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第三十話 龍の雫と隠し階段

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先程のような、右往左往とした迷宮構造とは打って変わり奥まで一方通行の通路。


道中に冒険者や傭兵らが発見したような休憩部屋はない。

このエリアは魔物の気配を微塵も感じないな。


「ん?」


天井が高く広い通路。

奇妙な小型の彫刻が両側の壁にズラッと並んでいる。

奥へ進むと、立派な扉が姿を現した。

扉の奥から、異質な雰囲気を感じる。


「……行くか」

「はい。」、「ああ。」


ここで立ち止まっているのも勿体無い。

巨大な扉の前に立つ。

両手に力を入れて、扉を押す。


慎重に、部屋の中を覗き込む。


部屋奥には、巨大な彫刻が何体も配置されている。

灰色と黒色の混じった壁。

部屋奥の彫刻は異形の形をしていて、竜、牛、羊などと言った様々な生物が混じったような姿。


「…………」


部屋の奥にある祭壇を見据える。


祭壇と思わしき台座の上に、金に輝く杯が一つ載っていた。


微かだが、神秘を纏っている。

ぽつりと、置かれてある。


「あれが、龍の雫か?」


どうやら目的地に、到達したらしい。


部屋に足を踏み入れる。


依然、魔物の気配はない。

気配察知にも何も引っ掛からない。

今は、まだ。

台座の前まで移動。

側に聳え立つ石像を眺める。

嫌な、予感がした。


「絶対に動くぞ。」

「うーむ、確かに。」


異世界系のアニメや漫画に触れた人間なら誰もが予想するだろう。

宝物や武器を手にすると動き出す仕掛け。

RPGとかによくあるギミックだ。

この石像は絶対に怪しい。

そう思っていると、ふと目が動いた気がする。

気の所為かも知れない…が、念の為だ。


「ーー『動く事を禁ず(レームング)』」


すると、巨大な彫刻が微かに動いた。


異形の彫刻に生命が宿っていく。

ゴゴゴゴ、と重い石を動かすような音と共に巨大な彫刻の目が真っ赤に煌る。


「――ギにゃなぁが!、ァ?」


攻撃意思を感じると動き出すのか。

でも、少し遅いな。


彫刻の魔物は既に動けない。


「ーーん?」


ゴゴゴゴ…

ふと、背後からも同様の音が聞こえた。


振り返る。


開いた扉の悪、出口側。

壁に並んだ小型の彫刻が動き出していた。


「アゲ、ェ、アレェ!?」


巨大な彫刻が苦しそうな声を上げながら必死に声を漏らす。


「ギ、げ、ェぇ……ッ!」


殺せ!と言っているような。

それを感じ取ったのか、小型の彫刻魔物が一斉に俺達に向かって襲い掛かってくる。

カタカタカタと、首を右左に揺らしながら。

石とは思えない俊敏さだ。

 

一方の動きを封じられた巨大な彫刻魔物は、必死の足掻きで何とか口を開ける。


「ぎぃ、ぁえ、あがぁ?ぐぎゃっ、おぇ!?」


レーザーでも出そうとしたのか?

残念だが、動きを封じてる以上それは無駄だ。

魔物が口から紫色の血反吐を吐く。

無理矢理、身体を動かそうとする際に身体が内側からダメージを負う効果も持っている。


「すぐに楽にしてやるさ。」


地を踏み込み、魔物へと肉薄する。

腕に魔力を込めて、動きを封じた奴の心臓を貫く。


大量の血を吐き、魔物は顔からボロボロと崩れ落ちる。


 ボロッ……

 ガラガラガラッ!


