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邪に堕ちし神達の番 〜復讐の焔は、世界をも焼き尽くす。〜  作者: ぷん
一章 異世界召喚篇 〜追放と絶望を添えて〜
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第一話 無能判定

目が覚めると、そこは見知らぬ部屋だった。

天井には豪華なシャンデリア。

壁には巨大な壁画に豪華な装飾品。

赤い絨毯が敷かれた道の真ん中を囲む様にして左右にフルプレートの鎧を着た騎士が幾人も立っていた。

そして、俺たちの視線の先ーーそこには白を基調としたワンピースに身を包んだ美しい女が満面の笑みを浮かべて立っていた。


異様な光景。

何かのイベントか、或いは夢か。

夢にしてはリアル過ぎるし、イベントにしては凝りすぎている。

考えられるのは、よくアニメや漫画ラノベで見たり聞いたりする異世界転移、それもクラス転移ってやつだろう。

普通ならそんな馬鹿げた話はあり得ない…だが、実際に目の前で起きている事はあり得ない事だ。


様々な技術が発達した現代で、このような古めかしい中世の城内や鎧の騎士が存在する国など存在しない。

つまりだ、ここは異世界に限りなく近いという訳だ。


「一体、此処は何処なんだ?」


皆が黙り込む中、浦蟻が口を開いた。

それに続く様に、クラスメイトが次々と同じ様に口を開く。


「突然、申し訳ありません!初めまして皆様!異世界へようこそ!」


と、困惑する俺達を気にする様子もなく恐らく女王か女神と思われる美しい女がそう言って大きく手を広げる。

ああ、やはり此処は異世界なのだ。

聞き慣れない単語に、ますます彼等は混乱する。


「あぁ?異世界だぁ?つまりテメェは何だ、女神とか言うんじゃねぇだろうな!?」


葛葉の怒号が城内に響き渡る。

凄まじい形相で迫られているのにも関わらず女は、平然と笑顔で対応する。


「女神とも呼ばれていますが、私はこのヴィーナス王国の女王ヴィーナスでございます。いきなりの事で混乱させてしまったのは申し訳ないと思っているのですが…どうしても貴方達の力が必要だったのです!」

「詳しくお願いしても良いでしょうか?」

「ええ!」


ナイス浦蟻。

女王ヴィーナスは、俺達を異世界に召喚した経緯とこの世界の事を簡潔に話してくれた。

まずここは、大陸の南部最大の国であるヴィーナス勇王国と呼ばれる国。

また4大勇者国と呼ばれる代々異世界から勇者を召喚し魔神とその軍勢から世界を守る為の役割を担っている。

あと三つの国は、ここより遥か東部に位置する大陸最大の領土を誇るブリテン大帝国と西部に位置するマリア神聖国に北部に位置するエーレ聖王国


俺達を召喚した目的は、この世界に災厄を齎したとされる"四邪神"の最後の生き残りである"魔神"の討伐。

何でも、現地の人類は邪神から放たれる邪神の怨嗟と呼ばれる人体に負荷を及ぼす呪いの所為で満足に戦えない。

が、異世界から訪れし勇者はその呪いは効かず、また勇者にはその呪いを抑える加護を宿しており、現地の人間もほぼ万全に戦える事が可能となる。

そして…勇者には一人一人に強力な"スキル"と"恩恵(レベルアップ)"と呼ばれる加護が与えられる。


かつて、数千年前に召喚された勇者達はそのスキルとレベルアップによって得た強力な力によって四邪神の一角を破ったとされている。

そういった経緯から勇者召喚は古くより世界を救う為の切り札として行われてきた。

今回の勇者召喚は、20年ぶりだと言う。


「なるほど…つまり僕達は、その魔神と呼ばれる存在を討ち倒す為に召喚されたんですね。」

「そうなのです。貴方達が魔神を討伐した暁には、貴方達が望む物を与えると約束しましょう。例えば、元の世界への帰還とか。」


元の世界への帰還。

その単語を聞いた一部のクラスメイト達の顔に希望の色が復活した。

それが本当かどうかは別にして、元の世界に帰れると言う保証が有るのは不安で仕方ない彼等にとっては一つの安心材料だろう。

結果、これまで不安や絶望の顔をしていたクラスメイト達のほぼ全員がやってやる!と覚悟を決めた。

これも、あの女の手の内なのか?

