第二話 クソッタレな異世界で誓おう
あの後、俺は女神の部下達に連れられ地下牢に入れられた。
手足は自由だが、何らかの魔法が掛けられているのか全く動かない。
身体中が悲鳴を上げている。
コツコツ、とヒールの足音が地下牢に響く。
「あらあら、無様な姿ですね!」
「はっ、本当だな。」
そう言って俺の前に現れたのは、俺をこんな目に遭わせた張本人であるクソ女神。
と、俺を真っ先に痛め付けた葛葉の姿だった。
この女なら、ここに訪れた理由はわかる。
だが、葛葉は何の用だ?
「よう気分はどうだ?無能野郎…」
「貴方の処分を本格的に下す前に、少し協力をして頂こうと思いまして!簡単に言えば…あらゆる状況において、魔物や人間を躊躇せずに殺せるかと言う試験の為です!」
…は?
何を言ってるだ、この女は…人や魔物を殺す為の試験?
「ではクズハさん!思う存分、愉しんで下さい!!」
「おう!喜べや無能!ゴミ見たいなお前でも、俺様達の役に立てるんだからな!」
そう言って、葛葉は俺の顔面を思いっきり殴り付ける。
ただの殴りじゃない、スキルを使用した殴打によって俺の顔はぐしゃりと音を立てて潰れる。
即死…本来なら、そうだろう。
だが、何故か俺は微かに意識を保っていた。
「ああ、そういやぁ…女神の野郎の魔法でヨォ、お前には一時的に不死の力が宿ってるらしいぜ?つまりよぉ、幾らでもお前を痛め付けて殺しまくれるって事だ、よぉ!!」
葛葉の振り下ろした、踵落としが俺の脳天を貫く。
受けた痛みや苦しみはそのままに、俺の身体は再生を続ける。
そして、葛葉は何度も何度も自分のスキルを躊躇する事なく俺に向けて放ち続ける。
「ギャハハハハハハハハ!!!オラァ!どうだ!?いてぇか!?苦しいか!?言い様だなぁぁあ!!
ずっと前から、テメェは気に入らなかったんだよぉぉぉおおお!!いつも、いつもいつもいつも!俺様の邪魔をしやがってよォォォォオオオオ!あの女の幼馴染かなんだかしらねぇが!鬱陶しいんだよぉぉお!!
死ねや!死んどけや!何度も死んだ反省しろやぁぁぁあ!!テメェ見たいなゴミカスはなぁ!俺様みたいな勝ち組に一生、従ってれば良かったんだよぉぉおおお!!
おらぁ!くたばれやぁ!」
愉快そうに、心底愉しそうに、俺を罵倒しながら、何度も理不尽な暴力を振るって来る。
なんの抵抗も出来ずに、サンドバッグの様に、殴られ、蹴られて、死ぬ。
だが、死ぬ事すら許されず、ただ蹂躙される。
「あぁぁぁあ!スッキリするぜぇぇぇぇえええ!自分よりも劣ってるゴミ虫を痛ぶるのは、やっぱり最高だぜ!!しかも、ここは異世界!どんなに痛め付けても!殺しても、サツに捕まる事もねぇ!!
