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邪に堕ちし神達の番 〜復讐の焔は、世界をも焼き尽くす。〜  作者: ぷん
第四章 円卓十剣、襲来編
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三十八話 信頼という名の、楔

ようやく解放された…

スマホで時間を確認する。


17時:50分


…予定の時間まで、あと10分。

なんとか、間に合いそうだ。


部屋を出る。

そして、宿の一階にある食堂へ向かう。

思ったよりも客が少ないな。

18時は、丁度いい夕飯の時間だと思うのだが。


「例の迷宮攻略を終えてアネットを出た傭兵や冒険者、結構居るみたいでね。」


ふと、疑問に思っていると店の店主がそう答えた。

俺達は、カウンターの前で飲み物を飲んでいた。

後でアルと合流してから皮袋から送られて来た飯を食べようと思っているので此処ではあまり口にしない。

なんて言ってるが、ほんとは異世界の料理は美味には美味いが…好き。とは口が裂けても言えない。


「どうやらねぇ、例の王様が探し求めていた秘宝が今日の内に発見されたらしいんだよ。

その所為なのか、冒険者や傭兵は次の稼ぎ所を探して国を去って行ったんだ。

昨日まで一杯だった他の宿も私の宿屋の部屋もかなり空きが出てさ。

また活気の薄いアネット小国に逆戻りさ。まぁ、もしかしたら今回の迷宮みたいに新たな迷宮が発見されるかも知らないからそれに期待するしかない。」


愚痴のような独り言をブツブツとつぶやく宿屋の店主。

愚痴は構わないが、せめて離れた所で言って欲しい。

うるさいったらありゃしない。


まぁ、このアネット小国にとって迷宮発見した時は祭りを開いた時と同義なのだろう。


「ああそうだ、そういえば…その例の、秘宝を見つけた人物がこの宿に泊まる予約をくれたのですよ。知ってます?その人…度肝を抜くほど、すごい美人なんですよ!

なんでも、宿で待ち合わせをしてるとか。」


店主は、鼻の下を伸ばしてそういった。

待ち合わせてる人物は誰なのでしょうなぁ?とか呟いて居るが、その人物は目の前に居る。

因みに、待ち合わせをしている人物が居るとは伝えてある。


が、まさかその例の女性だとは思ってもいないのだろう。


まぁ、それも仕方ないだろう。

俺達が一緒に居たのを見ているのは、アネットに着いたばかりの頃に泊まった宿屋の店主などごく僅かだからな。


そう思っていると。


コツ、コツ。


と、足音が近付いて来ている。


「おっ、来ましたぜ…ふぇるご!?」


その足音の正体は顔を見なくても分かる。


店主の顔が、何者かを物語っている。


「リュー殿、ディナ殿、お待たせしました。」


食堂に来てから丁度、10分。


打ち合わせていた時間ピッタリだ。


正に、完璧だ。


ーーー



「なるほど…」

「ああ。俺としてはアンタに仕事として頼んだと勝手に思っていてな。その礼として対価としてしっかりと報酬を払いたい。」


仕事というのは、さっきの龍の雫の一件だ。

注目される危険性がある仕事を彼女に頼んでしまった。

それに、仕事にはそれ相応の対価が必要だ。

 

「アンタにとっても悪い話じゃないだろ?」

「まぁ、私としては助かりますが…」


遠慮気味にそう答える。

まぁ、そりゃそうか。


「ま、この件は考えて置いてくれ。それで本題だが…次の目的地の話だ。」

「ええ。」


机の上に、世界地図を広げる。


「俺達の目的は叛逆の女神、まぁ、古の魔女を探す事でアンタも同じだろ?」

「ええ。」

「んで、その為には幻界領域へ向かう必要があるが…その前にエーレ聖王国へ行く必要がある、だったか?」

「そうです。大神林から通るルートもありますが結局はエーレ聖王国を通らなければなりません。」


エーレ聖王国。

元々は名すら知らない者が多かった弱小国だったが、王と勇者の軍勢の活躍によって四大勇者国へと成り上がった大国か。


「ですが、大神林は四大勇者国の許可がなければ通れませんので此方はほぼ通ることは不可能です。」

「なるほどな。ならどっちにしろ、エーレ聖王国への入国は避けられないと…」

「そうなります」


考え込む。

やはり、向かうにはエーレ聖王国を通るしかないのか。

四大勇者国…リスクは避けたかったのだが仕方ない。



「エーレ聖王国は来るもの拒まずという方針の元で、傭兵や冒険者を快く受け入れると聞いた事があります。それに私としては、エーレ聖王国で情報を集めるのもありかと思っています。」

「確かに、古の魔女の居場所についてはもう少し詳しく知りたいとは思っていた。なら、次の目的地はエーレ聖王国で良いか二人とも。」

「うむ。」

「そう、ですね…」


それに、エーレ聖王国に行くのなら少しやりたいこともある。


本当の目的地は幻界領域と呼ばれる場所。

そこでは、凶暴な魔物が跋扈していると聞いた。

俺とディナとアル。

個の力としては並大抵の魔物や人間よりもはるかに強い。


しかし、所詮は"個"の力に過ぎない。

いずれ、限界は来るだろう。

魔物の群れによる厄介さは充分に知っている。

左右、前後からの集団攻撃や奇襲攻撃を受ければ如何に個人が強くとも3人では限度がある。


もう一人か二人、戦力が欲しい。

それも半端な実力者ではなく、修羅場を潜った選りすぐりの戦士。


それに…此方の協力者は少し問題がある。


俺達が旅を続けるに当たって、決して無視できない大きすぎる問題。

これを解決しない限りは、常にまとわりついてくる。


それが分かっているから、彼女は先程から考え込んで苦い顔をしている。

何かを躊躇しているとも感じられる。


「…………」


仕方ない、か。

約束を破る形にはなってしまうが、互いの関係の為には仕方ない。

 