どうも俺は、あの女を信用できない。


「ふむ、それでは私達にはその"スキル"?とは何なのだ?」


沈黙を貫いていた、椎名先生が煙草を吸いながらヴィーナスに問う。

彼女は待ってましたと言わんばかりに側に控えていた、鎧を着た綺麗な女性に合図を出す。


「では女王に代わり、王国騎士団長レジーナ・シュトロナームが君達に説明しよう。

"スキル"とは異世界より召喚された君達だけが持つ特殊な力だ。

例えば、私達が扱う魔術による身体強化と君達が持つ身体強化…大体の仕組みは同じだが、その性能や能力の幅は"スキル"の方が遥かに優れている。

如何に己が弱くとも、そのスキルが強力な物であれば大抵の魔族や人間に負ける事はないだろう。


君達にだけ存在するもう一つの力。恩恵レベルアップとは魔族或いは人間を殺した時にその魂を吸収する事によって起こる急激な成長現象の事だ。

そして、その恩恵レベルアップによる成長を数値化したモノを"個人能力(ステータス)"と呼ぶ。

この世界の人間には、この世に生を落とした時よりその"レベル"と"ステータス"が定められる。最も、私達は自分達に与えられたステータスを見る事は出来ないのだがな。

そして、あるキッカケを果たした者のみがその限界を越え更なる成長を遂げるのに対して、召喚された勇者はその成長に限界はなく無限に成長し続ける。

それが、君たち勇者だ。


最後に、その"スキル"や"ステータス"の確認の仕方は簡単だ。これから女王がとある宝玉を用意する。

君達はそれに触れれば良い。

その宝玉は君達のスキルとステータスを映し出してくれる。

その後は、本人が望む時にいつでも確認する事が可能となる。」


ようやく長い説明が終わる。

次はいよいよ、スキルとステータス鑑定だ。

ヴィーナスはレジーナさんの説明途中にもう準備を終えていた。

彼女と俺達の目の前には、綺麗な宝玉が設置されている。


「では、これより皆様のスキルとステータスを鑑定させて頂きます!

この宝玉に触れると、光を放ち皆様の目の前にスキル名とステータスに勇者ランクが表示されます。」


ランク、やっぱりあるんだな。

すごく緊張して来たな…なんか凄く嫌な予感しかしないのだが、コレが現実にならない事を祈ろう。


「では、勇者浦蟻様から此方の宝玉に触れて下さい!」

「はい。」


クラスメイトの女子達からの黄色い声援を背に浦蟻はゆっくりと息を吐きその宝玉に触れる。

すると、宝玉は城内全体を包み込む様な強い光が放たれる。


「す、素晴らしい…勇者適正は"S"、スキルは『勇者』!その他のスキルも素晴らしい…ステータスはレベル1で1000を超えてます!こんなの数千年振りです!」


ヴィーナスの喜び方から察するに、それほどまで素晴らしい結果なのだろう。

やはり、この物語の主人公は奴なのだ。

城内の騎士や貴族達も、浦蟻の能力を見てざわめいている。


「では次、葛葉様!」

「ほらよ。」

「なっ!勇者適正は"A"!スキルは『戦帝』!レベル1でステータスは500超え!」


おいおい、マジかよ。

葛葉は当然だろと言わんばかりの態度を見せる。

あんなのでも勇者の適正があるんだな…むしろアイツは悪側の人間だと思うんだけど?

その後も、次々に勇者の選別が行われていく。


鬼龍院も勇者適正"S"

スキルは『戦乙女(ヴァルキューレ)』。

ステータスも浦蟻と同等。


漆原も勇者適正"S"

スキルは『賢者』

ステータスは2人よりも少し低い位。


Sは3人、Aランクは4人。


そして遂に、俺の番が回ってきた。


「さぁ、出雲様。」


これまで、クラスメイト達は良い結果を残してきた。

ヴィーナスを含めた城内に居る連中からの期待は高まり続けていた。

歴代で最高の勇者召喚だと。

故に、俺は怖かった。

この先の展開で、フラグが回収されない事を祈るばかりだ。


恐る恐る、宝玉に触れる。

が、光らない、いや光ったのだが微かに澱んでいた。

そして、表示された能力。

勇者適正"ーー"

スキル"ーー"

ステータス

筋力:ーー

耐久:ーー

敏捷:ーー

魔力:ーー

幸運:ーー


「は?」

「え?」


俺もヴィーナスも間抜けな声が漏れてしまった。

そして、クラスメイトや貴族や騎士団も同じ様に…

どうやら、俺の嫌な予感は的中してしまったらしい。


「ぷっ!ギャハハハハハ!あっれぇ〜!?出雲くぅん!?スキル無し!?ステータスも無し!?無能じゃねぇか!!」


葛葉の笑い声が響き渡る。

悔しいが俺は何も言い返す事は出来なかった。

当然だ、何の力も無かったのは事実であるから。


「龍くん…」


「ちっ、無能が。」

「は?」


気のせいか?