跡形もなく、ただの小石へと成り代わった。


後ろを確認する。


あの小型の彫刻魔物達はディナとアルの2人によって討伐されていた。

辺りを警戒するが、反応はない。


「魔物はもう居ないか…」


なんというか、拍子抜けだな。

地上へと繋がる扉を守っていたあのヒュドラ…奴は本当に厄介で恐ろしかった。

あんの化け物じみた奴が此処を守っていたら、苦戦していた。


「で、これか。」


目の前のーー金杯を凝視する。


小さな金杯。

そして、その中で輝く液体。

その液体は、本当に一雫。

金杯に飾り付けられた宝玉。

2匹の龍が絡み付いたステム部分。

杯の器部分を下から前足で持つようなデザインだ。

艶やかな水面が、俺達を映し出す。


「これが…龍の雫か。」

「この神力間違いなかろう。紛う事なき龍の涙だ。」

「遂に…遂に…!」


アルの顔から安堵の笑みが溢れる。

そりゃそうか。

彼女が探し求めた物が目の前にあるんだから。


「さぁ、これはアンタの物だ。」


龍の雫は、アネットの王に献上するって話だったが…それ以前に、俺達と彼女の間にある契約の方が大切だからな。

対価には、それ相応の対価を。

それが例え、結果的に国の命令を背いたとしても俺達は冒険者であって国民ではない。

ギルドは国の法に縛られない。


「……ッ」


アルが金杯を手に取る。

一滴の雫が溢れないよう、ゆっくりと慎重に口を近づける。

そして、雫は彼女の口の中へ吸い込まれる。


「………」

「……」


暫く、経過を観察する。

が、特に変わった様子はみられない。


「ッ…ダメです…聖剣と聖鎧の呪いに変化を感じられません…」


ダメ、だったのか。

正直、言葉が見つからない。


「ふむ…どうやら、厄介な呪いを掛けられたようだな。やはり、呪いを解くのに効率的なのは術師を殺すことだな。」

「そう、ですね。」

「でも、その呪いを掛けた本人が分からないと解きようもないだろ。」

「いえ、私に呪いを掛けた本人はわかります。四大勇者国の中でも最強の国力を誇るブリテン大帝国の女皇です。」


おぉ、マジか…これはまた、大物の名前が出たな。

しかし、此処でもまた勇者国か…ったく、どうなってやがるこの世界は。


「それは難しいな。現状、戦力も足りないし得策ではないな。」

「やはり、古の魔女を探すしかありません。」


彼女は、希望を捨てては居なかった。

少し、安心した。


「そうだな。ま、取り敢えず龍の雫が入ってた金杯は持ち帰ろう。

報酬が貰えるかは分からないがな。」


ガコン。

ふと、そんな音が聞こえた気がした。

金杯が置かれていた台座の方に眼を向けると、台座が姿を消し巨大な石造りの階段が地下へと続いていた。


「これは、隠し階段?」


金杯を取ると現れる仕組みだったのか?

この下に何があるのか…


「どうしますか?」

「ふむ、一つしかなかろう。」

「行ってみるか。」


俺達は慎重に階段を降りる。

階段は狭い、人一人がようやく通れる。

宝玉に魔力を流し、灯を灯す。


魔物の気配。

三体か。

少し、いやかなりシュールな姿。

頭部が小さく、筋肉が異常に発達した鼠の魔物だ。


異界大全に載っていたな。

筋鼠(マッシュマウス)だったか?

