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第三十四話 その名は、バジリスク


彼女が完全に寝た事を確認した俺は自分の寝袋の上に座った。


「俺も横になろう。」


ディナも寝てしまったしな。

寝る前に、ステータスを確認。

レベルは上がっていない。

魔力はまだまだ余裕がある。



ステータス確認後、少し横になる。

今は迷宮の攻略中。

アルレイヤ・ペンドラゴの件。

彼女自身の事について聞くのも話すのも今じゃない。

それに今、俺達は何も見ていないし知らない。

触れるにしても、せめて地上へ戻ってからだ。

 今はまず階層の攻略だ。

恐らく、近いはずだ。

最後の階層に待ち受ける何かが。


「…………」


少し目をつむる。


「ん、……んん。」


吐息混じりの小さい音が聞こえる。

静かな空間だからか、余計に物音が聞こえる。



「寝ていた…のですか。」


身体を起こす音。

起きたようだな。


「起きたか。」


俺も身体を起こす。

此処からは、何事もなかったかのようにする。

彼女に負担が掛からないように自然に接する。

演技は得意だ。


「ええ、ご迷惑を。」


別に謝る事でもないんだけどな…きっと癖なのだろう。

俺が言ってすぐに治るようなものでもない。


「迷惑だと思われるのは心外だな。それより、少しは疲れが取れたか?」

「はい…お陰様で。」


顔は元に戻っている。

が、顔色はさっきと比べてよく見える。

やはり、相当に限界が来ていただろう。


「そうか、なら良かった。」

「我達と居る間は、安心して休むがいい。」

「……はい。ありがとうございます…少し気を張りすぎていました。次は気をつけます。」


苦笑しながら、そう返すアル。

若干だが、俺達に対しての信用度が上がった気がする。

ほんの短時間だったが、初めて彼女が俺達と目線を合わせた。

少しだけ警戒心も薄れたのだろう。


まだ完全に信用されるに至っていないが、まずまずだろう。

結果的に俺が掛けた言葉は、この場では正しかったのかもしれない。


「もう大丈夫か?」

「ええ…」


神殺ノ遺跡。

あそこでは、常日頃から神経をすり減らしていた。

それこそ今の彼女みたいに休息を取る間も無く、魔物が容赦なく襲いかかってきた。


宿に辿り着き、眠りについた。

その時に、睡眠の大切さを改めて実感した。

だからこそーー


「睡眠は可能な限り取っておいた方がいい。」

「ああ、その通りだ。」

「分かりました…」


じゃないと


「ーー何が起きるかも分からないしな。」


ーー


階層を進む準備を終え、部屋を後にする。


道中で魔物と遭遇する事はなく、簡単に次の階層へと繋がる階段に辿り着いた。

そこで、感じる。


「この下の階、何処か他の階層とは雰囲気が違います。」


彼女も気付いたようだ。


そう、この階段の下からはこれ迄とは違う雰囲気がひしひしと伝わる。

恐らく、最後の階層だ。


これまでより警戒して進む。


俺達は階段を下り遂に最下層へと降りた。


最下層は、これまでの階層とは違い煌びやかだった。

壁に様々な色の光を放つ輝石が埋め込まれている。


「やたらと輝石の数が多いな。」

「ええ、そうですね。」

「ふーむ、悪くない。」


辺りを警戒する。

アルの動きは冴えている。

やはり、適度な睡眠は大切だったようだ。


「確か輝石は、魔力濃度の濃い場所に出来やすいって書いてあったな。」


下に降るにつれて輝石の数が増えている気がする。

地下の方が魔力が濃いのか?


「それか…此処が他の階層よりも魔力濃度が濃い場合だ。或いは、神秘力がな。」

「確かに…それもあるかもしれません」


確か、異界大全にも…全ての遺跡や迷宮にこのような階層がある訳ではない。と記されていたな。


「かの大英雄アルケイデスの残した書物では、魔力濃度が濃い場所には美しい輝石が現れるのと同時に、予想打にしない災厄が待ち受けている。と書かれていました。」

「へぇ、あんたアルケイデスを知ってるのか?」

「ええ、今となってはその名を知る者は限られてしまいましたが…かつては大陸中にその名と偉業が広まっていました。

私も彼から沢山の事を教えて頂きましたから。」


…ん?

