりそうな異臭、既に俺の鼻は曲がっているのだが。


しかし、奇妙な死体だ。

何かに引き千切られている?

一体、何に?

ゴクリと唾を呑む。


 ゾワリと悪寒が駆け巡る。


なん、だ?


「…………」


何か、音がしたような…

俺では無い、何かの音が。

這いずり回る様な、奇妙な音。

心拍数が上がる。

進むにつれて、死体の数が増えていく。

明らかに異次元なデカさを持つ、何かの胴体や頭部が無惨に引き千切られて。



遠のいていた意識が、ハッキリとする。

重たい空気が、俺の身体にのし掛かる。

危険信号が、無限に鳴り響く。

今地上への生還は難しいだろう。

大量の汗が噴き出し始める。

鮮明に浮かぶ死の予感。

周囲に漂うは、死臭。


 こいつらの、一部になるのか?


近づいて来る足音。

元の世界で嫌と言う程に感じた殺意。

これは、やばい。


 息が荒々しくなる。

 足が、手が震える。


寒気?

否、恐怖。


 ここは…危険すぎる。


俺の中の本能が、そう叫んでいる。

 逃げろ。

 逃げるんだ。

 死ぬぞ。

 動かなければ、死ぬぞ!と。


 ふと、先程まで不気味な程に響き渡っていた足音が止まる。


同時に、俺ではない誰かの荒々しい呻き声が耳元で響く。

必死に息を潜めるが、鼓動は無意識に大きな音を奏でる。

止まれ、止まれ!

そう心に言い聞かせるが、止む事を知らない。


「ーー ーーー ーーーー  ーー

  ーーー  ーー  ーーーー ーーー」


 ああ、背後に必ず居る。


それも、巨大な何か。

背後で、不気味な呻き声を上げて。


「ギガがギィーー、フサァぁぁあー」


悪臭が漂う。

獣臭。

死臭。

腐敗臭。


ドシャッ、ジュゥゥゥ……


何か液体が、地面に落ちて。

地面が、溶けている音がする。


溶けているのは地面か?

体液か涎か、それは分からない。


一体、何が…

俺の背後に、どんな化け物が居るんだ?

振り向きたくない、振り向けない。

恐怖が身体が動かない、いや動けない。

動けば、死ぬ。


ただの杞憂じゃない、確かな確証だ。


身体が、いや脳が俺に警告する。

絶対に、動くなと。

まだ、動くな。と。


しかし、その警告は無駄に終わる。


気が付けば俺の身体は、走り出していた。

生存本能が、脳による警告を無視した。


 俺は、走る。


 刹那。


駆け出した瞬間、凄まじい衝撃音が響く。


振り返らない、振り返ってはいけない。


生存本能が、俺の命を繋いだ。

あのまま動かなければ、俺は何かによって潰されていたに違いない。


コケそうになったが、必死に耐える。

そしてただ、駆ける。


本当に、間一髪だった。


 何かが、俺を殺そうとした。

 或いは、喰らおうとした?


確かにわかる事は、奴に捕まれば確実に死ぬ。

それだけは、いやでも理解できる。


とにかく、全力疾走。


振り向く事は、許されない。

自分でも驚く位のスピードで逃げる。

ゾワリと悪寒が全身を駆け抜ける。

脚が震える、身体が震える。

怖い、死にたくない。


背後から、言葉に表せない足音を立てて此方に向かって来る。

狭く暗い遺跡を自由自在に、上から下へと。


やばい。

やばい、やばい。



恐ろしい程の殺気と共に追いかけて来る。


速い…


俺はただ、身体の痛みも忘れて闇雲に走り続ける。


こんな所で、死ぬ訳にはいかない。


それでも尚、消える事のない女神やクラスメイトへの憎悪。

そんな感情さえ、今は鬱陶しいく感じる。

刹那、背後の怪物から俺に向かって何かが飛来する。





そして次の瞬間ーー俺は気付く。

右腕は何処だ?と。

さっきまであった筈の右腕が根本から消え失せていた。

その事実に気付いた時、これまでにない激痛が襲って来る。


「がぁっ、あァァァァァァァァァァァァア!?」


痛い、痛い痛い痛い痛い痛い!!?

