第二十七話 迷宮探索開始
さて、あのめんどくさい揉め事から一日経って。
俺達は、広場にいた。
広場の方へ豪華な馬車が近づいてきた。
乗馬した男女が周りを囲っている。
皆、剣や槍に鎧を武装していた。
おそらく、護衛だと思われる。
豪華な馬車が停止。
全身を綺麗な身学校で決めた女性が馬車からゆっくりと降りてきた。
男は、そのまま広場に用意されたステージに上がった。
冒険者や、傭兵たちがステージの方に注目する。
「諸君、よくぞ集まってた。まずは自己紹介をしよう! 私はレイット・アンドリュー辺境伯である。」
辺境伯は、女性なのか。
「実は国の管理する土地で新たな迷宮が発見された! 諸君らには迷宮探索に攻略を依頼したい。
持ち帰った宝については私が高く買い取ろう。
買い取り価格の交渉や引き渡しの交渉も前向きに応じよう。」
辺境伯は説明を続けた。
魔物の死体から得た素材は自由。
素材の買い取りも受け付けている。
出入りの際は荷物の確認がある。
遺跡に眠る宝は管理者であるアネット小国のものというわけか。
だから、交渉という報酬が与えられるのだろう。
「そして、ヴォーディス遺跡のどこかに眠るという神宝”龍の雫"或いは"神秘薬を手に入れた者には特別報酬として金貨500枚を授ける。」
傭兵や冒険者たちが、ざわめき始める。
金貨500枚か、かなり大金だな。
日本円に換算すると、とんでもないことになるぞ。
侯爵に指示されて護衛の一人が台に上がる。
護衛は丸めた羊皮紙を開くと、俺たちに提示した。
羊皮紙には龍の雫と思われる絵が描かれている。
遥か昔、神話の時代の秘宝らしい。
どうやら、ディナはもう心当たりがあるようだ。
龍族としては、そこまで珍しい物ではないらしい。
「この龍の雫はかつてこの地を護っていたとされる今は亡き龍神様が流した涙である。古来より龍の涙はありとあらゆる不浄を祓い、あらゆる病気や傷を打ち消す神秘薬と呼ばれている。
我が王は、今は亡き龍神様を敬愛しその伝説を事実の物とする為に求めている。」
なるほどな。
龍の涙、この地を守った龍神…まさかな。
多くの者が秘宝の伝説などどうでも良いと聞き流しているが、たった一人。
アルさんだけは、違った。
そう言えば、彼女はその秘宝を求めてこの地に来たと言っていたな。
辺境伯が、護衛に指示を出す。
護衛が動く。
迷宮攻略の参加者の登録作業が始まった。
長蛇の列に並ぶ。
一部の傭兵や冒険者はすぐ登録手続きが終わっていた。
何かカードのようなものを提示している。
おそらく冒険者カードだろう。
ギルドに登録しておいてよかったな。
ヴォーディス遺跡の攻略は、入る時と出る時に確認が行われる。
俺が必要なのは魔物の素材なので、関係ないが。
遺跡の入口は広場を抜けた先にあるらしい。
俺達はこのまま遺跡へ向かう事にした。
遺跡の周囲は結界で囲まれていた。
此処だけが例外ではなく全ての迷宮の遺跡はこうして国によって管理されているらしい。
ヴォーディス遺跡も国が管理している。
遺跡の近くに、建造物があった。
小さな砦と小屋が合体したような感じだ。
中にいるのは、出入りする冒険者や傭兵を管理し検査する人間だろう。
当たり前だが、全員が武装していた。
迷宮は放っておくと魔物が地上へ蔓延る。
それを防ぐ為に、兵士がこの建物で寝泊まりをしている。
酒場で聞いた話だが。
この迷宮攻略の中で実力のある傭兵や冒険者は彼女や小国の近衛兵として雇われる事もあるらしい。
ここへ訪れる傭兵や冒険者にとって、迷宮攻略は”手柄”を立てれる絶好の場所でもある。
簡単に言えば、就職試験みたいな感じか。
少ない報酬でその日暮らしをする傭兵。
貴族や王の抱える近衛兵となり、裕福な暮らしを送るか。
その二択の中で、多くの者が後者を選ぶのだろう。
何故、辺境伯や王の私兵が居ないのか。
まあ、悪く捉える事も出来る。
未踏破の迷宮は、魔物も危険性も未知なので事故る確率も格段に上がる。
自分達に忠義を尽くす大切な部下の命を危険に晒したくないと言う気持ちは分からないでもない。
確かに、有象無象と現れる傭兵なら幾ら死んだ所で心も痛まないしな。
悪いとは言わない、俺だって仮に彼等の立場ならそうするかも知らない。
だから、此処で悪だと決め付けるのは傲慢すぎる。
迷宮での稼ぎ方は、他にもある。
例えば、未到達の迷宮内における地図作成。
魔物の棲息場所や弱点。
そして、危険な罠。
これらの情報は貴重な金になるだろう。
それを重宝する優秀な人物なら、きっとその有用性を理解して高値で買い取ってくれる。
それも、ありか?