度々、彼女の発言に引っ掛かる。

まるで会ったことがあるような言い草…いや、だとしたら有り得ない。

アルケイデスは確か、数千年前に居たんだよな?


もし仮に彼女がアルケイデスと直接会った事があると言うなら…彼女は一体、()()()()()()()()()()()()


疑問を浮かべながら歩いていると。

前を先行して歩いていたディナが立ち止まる。

 

「あの扉を見ろ。」


視線の、正面の先を指差す。

巨大な鉄扉。

横幅と縦幅が広く高い扉だ。


「何か、危険な気配がします。」


鳥の羽と蛇の紋様が刻まれた扉。

 薄気味悪い、扉だ。


推測が正しければ、此処はボス部屋か。


「…………」


ただ我慢なのは…


「扉が開いていますね……」


その扉はすでに開かれていた。

部屋奥を観察する為に目を凝らす。

が、ここからだとよく見えない。

流石に遠すぎるか。


気配察知を発動しつつ、ゆっくりと扉に近づく。

三人で両側から中を覗き込む。

不気味な部屋。

壁にはイグアナや蛇、そして鶏を彷彿とさせる生物の絵が刻まれている。


そして、中には魔物や人間の骨や死骸。

頭蓋や手脚の骨は、辛うじて形や長さで判断出来た。

が、その殆どが原型を留めていない。


室内に魔物の気配はない。

軽く部屋を探索する。

特に、何もない。

気になるのは、この部屋の主の正体と行方。

ん?


よく見ると床に何か引きずったような跡と血痕が残っていた。

それは部屋の先まで続いていた。

それも、この血の色から推測するにかなり新しい。

この部屋にいた魔物がやったのだろう。

その魔物は、扉を開けてどこかへ移動した。

 

「どうやら、不在みたいだな。」

「どうする?」

「捜しに行く。もしかするとーー」


そう言い、動き出そうとする。


その時。


ーーズゥン


「今の音、聞こえたか?」

「はい」

「ああ」


ドスン、ドスン、ドスン


響き方から、音の発生源はかなり遠い。

同時、大きな足音が響く。


「ふっ、どうやら探しに行く手間が省けたらしい。」


物凄い速さで、近づいてくる。

足音から、数は一体。

が、かなりデカい。


「――ィぃェぇエ!、コケぇ!」


主の咆哮が遠くから聞こえてくる。

俺達が居る部屋は普通だが、廊下の構造上…叫び声にも似た咆哮が至る所に反響して聞こえる。

しかも、気配察知に引っかからない。

 その所為で、何処から来るか分からない。


「どうしますか?」

「取り敢えず、様子見をしたい。隠れられそうな場所を見つけよう。」

「うむ」

「分かりました!」


直ぐに、移動を開始する。

魔物の強さは現時点で未知数。

聞こえて来た鳴き声とアルケイデスが残した書物に居た魔物の姿を照らし合わせる。

だが、確定は出来ない。


油断は禁物。

広いフロアに出た。

至る所に身を隠せそうな障害物がある。

 が、遅いらしい。



ドガンッ!


ドガァァァン!!!


激しい破壊音。

分厚い壁を突き破り、魔物がその姿を現す。

宙を舞う破壊された壁の破片。

奴の姿を目視ーーそして感じる。


「こいつは…」


ーー()()()


紛れもない、怪物。


この迷宮に居た、全ての魔物とは比べものにならない。


あの遺跡に居た怪物と同じ類だ。


アルの顔色が変わる。


「まさか――」


彼女が、その名を叫ぶ。


「バジリスク、ッ!?」


魔物の眼光が、獲物を照らした。


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