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邪に堕ちし神達の番 〜復讐の焔は、世界をも焼き尽くす。〜  作者: ぷん
二章 地上、到達篇 〜悪意に満ちた異世界へ、込めて〜
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第二十話 協力者として、アネット小国へ


 女が言葉を発する。


「まずは謝罪を。あの5人をあなたが打ち倒した話に虚偽はなかった、聖霊がそう教えてくださいました。貴方は信頼にたる人物だとそう判断させて頂きます。」


どうやら、彼女にハッタリは通じないらしい。

聖霊、それが俺の認識するあの精霊と存在は同じか不明だが彼女は聖霊の力によって真偽を確かめる術を持っている。


「なのでーー私も、あなたの質問には嘘偽りなく答えましょう。あなたから敵意も害意も感じません。

あの5人を討ち倒して下さったのなら間接的に貴方達は、私の命の恩人でもあります。その恩義に報います。」


真摯で決意の固まった表情で俺の目を真っ直ぐと見る。

律儀だ、あまりにも律儀すぎる。

コレほどまで、純粋で律儀な善人を俺は一人しか知らない。

だからこそ、心配にはなるが。


それにしても、命の恩人か。

たいそうな評価だ、俺はそんなつもりでやった訳では無いからな。

ただ、己の欲を満たす為に殺した。

だが、好都合でもある。

女は、俺達に恩義を感じている。

なら、女には悪いが今だけは利用させて貰う。


「どのような事を聞きたいのですか?先程も言っていましたが、どうやらこの辺りの人間ではないようですし。」

「誰も近付かないような場所で過ごしていたな、人里を目指して居たら、この森に迷い込んだって感じだ。」

「どうして、そのような場所に?」

「まぁ、簡単に言えば俺達は裏切られて捨てられたって感じだ。」

「――そう、ですか。貴方達も同じなの、ですね…」


裏切られ、捨てられた。


嘘では無い。


いくつかの暗い想像を喚起させる言葉。


たとえば、旅の仲間に裏切られたとか。

住んでいた土地から追い出されたとか。


俺の場合は、あのクソ女神やクラスメイトに裏切られ捨てられた。

追放という言葉ではなく、完全に"廃棄"だ。

そんな暗い過去をちらつかせれば、大抵の人間はこれ以上の追求はさける。

だが、一つ。

彼女の返した言葉に、気になった単語があった。

 『貴方達も同じなのですね。』

確かに、女はそういった。

ま、なんとなく女の境遇については予想していた。

普通なら、あんな物騒な奴らに追われる事なんてないしな。

 ただまぁ、思った通り。

彼女は、悪い人間ではない。


「あんたは奴等と比べて悪い人間では無いらしい。」

「警戒が薄れましたね…どうやら私は少しだけ。貴方達から、信頼を得られたのでしょうか?」

「ああ。」

「ただ、我等も貴様と同じで事情がある。お互い、探り合いはこれまでにしておこう。今は…な。」


女にも俺達と同じように何か知られたく無い事情があるのは大いに予想がつく。

あいにく、他人の事情に興味がない。

今、俺達に必要なのは情報だ。

彼女から充分な情報を得たら、お互いすぐに別れるべきだろう。


「あ……いえ、そうですね…」


女は、何か言い淀む。

顔はさっき以上に、暗い影が差す。

何か、言い掛けて辞めた。


だが、それをわざわざ聞き直すつもりはない。

そろそろ、俺の掛けた魔法の効果も切れる。


「なら早速、質問に移らせてもらう。近くに村か街はあるか?」

「ええ、森を少し進んだ所に小国アネットという街国があります。私も其処へ向かう予定でした。」


驚いた、あるなら村や町程度だろうと思っていたが…小国と言えど、国があるんだな。

”私も”と彼女は言った。


 行き先は同じらしい。

それにしても、素直に俺に行き先を伝えるのは感心しない。

俺が、彼女の追っ手と繋がっていたらどうするつもりだったのか。

