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第三十五話 彼等は厄災

頭部は鶏を連想させた。


サイズは、巨躯。

蛇のような身体で狭い迷宮を覆い尽くす。

鱗は銀色で、見るからに硬そうだ。

隻眼、漆黒に染まるもう片方の瞳。

眼球は、ぐるぐると留まることを知らない。

鶏の羽と人の手が入り混じったような…腕?が幾重も生えている。

巨大な嘴、そこから覗く蛇の舌。

嘴の中には強靭な牙も備わっている。

更に嘴には、夥しい血がこびり付いている。

真新しい、鮮明な色の血。


おそらく、食事中だったのだろう。

それを妨げた俺達に憤慨しているのか、バジリスクは雄叫びをあげる。


「シャァァぁいぅィ゛ぃ゛ィぃェぇァぁ!コケコッコここここここ!!!」


耳が痛くなるような咆哮。

蛇の威嚇するような鳴き声と鶏の鳴き声が混じったような気持ち悪い咆哮。

まだ、襲ってくる気配はない。

ジワジワと距離を詰めてくる。


「リューさん、ディナさん。」

「ん?」

「はっきりと言わせていただきます。

「あれは正真正銘、呪竜バジリスクです。

恐らくこの迷宮の攻略に集まった傭兵や冒険者たちの手に負える魔物ではないでしょう。 竜誓剣団のリーダーなら、なんとか…あの軀で俊敏で、頑丈な皮膚。尤も厄介なのは強力な呪いです。そして、リューさんが用いるあの術も効かないでしょう。」


確かに、竜誓剣団のリーダーだと思われるあの女は相当な猛者だった。

しかし、"呪"竜ね…


「…………」


俺はバジリスクを観察する。

先程よりも更に目まぐるしく動く眼球。

 さっきから俺とやたら目が遭う。

狙われている、明らかに。

三人の内、一番に弱いのは俺だと。

 なるほど。

根本は、変わらないのか。


どう襲ってくる?


飛び掛かって来るなら手っ取り早いが、そうとも限らない。

此方が動いた時、それ以上の速さで攻撃を仕掛けてくるパターンもあり得る。

 現状ではまだ把握できない。


 

「リュー殿、私に提案があります。」


 アルが声を掛けてくる。


腰に帯びた鞘より剣を抜く。



剣の刃が黄金の輝きを放つ。

光は、次第にその量を増していく。


その輝きは悪に染まった俺とディナにとって、眩しすぎる光だ。

バジリスクの彼女に対する警戒度がぐんと上がった。


「私が聖剣の力を解放します。すこしばかり身体に負荷が掛かりますが致し方ありません。聖剣の力で有れば奴の呪いも多少なら無効化出来ますので私がやりましょう。」


バジリスクが距離を取る。

そして、パカッと嘴をかっ開く。

嘴から僅かな魔力が漏れ出して居たのは、確認していた。

 何かを放って俺、いや3人を一斉に殺すつもりなのだろう。

が――まだ攻撃の意思はない。

最適の機会を伺って居るのだろう。


アルが聖剣を握り、受けの体制に入る。


いや、なんだ?

何か、違和感がある。


微かに、本当に微かにだが…

バジリスクの口元が、歪んだ。


ん?

眼球が真っ暗に染まっている…


呪竜、呪い…なるほど、そう言う事か。



「ですがーーあの魔物の強さが私の予想以上だった場合、貴方達を護る事は不可能ですが、、、出来る限りの事は致します。」


「ぎィぃ、ゲ、ろォぉォおオおオお゛オ゛――――っ!」


眼光は真っ赤に煌めき、膨大な魔力を収束する。


全力を以って何かを仕掛けて来る。


「やれるか?リュートよ。」

「ああ。」


 ニヤリとほくそ笑む。



「ーー『神龍鎧装』」


ガシャン、ガシャン。と機械音が鳴り響く。


全身に纏われた漆黒の禍々しい鎧。

龍を彷彿とさせる兜。


アルが驚愕する。


(これは…あの日、感じたーー恐ろしい怪物の力、凄まじい力…そして同時に、悲しくもなるような…)