女神には感謝しないとなァァァァァァァァァァァァア!!俺様は決めたぜ!この世界を俺の欲望のままに愉しむってなぁぁあー!勇者である俺様に逆らう奴は殺す!女は犯して殺す!ギャハハ!!惨めだなぁ!」
奴が俺をここまで痛め付ける理由は、ただの退屈を満たす為。
そんな理由で、どうしてここまでやる事が出来るだろうか。
いや、誰でも良かったのだろう…自分の鬱憤を晴らせるなら、誰でも良かったんだ。
それからも葛葉の手によって、拷問よりも酷い暴力の嵐に晒された。
俺の身体は既に、ボロボロだった。
いや、寧ろそれよりも酷いだろう。
だが、女神の掛けた魔法によって、俺の身体は再生し傷一つ残っていない。
「クズハさん!そろそろ、次の勇者様に交代しても宜しいですか?」
「ああ、良いけどよ。最後はまた、この俺様が痛め付けるからな。」
葛葉は少し不満そうに言って、その場を去っていった。
「愚かですねぇ…本当に愚かです!そんな貴方にも使い道を見出す私は、正に女神に相応しい!さぁさぁ、待ってましたよ勇者様!」
そこから先は、同じ事の繰り返しだった。
これまで関わりの無かったクラスメイト達が、俺を最早、人間では無くサンドバッグと認識して次々と攻撃し始める。
火炙り。
拷問。
手足や首を切断。
窒息。
ありとあらゆる、手段で…殺されては再生し、再生しては殺される。
意識を失う事も赦されず。
悪魔へと成り変わったクラスメイト達の手によって。
奴らの理由もただ、ストレス解消。
日頃の鬱憤を晴らすため。
暇つぶし。
皆んなに流されて仕方なく。
どれも、クソみたいな理由だ。
おそらく、理由など些細なものなのだろう。
これが、奴等の本性。
異世界だから…自分がこうなりたくないから…なんて、理由で俺を痛め付けた奴らもまた、自ら進んでこうした奴等と同じなのだ。
鬼龍院や先生、雲母にあと数人が来なかったのは気になるが。
許せない…
ただただ、奴らが憎い。
これまでは、クラスメイトとしてある程度の友好度は持っていた。
が、今は違う。
奴等はもう、俺が知っている1年A組は死んだ。
そして、俺に残されたのは、激しい憎悪と憤怒。
もはや、痛みは忘れた。
それを上回る程の激しい憎悪と憤怒が、俺の身体で渦巻いている。
「やぁ、大変そうだね出雲君。」
最後に現れたのは、浦蟻。
「いい気味だよ。ずっと前から、君の事は鬱陶しいと思っていたんだ。教室の隅で本を読んでいるだけの癖に、鬼龍院さんや漆原さんと交流があったり。僕の意見が全てだと言うのに、勝手に発言して、挙げ句の果てには、君の意見が採用されたり。」
浦蟻は、そう黙々と喋りながらも…俺の髪を掴み、膝蹴りを顔面に突き刺している。
これまで受けて来た、暴力とは桁違いの威力だった。
激しい嫉妬の感情が、地下牢を埋め尽くす。
「本当に君が邪魔だった!だが、これからはもう安心だ。君はもう2度と僕達の前に現れることは出来ない。いい様さ。僕は勇者として全てを手に入れる…富も名声も、そして漆原さんも…鬼龍院さんも。
残念だったな、無能。」
もう、どうでも良い。
この人の醜さも、もう見飽きた。
「はっ、お前じゃアイツらも、何もかも手に入れる事なんて出来ないだろ。
お前は、いやお前達は…この俺に殺されるからなーーがっ!?」
「調子に乗りやがって!負け犬が!女神様、とっととこの無能を追放しましょう。」
「ええ、そうですね!いま、どんな気分ですか??悔しい?悲しい?憎い?まぁ、貴方がどんな事を思っているにしても…2度と会う事はないので〜、ざまぁ!と言うやつですね!」
「ぺっ。」
最期の抵抗。
俺は必死の力を振り絞って、このクソ女に向かって唾を吐き掛ける。
ピタリと女神の表情が歪んだ笑顔から真顔に変わる。
そして次の瞬間ーーヴィーナスは、俺の胸倉を掴み、鬼の様な形相で俺を睨む。
「はっ、あんな薄っぺらい笑みより、そっちの方がお似合いだぜクソ野郎。
その顔覚えたぜ…必ずぶっ殺してやる。
そして、お前達も…殺す!ただ殺すだけじゃねぇ…絶望に叩き落として殺してやーー「残念ですねぇ、追放先を変更します。貴方が追放されるのは、かつて邪神の一人だった邪神龍すら命を落とした神殺ノ遺跡だ。お前如きじゃ手も足も出ない怪物達の餌になって死ぬが良い。」
上等だ。
何処にだって追放すれば良い…必ず這い上がってお前達を皆殺しにしてやる。
お前も、お前も、お前も、お前も、お前も…全員、殺す。
俺をこんな目に遭わせた屑どもは皆殺しだ。
「さようなら、無能。復讐すら出来ずに無様に死ねば良い。」
魔法陣の光が俺を包み込んだ。
そして、気が付けば…そこは真っ暗な洞窟だった。
この日、俺は何もかも失った。