「まぁ、アンタが悩んでる理由もわかるさ。明日か明後日には出発したいからな。

それまでに考えておいて欲しいが、いいか?アルレイヤ。」

「そうですね…分かりまし、、、、あ…」


ハッとした表情を、見せる。


しまった。と、口もとへ手をやるアル。


まるで自らの失言を、自覚したように。


「……」


不意打ちとは言っても、認めざる得なくなった。


「約束を破る形にはなってしまったが、すまない。」



 一拍あって、彼女は口を開いた。


「約束…とうに、バレていたのですか。」

「まぁ、な。」


確信したのは、あの迷宮でだったが…

初めて出会った時の、あの本当の容姿。

小国に向かう前に、彼女は顔立ちを変えていた。

そして、宿の酒場にいた冒険者達の噂話。

偶然が重なった結果、そこに至った。


「バレるのも、時間の問題でしたね。」


「まぁ分かった所で、誰かに漏らすつもないしな。正体が分かっていても俺は今まで通り協力者として、対等に接するつもりだ。

それに、アンタは躊躇と罪悪感の狭間にいた感じがして苦しそうだったからな。」

「ーーッ」


ハッとした表情で、下を向く彼女。


「全てお見通しなのですか。」


何か決心した様子で、俺達の顔を見る。


そして、彼女の全身が淡く光を放つ。


その瞬間ーー姿が変わった。


初めて出逢った時と同じ、”本当の姿"


凛々しく、綺麗な顔立ち。

綺麗に揃えられた上品なまつ毛。

翠緑色の美しく澄んだ瞳。

歪に形と長さの違う尖った耳。

片方は長く、片方は短く。


だが、そんな事を気にする余裕もない程に美しい顔立ち。

幼さ、艶やかさ、大人っぽさが合わさった魅惑的で神秘的。

あの時よりも、洗練されている。


初めて見た時のディナ…いや、ヴォーディガーンと同じくらい。


そして同時に…その意図に気づく。


「そうか…俺はアンタにとって信頼に足る人物だと判断してくれた訳か。」


椅子から立ち上がる。


アルレイヤもまた、座っていたソファーから立ち上がる。


「はい。私は、貴方達を信じてみようと思います。」


俺達の目を真っ直ぐに見据え、俺の手を取る。

何処までも美しく、揺るぎない信念を含んだ瞳が俺の濁りきった瞳を一切逸らす事なく。


「改めて、私は貴方達を信じます。」


…信頼、か。

そのつもりは、なかったんだけどな。

彼女の真面目さを近くで感じると、嫌でも嘘を付きたくなくなってしまう。


「リュート。」

「?」


アルレイヤが目を丸くして、固まる。


ヴォーディガーン以外の仲間にこの名前を明かすつもりはなかったんだけどな。

もう一度だけ、信じてみよう。

そう思った。


「俺の本当の名は、リュート・イズモ。俺もまた、アンタを信頼してこの名を明かす。」


本当の名を明かした。

俺だけ名前も正体も知っている状態で、居るのはフェアじゃない。

それに、こうして信頼という言葉の元で名を明かせば優しく真面目すぎる彼女はその信頼を決して裏切れない。

相変わらず性根が腐っているが、それで構わない。

信頼、という名の楔を打ち込ませて貰った。


「リュート殿…」

「ならば、我も本当の名と正体を言わねばな。」

「申し訳ありません…貴女の正体には察しがついています。貴女はきっと…かの邪神龍ヴォーディガーンですよね?」


俺達は大きく目を見開く。


まさか、気付いて居たのか…

ディナの正体に…一体いつから?


「初めて出会った時から薄々そう感じていたのです。とても似ていた…私の全てを奪った姉と共に居た最強の龍が放っていた魔力と。」

「……其奴の名は?」

「赤き厄災にして、龍族の神"ウェールズ"…」

「そうか。」

「そしてリュート殿は、その番ですよね?」


そこまでわかるのか。


「我が姉もそうなのです。」

「ああ、なるほどな…」


しばし、沈黙が流れる。


「まぁ、とにかくよろしくな。」

「ええ。」


アルレイヤの表情が和らいだ。

最早そこに、疑いの余地はなかった。


スッと、彼女が手を差し出してきた。


「アルレイヤ・ベンドラゴンです。これからの長い旅路、改めてよろしくお願いします。」


俺とディナも、彼女の手を握り返す。


「ああ、よろしく頼む」

「宜しくのう。」

「はい」


この会話を盗み聞きしている奴は居ない、か。

もし仮に、居たとしたらソイツの命は既に無かった。

よかったよ、悪意にも囚われていない人間を殺す羽目にならなくて。


そして改めて、ようやく本当の意味で進める。


出発は明日。


目的地は、エーレ聖王国。

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