生息地は迷宮の最下層に棲息していると書いてあった気がする。


動きは、速いな。

さっきまでの迷宮に居た魔物とは比べ物にならない。

ようやく本番って事か。


筋鼠(マッシュマウス)が巨大な腕を振り下ろす。

それを躱し、短剣を抜く。

筋鼠(マッシュマウス)の喉元めがけて、一閃。


身体が黒紫に変色し、全身から血を吐き出し絶命する。


俺の方は終わった。

後は…


「来るがいい、遊んでやる。」


筋鼠(マッシュマウス)がディナに飛び掛かる。

強力な殴打が彼女の顔目掛けて放たれる。


「ふむ…不合格。ーー『天螺』」


筋鼠(マッシュマウス)の身体が捻じ切れる。

大量の血と臓物が辺りに飛び散る。

相変わらず、酷い技だな。


「シィ!」


腰に帯びた鞘から剣を抜き、筋鼠(マッシュマウス)の振るった腕を斬り落とす。

怯んだ筋鼠(マッシュマウス)に出来た隙に、彼女は筋鼠(マッシュマウス)の首を刎ね落とす。


「見事な剣捌きだな。」

「ああ、研ぎ澄まされている。」

「ありがとうございます。貴方達も見事な戦い振りです…依然、その力の全貌が見えません。」


なんか、褒められると恥ずかしいな。

悪い気分はしないけど。


魔物を倒し終え、俺達は再び迷宮を進む。


「そう言えば、魔物について少し聞きたいんだが…」


異界大全で得たこの世界の知識と現在のこの世界の知識との乖離。

特に地上に出てから、特にそれがある。

赤眼と隻眼、それ以外の魔物の違い。

 あの遺跡に居た、化け物じみた魔物が地上にも居るのか知りたかった。

仮にそれが居て、それを倒せる者が居るなら…ソイツは俺達にとって脅威となる。


「赤眼の魔物は”魔魂”を多く持つと言われています。異世界人や勇者国はコレを"経験値"と呼んでいます。

因みに魔物は、通常種と異常種なんて区別の仕方もされています。」


経験値の概念は、この世界の誰もが知っているらしい。

異世界の勇者は殺した魔物の魔魂を吸収し力にする。


「異界の勇者たちにとって赤眼の魔物は”レベルアップ”と呼ばれる加護を効率よく上げるのに適した獲物と認識されているようです。」


勇者国がある位だ、この世界の人間が異世界人やその言葉をある程度知っていても不思議ではないか。


「それと、人間を殺しても経験値は得られますがほんの少しだけです。経験値を稼ぐならやはり、魔物を殺す事でしょう。」


なるほどな。

地上に出て直ぐに殺したあの5人組。

そして、迷宮で殺したあの屑ども。

どちらも、経験値を多少しか得られないのか。

いや、不思議ではない。

むしろ、妥当だと思う。

仮に人が魔物と同等の経験値を持っていたら、魔物を狩らずに人を殺す方が死のリスクが少ない。

そうすると、至る所で人殺しが多発する。


仮に、強大な戦士を殺す事で莫大な経験値が得られるとしたら…

考えただけで、不快だな。


「赤眼の魔物は、レベル上げとしては最適な魔物って訳か」

「その通りです。赤眼の魔物は迷宮や遺跡に数多く潜んで居ます。元々は勇者育成の為に、国々が地上に蔓延っていた赤眼の魔物を一箇所の場所に追い詰めていたと聞いたことがあります。

それがやがて人々の管理から離れ、迷宮となったと言う説もあります。」


そう考えると、魔物達視点からすれば人間は脅威の存在にも思えるな。



「だからこう言った遺跡や迷宮に、赤眼の魔物の大半が生息しているのか。

ん、そうなると例の幻界地帯に居る魔物は違うのか?」

「ええ、その通りです。幻界地帯に棲息する魔物全てが漆黒の瞳を持った隻眼の魔物です。」


漆黒の瞳、隻眼。

神殺ノ遺跡に居た全ての魔物がそうだった。


「隻眼の魔物は、どう言った存在なんだ?」

「"隻眼"が有名ですが、実際には全ての魔物が隻眼と言う訳ではありません。魔神の呪い"邪怨"に聴き覚えは?」

「名前だけは知ってる。」


あの女神と異界大全にも載っていた。

魔神が放つ強力な呪い、だったか。


「魔神の放つ魔力は邪悪そのもの、その魔力に触れた魔物は己の内側に秘めた残虐性と凶暴性が爆発し、莫大な力の対価として()()()()()()()()のです。基本的には片目が失われる魔物が殆どですが、中には隻腕や隻足といった様な魔物もいるのです。

彼らを人類は、"危険種"或いは"隻魔種"と呼んでいます。」


へぇー、なるほどな。

隻眼だけじゃないのは知っていたが、そのような呼び方をされているのは初めて知ったな。

異界大全だけの知識に頼るのはやはり、危ないか。


それにしても、そんな化け物が神殺ノ遺跡以外の…しかも地上に居るとはな。

てか、この世界はそんな化け物を放っておいて大丈夫なのか?


(あの遺跡の怪物達はその中でも更に異常な個体だ。謂わば異質の中の異質。

だから、地上に居ると言われるそ奴らは遺跡にいた怪物よりも数段劣っているはずだ。)


そうなのか。

それでも、危険なのは変わりなさそうだがな。

 

「隻眼の魔物達は、基本的にその住処や縄張りから動く事はありません。」

「そうか。最後にそれ以外の魔物は?」

「基本的には普通です。」


 普通?


「中には人間と友好な関係を築く魔物も存在します。

危険性が高いのは赤眼と隻魔種の魔物の特徴で、それ以外の魔物はさほど危険視されません。

特に、人と同じような姿形に言語を話す魔物は"魔族"や"亜人"に分類されています。」


魔族に、亜人か。

亜人はエルフ、ドワーフ、獣人辺りと言った所だろうか?


「以上です。他に何か聞きたいことは?」

「いや、大丈夫だ。有益な情報だった。」


なるほどな…

幻界地帯。

隻眼の魔物達。

やはり、レベルを上げるにはそこに赴く必要があるらしいな。

彼女には、感謝をしなければならない。

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