気を失いそうな程の痛みを必死に堪えながら、走る。

どうして俺は、まだ諦められない?


「はぁっ!はあっ!はあっ!――ッ!」


息が苦しく、眩暈がする。

それでも、足を止める事が出来ない。

必死に、走り続ける。


常人ならば、もう諦め死を受け入れるだろう。


だが、俺はそれでも生きる事に執着していた。

死よりも苦しい痛みを背負いながらも、まだ生きる為に限界まで走る。

死にたくない。

死ぬ訳には、いかない。


脳は、身体は俺にもう諦めろ!と叫んでいる。

だが、俺の本能は未だに動かない身体を動かし続ける。


どうして俺が、こんな目に…

どうして俺だけが、こんな事に…


「ちくしょう!、ちくしょう!!」


どうして、こうなった。

かつて此処に来る前は、どんな運命でも受け入れると決めていた。

それが、彼女を守る役目を得た俺の使命だったから。

だが、今は違う。

この世界に来て、いや望んで来た訳じゃない…勝手に、世界を救えだとか、くだらない理由で召喚した癖に…

それが、使えないと判断するや否や、切り捨てる。

だけならまだしも、俺をゴミ以下と蔑み、挙げ句の果てには、級友だった俺を簡単に痛め付けるクラスメイト。


ああ、そうか。


俺は悔しいんだ…何も出来き無かった自分が…ただ使えないってだけで全てに裏切られた事が…

どうしようもなく、悔しいんだ。


湧き上がる、悔しさと、どうしようもない憎悪。


死の恐怖よりも…そんな感情が湧いて来る自分にどうしようもなく嫌気がさしている。

俺はこんな時でも、奴らを殺したくて堪らない。


「死んで、たまるかァァァァァァァァァァァァア!」


叫ぶ。

乾き切った喉で、血反吐を吐きながら。

しかし、限界が来る。

足が動かなくなった。


背後に追いついた気配。

ゆっくりと、振り向く。


ちくしょう…

ここまで、か。

はは、結局。



「なにも、できなかった。」


俺は、無力だった。


結晶に照らされて、奴の姿が顕になる。

それは、異形の巨大蜈蚣。

遺跡の殆どを覆い尽くす様な巨体、数万を超える足。

その顔は人が泣いているような人型、酸性の体液を垂らし。

此方に向かって、凄まじい勢いで突進してくる。


明確な、死。


《失せろ下等生物》


ふと、そんな言葉が聞こえて来た。


気のせいか?と思って蜈蚣の方を見ると、先程までの様子とは裏腹に。

酷く身体を震わせ、遺跡の壁や天井などに身体を激突させながら消えていった。


助す、かったのか…?


《そこの小僧。私の声が聞こえているか?》


やはり、気の所為では無かった。

誰かの声が頭の中に響く、少し低い女性の声だ。

だが、その声力は弱々しく、憔悴しきっている感じがする。


「誰だ…」


《事情は後で話そう…今はただ、この道を真っ直ぐ進んで来い。》


罠、か?

いや、そもそもこんな所に人が生きて居られる筈がない。

なら、奴とは別の魔物の仕業か?

だが、俺はもうその女の声に従うしか生きる道が無いと思うしか無かった。


弱々しい結晶の光を頼りに、道を真っ直ぐ進む。

人が一人入れるような細い道を通りながら必死に進む。


すると、辿り着いた先には古めかしく朽ち果て、今にも崩れそうな扉が待ち構えていた。

空気が、酷く澱んでいる。

奴が放つ殺気など屁でも無かったと思わされる程に、扉の先から津波の様に押し寄せる殺気。

近付いてはならないと、本能が告げている。


中に居るのは、悪魔か…或いは、別の何かか。


《選べ。扉を開き己が運命を捻じ曲げるか。

側は、扉を開けず、その命と燃え上がる執念を無辜のものにするか。》


俺の答えは既に、決まっていた。


恐怖による震えは、止まっていた。


ただ、歓喜する。


諦めなくて良かったと。


そう、密かにほくそ笑む。




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