辺境伯や兵士から話を聞く限り、過去に迷宮が発見された際に今のような方法で他の冒険者や傭兵よりも破格の報酬を得ていた者達がいるらしい。
まぁでも、取り敢えず今回の目的は龍の雫を手に入れる。
▽
迷宮内の壁に手を触れる。
「どうやら、灯りはいらないな」
「そのようですね。」
「うむ。」
左右の壁に淡く光る石が埋め込まれている。
神殺ノ遺跡は暗闇が永遠に続いていた為、灯は必須だった。
が、この迷宮の階層で松明などの灯りは必要ないみたいだ。
これらの石は、異界大全に載っていた。
迷宮煌石。
迷宮内の魔力を養分に光を灯す石。
どんな理由かは不明だが壁から掘り起こし、手に取ると石は光を失う。
原理は不明で、何処にでもある訳ではないらしい。
また煌石は迷宮内の全階層に存在しているわけではない。
なので存在しない階層、特に深層では松明などの灯りが必要となる。
「ウフギャァァア!!」
魔物の雄叫び。
通路の奥で一瞬、逃げ惑う傭兵や冒険者たちの姿が見えた。
「うわぁぁあ! レッドオーガだぁ! 勝てるわけがねぇ!」」
「逃げろぉ!」
2メートル程の背丈がある赤鬼が、逃げ惑う彼等を愉しそうに追いかけている。
神殺ノ遺跡に居た漆黒のオーガを思い出す。
あれに比べたら随分と小さいし、弱そうだな。
それに、隻眼でもない。金の両眼。
威圧感も薄く、殺意すら些細なもの。
やはり、あの遺跡が異常だったのだ。
「うるぅぁあ?」
オーガが逃げ惑う冒険者や傭兵への追撃を辞めて、此方を見る。
ニヤリと笑い、こちらへ身体を向けて走ってくる。
どうやら、俺達を雑魚と判断したらしい。
「ウグゥァァァア!」
俺が前に出て、迎え討とうとする。
「此処は私が。」
そう言って、アルさんが前に出る。
腰に帯びた鞘を被った状態の剣を両手で握り、構える。
見慣れた構え、剣道っぽさを感じる。
前、横、後ろの何処にも隙はない…単純な剣術での勝負だったら俺は敵わないかも知れない。
「シッ!」
凄まじい踏み込み。
地面を疾走し、一気に間合いを詰める。
レッドオーガは、反撃すらする暇もなくその首を一撃で刎ねられる。
「リュート。」
「ああ、わかってる」
一体倒したのも束の間、迷宮の奥より数十匹のレッドオーガに加えてゴブリンやスケルトンが次々に現れる。
誰も格段に強い訳ではないが、更に増えられると面倒臭いな。
流石にあの数を彼女だけに押し付けるのは良くない。
「俺達も手伝おう。」
「助かります。」
ゴブリンの群れが突進してきた。
手を突き出す。
ーー『邪龍魔法』
ーー『邪龍の禁言』
「ーー『動く事を禁ず』」
ゴブリン達の動きが止まる。
腰に帯びていたヒュドラの毒を纏った短剣を構え、身動きの取れないゴブリン達の首を一瞬で断つ。
ディナの方をみる。
退屈そうに、突っ立っている。
アレで隙は一切ない。
だが、オーガ達はそれに気付けないまま間合いに入り込んでしまう。
「誰の許可を得て我が前に立つ?」
「ぶッ、も!」
グシャ!と、言う音を立てて魔物達が潰されてゆく。
凄まじい程の殺気は、まるで巨大な大岩の如く。
見るも無惨に、跡形もなく潰された。
アルの方も問題なく終わったようだな。
「やっぱあの遺跡と比べたら、余裕だな。」
「それはそうだろう。あの遺跡の魔物は全てが我の魔力を浴びていた。だが、この迷宮も微かにだが神秘を感じる。
奥に行けば魔物も強くなるだろう。」
なるほどな。
彼女曰く、全ての迷宮や遺跡が神秘を宿している訳ではなく。
特に迷宮は、神々が生きていた頃には存在せず比較的に新しく現れた迷宮は全く神秘が宿っていない。
逆に遺跡は神々が使っていた拠点や工房が風化し、迷宮となった物なので神の魔力の残滓が蔓延り、湧いた魔物達がその魔力に充てられた事で通常個体よりも強くなるらしい。
今回の迷宮には、神の産物"龍の雫"から漏れる魔力によって奥へ進めば進む程に魔物は強くなっている。
「確かに、かつて私が彷徨った遺跡に棲息していた魔物はかなり強力でした。」
なら、奥に進むなら警戒は必要だな。
進みがてら、魔物の素材を得るために皮を剝ぐ。
辺りを見渡すが、他の傭兵や冒険者はいない。
結構な魔物を倒したが、やはりレベルは上がらなかった。
恐らく、ここら辺の魔物の経験値は低いようだ。
尤も、遺跡の魔物の経験値を以ってしてもレベルが上がったのは10回。
これ以上のレベルアップは、まだまだ先の事だろう。
俺達は、先へと進む。
やや遅れて、背後の方に気配と声が近づいてくる。
背後で、複数の気配が立ち止まった。
推測するに、後続の冒険者か傭兵だろうな。
「し、死んでる……」
「他の傭兵が、やったのか?」
「潰れてる?なんかの魔法か?」
「こっちは、微妙に肌が紫っぽく変色している気はするな」
「まさか、最近たまに噂を聞く呪いってやつか?」
「この傷は、剣だよな……?」
「嘘だろ?剣で一撃だと? レッドオーガだぞ? しかも10体以上は居るぞ!? 怪物か!」
どうやら、レッドオーガはそれなりに危険な魔物らしい。
彼らの驚きようから、推測するに俺達の当たり前は彼等からするに非常識に値するらしい。
目立つのは避けたいな。
「早く進もう。」
「そうだな。物足りないし。」
「ええ。」
俺達は、人目を避ける為にさっさと下の階層へ向かうことにした。
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