とはいえ、今更間違えましたとか言われても困る。

まあ、都市の場所が分かったので一安心だ。

なぜ、小国へ?と問うつもりはない。


彼女は距離と方角も親切に教えてくれた。

有り難い事に、ここからそう遠くはない。

宿もあると言う事で、ようやくベッドで眠れそうである。


「もう一つ、ここはどこの国だ?」


 次の質問をする。

彼女は、唖然とする。


「今いる場所も、分からないのですか?」

「ああ、少し複雑でな。俺の知っている外の情報と今の外の情報に差異があるかも知れないから確認しておきたい。」


これも、事実だ。

遺跡で手にした、書物に記された情報と現代の情報が正しいかは分からない。

ある程度なら、予想は付くが間違っている可能性もあるからな。


「……なるほど。ここはブリテン帝国とエーレ神聖国の間、北東部に位置する唯一の独立国アネットです。そして、私達が今いる場所はアネット小国が治る"邪の森"です。」


やはり、ここはヴィーナス勇王国では無いらしい。

神殺ノ遺跡はヴィーナス勇王国内にあるのだと思ったが、そうでもなかったらしい。

それに、あの書物にも確かに神殺ノ遺跡の位置とヴィーナス勇王国の位置は一致していないと記されていた。


これも、事実だ。

遺跡で手にした、書物に記された情報と現代の情報が正しいかは分からない。

ある程度なら、予想は付くが間違っている可能性もあるからな。


「因みに、ヴィーナス勇王国はどの辺りか分かるか?」

「ええ、ヴィーナス勇王国はここより遥か南部にあります。それと、アネット小国のすぐ近く…東部全域には…ブリテン大帝国があります。」


 女が帝国の名を出した時、僅かにその声には様々な感情が入り混じっていた。

怒り。

悲しみ。

そして、激しい憎しみ。

ブリテン大帝国と、何か因縁があるのだろう。

だが、あまり追及もする必要がない。

ま、とにかく此処はヴィーナス勇王国では無い。

あの女神ヴィーナスもあのクラスメイト共も居ない。

コレはいい情報だった。

今はまだ、戦力も準備も全く足りていない。

そんな状況で、全てを敵に回すほど馬鹿じゃ無い。

ヴィーナス勇王国は此処から遥か南側か。

最初の目的は、古の魔女と呼ばれる存在の有無やこの世界の情報を集める事が最優先。次に、あわよくば戦力を増やす。


「ありがとう。次の質問だ。」


「――はい。」

「このあたりでは、飯や宿に泊まるのにどのくらいの金額が必要になる?」

「それも分からないのですか?」

「ああ、事情は察してくれ。」

「わかりました…基本的には、国や都市で相場は異なります。アネット小国なら、パン一つくらいであれば、大抵は銅貨一枚で買えるとは思いますが」


 パンは存在している、と。


「銀貨は銅貨何枚分に相当する?」

「銅貨10枚といった所ですね。」


日本円に勝手に変えてみる。

銅貨一枚で100円。

銀貨一枚で1000円。

金貨一枚で10000円って所か。

そう思うと、パンを銅貨一枚で食べれるのはお得だな。

ざっくりした認識だが、多分あってると思う。

 当然、異世界と日本は物価は違うだろう。

だが、まぁこの世界の基準となる相場が分かったのはデカい。

それ以外も――そのアネット小国に着いてから分かるだろう。



他にも知りたい情報はある。

が、拘束の効果もそろそろ限界。

最後に一つ、聞いとかなければ。

皮袋から、書物を取り出してとある頁を彼女の目の前に見せる。


「この文字が何かわかるか?」


アルケイデスの残した本の中に、読めない文字が幾つもあった。

ディナの話では、少なくとも自分の居た時代でも見た事がないと言っていた。

コレを読めるものが居るとしたら…と、おおよその予想は付いてるが一応聞いてみなければ。

女が書物の頁に視線を走らせる。

かなり、集中している。


そして、しばらくすると。


「コレは…異界暗文、だと思います…」

「異界暗文?」

