第三十三話 彼女の正体
リュートside
迷宮を進むと、魔物は定期的に襲ってきた。
中には、強力な個体もいたが3人で役割を分担し対処している。
その中で思ったのは、アルの剣技。
全ての魔物をたった一振りで屠る技術。
側から見ていて全く、無駄のない動き。
アルの剣技は俺達の想像以上に強く熟練されている。
それこそ、何十年いや何百年も剣を振り続けたかのようにも感じられる。
分かり易く言えば、戦い慣れている。
階層を奥に進むと、階段がある。
魔物の襲撃に警戒し、慎重に降りる。
ここら辺の魔物は、強い。
依然、問題はないが迷宮に居た竜誓剣団のリーダーとそのメンバーを除く傭兵や冒険者だったら苦戦、或いは死んでいただろう。
階段を降りる。
すると、廃村っぽい場所に辿り着く。
「お?」
探索を進める。
と、あの遺跡でも見た憶えがある扉が目に映る。
石造ではなく、木造りだが。
魔力を流し込むと宝玉が光って、扉が開く仕掛けだ。
宝石に触れ、魔力を流し込む。
木造りとは思えない音を立てて扉が開いた。
警戒しつつ、中の様子を見る。
誰一人居ない、もぬけの殻だ。
入って辺りを照らす。
一言で言えば、部屋だ。
木造りの机と椅子。
ランタンと言った家具、そして三つのベッド。
何故、という疑問が浮かぶ。
が、罠の気配はない。
部屋の外で辺りの見張りをしている2人を呼ぶ。
「よし、入って大丈夫そうだ。」
「うむ、褒めて遣わす。」
「ありがとうございます。」
2人が部屋へ入ってくる。
こうして比べると、アルは礼儀正しいな。
まぁでも、今のは俺が勝手にやった事だから礼は要らないんだがな。
扉を閉め、荷物を置く。
ガチャと、扉が固く閉まる。
開ける時は再び魔力を流し込む仕組みだ。
なので、外から魔物が入ってくる事はない。
スマホで時間を確認。
「ここで休息を取ろう。」
「ああ。」
「分かりました。」
「なんなら、寝てていいぞ。」
「はい…」
「眠くないなら、仮眠位は取っておいた方がいい。」
見た感じ、随分と辛そうだからな。
満足に寝れてないのだろう。
「…」
暫く、黙り込む。
そして、彼女はこう言った。
「わかりました…、少しだけ寝ます。」
彼女は、装備を付けたまま寝転ぶ。
次に寝袋を敷き、彼女は横たわる。
俺の方へ背を向けた体勢で。
「……」
やはり、寝てないな。
いや、と言うより寝ようと思っても寝れないのだろう。
理由は、ある程度なら推測出来る。
彼女の全てを聞いた訳じゃないが、彼女の正体はおおよそ予想が付いている。
俺と出会う前から、毎日のように繰り返してきたであろう逃走劇。
それはきっと休む間もなく、次々と刺客や追っ手を迎撃する為に或いは逃亡を測る為に…
周りは敵だらけの状況。
誰も信用出来ず、追われる日々。
まともな睡眠は取れず、仮に睡眠した時に追っ手に襲われるかも知れない不安感。
実際、俺達と出会った時もあの5人組に命を狙われていた。
彼女の心情はきっと、俺では計り知れない程に荒んでいるだう。
誰も信用出来ない。
何故、それが分かるのか。
それは彼女が、出会ってから此処に至るまで…
宿での会話。
宿での食事。
ギルドでの問答。
迷宮の攻略。
その中で彼女は…俺達を含めた全ての人間とたったの一度も目を合わせていない。
"彼女"は"俺"だ。
少し、違いがあるとすれば…
信じていた誰かに裏切られて、全てを失った。
信じていた誰かに裏切られて、全てに絶望した。
そんな、些細な違いだろう。
横たわっている彼女は、未だに警戒が解けず常に緊張状態で睡眠すら安心して出来ていない。
宿に居た時も恐らく、彼女は殆ど寝ていないだろう。
精神的にも身体的にも限界が近い筈だ。
迷宮に入ってから、常に何処か危なげで倒れそうだった。
これからも…となると少し困る、かなり困る。
流石に、放置して置く訳にはいかないだろう。
だが、生憎…俺はそんな彼女に何と声を掛けてやればいいか分からない。
ディナもきっと、同じなのだろう。
鬼龍院だったら、きっと彼女に寄り添うはずだ。
でも俺は、鬼龍院のような完璧な慈善に満ち溢れた人間じゃない。
だから、俺は俺が正しいと思う言葉を掛ける事にした。
「ま、なんだ…俺達が居る限り、アンタには誰一人として近付けさせない。
…そして俺達は、何も知らないし見ていない。」
暫し、沈黙が流れる。
そして…
「優しいのですね…貴方達は…そう、ですね…少し、疲れ、まし…」
途中で、言葉は途切れた。
ディナが彼女の側に行き、顔を覗き込む。
寝ている。と合図してきた。
そうか…少し、安心したな。
だが、彼女は一つだけ勘違いしている。
優しい?
いいや…違う。
有り得ない。
そう断じて有り得ない、有り得る筈がない。
今の一連の行動だってそうだ。
俺は、俺の復讐の為にそうしたに過ぎない。
悪いな…
俺は、お前を目的の為に利用させて貰う。
だから困るんだよ…お前が壊れたら、さ。
「……ん?」
ふと、寝ているアルの身体から何か小さな光が飛び出した。
アレは…聖霊だったか?
桃色の光、確か幻術を得意とする聖霊。
と言うことは、つまり…
ふと、冒険者ギルドで見た手配書に刻まれた顔を思い出す。
そして、俺と彼女が初めて会った時に見た素顔と今の素顔を照らし合わせる。
ああ、やはりそうだったか。
合点が行った。
彼女こそ…"叛逆姫"、帝国の元女王アルレイヤ・ペンドラゴンか。
今週は学校の行事やらで忙しく更新が出来ないかも知れません。
一応、Twitterで現状をお知らせする予定ではあります。
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