大気が震える。


「オ、ラァガァダァええ!!」


バジリスクの口内の光が一段と強くなる。

そして、凄まじい程の光の波動が放たれる。


ゴォォォォォォォォ


と、言う凄まじい轟音。

全てを消し炭にする超高出力の魔力砲が音速を超えて迫り来る。

しかし、リュートは動かない。


ただ、スッと右手を突き出す。


「絶技ーー『災禍の門』」


荒々しく燃える黒炎に囲まれた門が顕現する。

ソレはあらゆる全てを呑み込む厄災の入り口。

放たれた光線は開かれた門の中に呑み込まれた。


しかし、その一撃はバジリスクにとってブラフに過ぎなかった。

バジリスクの眼球がギョロリと蠢き、視界に俺を捉える。


「ーーッ!」


アルはすぐにその意図に気が付き、此方へ走ってくる。


「カカァかカケかなぁ!!」


漆黒に染まった眼球が、暗黒の光を放つ。


"死"の呪い。


呪竜バジリスク。


この世界でもその存在は呪いの象徴として恐れられてきた。

バジリスクの魔眼と眼が遭えば最期、それは言葉では表せない苦痛と死の絶望に陥ると言われている。


その魔眼が、リュートを確かに捉えた。


此処に、死の呪いが発動する。


勝った。


と、バジリスクが歓喜の声をあげる。


「コケコェェコケェーー、コ、けぇ、ぇ、?」



バジリスクの動きが停止した。

バジリスクから歪んだ笑みが消え、混乱と動揺が伝わってくる。

 表情ではないが、眼で分かる。

 俺は一歩、前へ出た。


「なっーー」


アルは、何が起こったのか分からずただ佇む。


「う」


確かに、コイツの呪いは普通の人間なら脅威だろう。


ーー()()()()()



「ーー残念だったな。」


確かに俺は、やつの呪いを受けた。

死の呪い。


バジリスクの身体が変色し、苦しみ出す。


大きい身体で、悶え苦しむ。

身体中からドス黒い血が噴き出る。

泡を吹き、全身に発疹が起こる。


特別な事はしてない。


「これは…何が、起きて?」


剣を下ろし、バジリスクに起きた異変に唖然とする。

 

ゆっくりと歩き、バジリスクの前に立つ。


「お前の落ち度って訳でもない。」


そう、完璧だった。

意識を向けざる得ない攻撃をブラフとし、本命の呪い攻撃への意識を遠ざける。

賢く、完璧な作戦だった。

 

現に、お前が口元を歪ませるまでは考えもしてなかったよ。


ただ、まぁ…相手が悪かった。


「ただ…」



 

「全ての呪いを背負う俺にとって…ただただ心地いい攻撃だったよ。」



「貴方は、貴方達は一体ーー何者なのですか?」


彼女は、敬意と畏怖の念を込めて問う。


呪いの王と呼ばれる呪竜バジリスクの呪いをも弾き返す人間を彼女は知らない。

何らかの武器、防具、魔法に加護があるとするならば知っているが…


ごくり。

と、唾を呑みその返答を待つ。


彼は、彼等はニヤリと嗤う。


そして、言う。


「俺達はーーこの世界を焼き尽くし蹂躙する…厄災だ。」


その言葉に、アルは思い出す。


かつて、憎き姉がまだ幼い自分に言い聞かせた話。


《早く寝ないと、厄災の龍が貴女を喰らいに来ますよ。》


そう、それだ。


思い返せば、思い当たる点は幾つもあった。


いや、拡散せざる得ない。


その常軌を逸した力。


彼等を突き動かす動機。


そして何よりも、彼が身に纏った鎧。


間違いない、間違いである筈がなかった。


その正体は彼ではない。


彼女こそソレであり、彼はその"番"と仮定すれば納得がいく、いってしまう。


彼等と出逢う前、聖剣が呻きを上げていたのはそう言う事だったのか。


復活していたのだ。


彼等こそ確かに、厄災。


その名はーー"邪神龍"ヴォーディガーンである。



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