「ええ…簡単に言えば、この世界とは異なる文字によって記された文字です。主に、異世界と呼ばれる世界で扱われる一般文字と言った方がいいでしょう。」

「そうか…」


まさか、そんな事があるのか。

異界暗文…アルケイデスが遺した文字だと考える事も出来るし、かの古の魔女の残したものかも知れない。

だがそれだと、古の魔女も異世界人という事になる。

この文字の読み方も記した者も書いてなかった。

さらに言うと、この書物の殆どが血や汚れで読めなかった…ハッキリと読めたのは、遺跡の中で読んだもの、そしてこの解読不能の文字。


「なら、アンタも読めないか。」

「ええ…」


ま、そうだろうな。

だが、俺も読めない。

歴史には詳しい方だと思ってたけど、さっぱり分からない。

ルーン文字とも違う…全く分からん。

 まあ、地道に調べていくしかないのか。


「ですが、この文字を読める人物は知っています。」

「名前を聞いても?」

「ーー"叛逆の神女"、或いは"古の魔女"です。」



ーー


「へぇ…」

「かつて”叛逆の神女"と呼ばれた人物が居ました。最も、古の魔女の名の方が広く知れ渡っています。ご存知ですか?」

「名前だけは、な。」


 叛逆の神女…その名は、書物にも記されてなかった。

"神"…か。


「彼女は、まだ神秘が色濃き時代…かの女神ヴィーナスと共に世界に破滅を齎そうとした始原の神達の封印に貢献したり、強力な魔導具などを創り人類に貢献した人物です。とある文献には彼女を、女神ヴィーナスや3柱の邪神と同格の"神"に数える事もあります。」

「……」


女神ヴィーナス。

始原の神達は、ディナ達の事だな。


「しかし、彼女は何を血迷ったのか邪神の脅威より世界を救った女神ヴィーナスに反旗を翻し女神を暗殺する事で世界唯一の神座を狙った反逆者…邪神と定められ。住む土地を追われたらしいです。彼女は後に、四邪神の一角となりました。」


それで叛逆の神女と呼ばれていたのか。

まさか、古の魔女がディナと同じ邪神の一人だったとはな。

彼女の話は、そのほとんどが伝聞によるものだろう。

だから、まだ確定した情報ではない。


「古の魔女、その居場所は分かるのか?」

「魔神大陸と人界大陸を隔てる幻界地帯をご存知ですか?」

「名前だけは。」

「彼女は恐らく、幻界地帯に居ると思われます。」

「確定では、ないか。」

「はい。あくまで、噂です。」

「ここから遠いのか?」

「遠いですが、このまま北に向かえばたどり着けます。ですが…幻界地帯へ辿り着くのは不可能に近いです。」

「それは、どうして?」

「幻界地帯は別名”生と死を隔てる冥門(ハデス)と呼ばれています。」


聞き慣れない単語が飛び出す。


生と死を隔てる冥門(ハデス)"。

異界大全にも載って居なかったな。

そりゃそうか、あの書物が書かれたのはもう数百いや数千年は前と推測する。

聞き慣れない単語があるのは当然か。


「すまない、初めて聞く単語だ。具体的に教えて貰えるか?」

「ええ。この大陸の北西部に位置するとされる魔神大陸と人界大陸を隔てる危険領域です。足を踏み入れたら最期、2度と無事には戻って来れないと行った話があります。その危険性から、女神でさえも手を出さないと聞いた事があります。

かつて、女神が”生と死を隔てる冥門(ハデス)"に精兵を調査に向かわせたのですが、全滅したと。それ以降、地帯は危険領域として誰も近付いておりません。」

「へぇ?」

「ほう。」


古の魔女はそんな危険地帯に身を隠したって事か。

女神さえ近付かない危険地帯、なるほど逃げ延びるには打って付けの場所だな。

恐らく、現地人なら誰もが知っている情報なんだろうな。

 ま、俺も同じような状況だったらそうするかも知れない。


「なるほどな。」


思ったよりも、いい情報が手に入った。

もう少し情報収集をしたい気持ちもあるが、ここでずっと立ち止まってる訳にはいかない。

それに、早くアネットとやらに向かって宿に泊まりベッドにダイブしたい。

 


「…………」


そろそろ、か。


「他に、質問はありますか?」

「いや、十分だ。ありがとう。…」


女の様子が少し、変だ。

何か、とても言いたそうな顔をしている。

面倒ごとはゴメンだが、こっちは有益な情報を貰った…その借りは返す。


「俺は終わりだ。次はアンタの番だ。」

「え?」

「俺はアンタから、十分過ぎるほどの情報を貰った。だが、アンタにはメリットがないと思ってな。」

「い、いえ。私は彼等を仕留めて下さっただけで充分ーー「よい、遠慮はするな。さっきから、何か言いたげな表情が丸分かりだ。」


図星、か。


「…それならば、貴方達に依頼をしたいのです。」

「内容次第だが。」

「実は私も、古の魔女を探しているのです。」

「…なぜ?」

「とある目的の為です…それ以上はまだ、話せません。」


ま、隠し事はお互い様だ。


「それで?」

「貴方達は相当な強者とお見受けします。”生と死を隔てる冥門(ハデス)"は恐らく私一人では、古の魔女の元に辿り着くのは困難です。そこで、貴方達のお力をお借りしたいのです…」


なるほど…


「理由は分かった。だが、見たところアンタは()()()()()()()()()()()()()()。それは、どうするんだ?」

「勿論、其方の件に関しては貴方達を巻き込むつもりは有りません。ソレは、私の問題ですので。

それに、無償と言う訳でもありません。私が無事に魔女の元に辿り着けたら報酬をお支払い致します。」

「……アンタ、人が良すぎるって言われないか?」

「いえ…そんな事は…」

  


自分の事だけでも頭いっぱいだと言うのに…俺達の身の心配か。

あまりにも、善人すぎる。

だからこそ、心配にもなる。

善人は、いつだって奪われる側なんだから。

 ただまぁ、それだけって訳でもない。


「わかった、アンタの提案受けよう。」

「本当ですか!?」

「ああ。ディナもそれでいいか?」

「構わん。」

「ありがとうございます…」


互いに、目的は同じ。

仲間って関係ではないが、彼女はある程度信用に値する人物。

それに、彼女は何処か放っておけない…


「これから、拘束を解除する。アンタを信頼して、だ。」

「はい。」


ただ、完全に信頼している訳ではない。

お互いに、な。

だが、これから協力者となる者を無碍に扱うのは違う。

俺は、拘束を解除する。


「身体が、動く…ありがとう、ございます。」

「礼を言われるのも、少し変だが…まぁいいさ。少しの間だが宜しく頼む。」


俺は、彼女に向かって手を伸ばす。


「あ、その腕は…」


しまった、こっちは義手…正確に言えば、神龍鎧装だが。

右利きだったから、つい右手を出してしまった。

驚かせてしまったな。


「ま、色々あってな。」

「お辛い目に遭ったのですね…」

「アンタが気にする必要はないさ。ま、とにかくよろしくな。」

「ええ。」

「俺の名前は、リューだ。分かってると思うが、偽名だ。」

「我はディナだ。」

「ふふ。律儀なのですね…私の事はアルとお呼び下さい。勿論、偽名です。」


そういう自分も、律儀じゃないか。


「俺達は当初の目的通り、アネット小国に向かうが?」

「無論、私も向かう予定です…少し、用事もあるので。」

「よし、ならば早速向かおう!我は早く、フロとやらに入りたい!そして、ベッドに飛び込みたいぞ!」


んー、神としての威厳は何処へやら…

こうして俺たち3人は、アネット小国へ向かう事になる。

前回の後書きで、次回の更新は金土日と報告したのですが思ったよりも作業の時間があったので投稿させて頂きました。

新しい話が、出来次第投稿出来るように頑張ります。


この話が面白いと思った方は、ぜひ評価や感想をお願いします!


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