コイツ、無能って言ったのか?

いや、聞き間違いではない…いや、そりゃそうか。

期待していた勇者が、何の力も持たない雑魚だったんだ。


「はい、ではお下がりください。

えー、皆様!鑑定お疲れ様でした!正直、驚きました!貴方達は歴代でも優秀な勇者様達のようです!」


さっきまでの、歪んだ表情とは打って変わり再びあの胡散臭い満面の笑みを浮かべながら話し始める。

俺の事は無かったかのようにして、彼女は勇者一人一人を褒める。

唯一気になったのは、騎士団長様の表情と俺に向かって呟いた一言。


「決して諦めるな。いずれ機は来る。」


俺はこの時彼女の放った言葉の意味が分からなかった。


「それでは皆さまには明日から、訓練を行なって貰おうと思います。

各々のスキルやスキルに頼らない戦闘技術を磨き、いずれ来たる魔神討伐の時まで共に頑張りましょう!」

「皆んな頑張ろう!」


浦蟻の呼び掛けにクラスの殆どが答える。

皆、やる気に満ち溢れているらしい。


「ではそれまで各々、解散っーーの前に…どうやら一人、勇者ではない者が混じっていた様なのです。」


と、ヴィーナスが俺の方に冷たい視線を向ける。


「たしかに!あいつ、無能野郎ですからねぇ!女神様っ!」

「それだけでは有りません…遥か昔、彼と同じ様な勇者が召喚されたのですが…その勇者は人類を裏切り、魔族に寝返ったと言う伝説があります…嘘ですけどボソッ。」

「マジか!つまりコイツは!?」

「ええ…不吉の象徴。私達に、そして人類に厄災を齎らす危険があります…」


ナニヲイッテルンダこいつ?

しかも、今の話絶対に嘘だろ。

そんな適当な話を信じる奴…居たわ。


「こ、怖くない?」

「それな…」

「ずっと危ない奴だと思ってたんだ。」


周りの空気が怪しくなって来た。

完全にあの女の空気に飲み込まれてしまっている。  

コレは、良くない流れだ。

鬼龍院は、クラスメイトを宥めようとしたが俺は視線で合図する。

今、彼女が何か行動を起こせば彼女も目の敵にされてしまうかも知れない…それだけは避けなければならない。


「そこで!皆様に決めて頂きたいのです!彼を危険と判断しながら勇者として迎えるか…それとも、危険因子として追放するか!

まず、追放せず味方に迎えると言う方、お手を上げてくださーい!」


誰も上げない。

もう既に俺は諦めモードに入っていた。

恐らく何を言っても俺の評価が覆る方法はないだろう。

コイツらは、良くも悪くも周りに流される事でしか生きていけない奴らだ。


「では、追放に賛成の方〜!」


皆が手を挙げる。

満場一致ってやつだ。

コレが俗に言う、異世界追放モノか?

まさか、俺がそれを喰らう立場になるなんて思いもしなかった。


「では、彼のいやアレの処分は追放に決定です♡それでは皆様、アレはもう勇者でも人間でもありません!

ただ追放しても意味がありませんね…そうだ!スキルの訓練始めましょう!」


おい、まさか…嘘だろ?

イカれてる…この女は、俺の想像以上に腹黒だった。

流石に、クラスメイト達も躊躇している。

そ、そりゃそうだよな…


「なら、遠慮なく!おらよぉ!」

「ーーぶほっ!?」


次の瞬間ーー顔に凄まじい激痛が響く。

ナニを、された…?

痛い、鼻が折れ曲がっている…殴られた?葛葉の野郎、本当にやりやがった…


「おいテメェら、コイツは人間じゃねぇぜ!サンドバッグだ!スキルとか打ちまくれ!」

「ああ、そうだよな?ーー『雷撃』!」

「ぎゃぁぁ!?」


次は、身体中に電撃が走る。

痛い…熱い…やりやがった…名前も知らないモブ野郎が、、、

彼らを皮切りに、クラスメイト達は次々と俺に向かってスキルや暴力を振るってきた。

あぁ…痛い、熱い、苦しい、怖い、タスケテ…コイツらは、もう人間じゃない…

初めは躊躇していたクラスメイト達の表情に次第に変化が訪れる…快楽、娯楽。

まるで、浦島太郎の亀になった気分だ。

いや、それよりも酷いものだ。


鬼龍院は、ただこの状況を涙を流して見ている。

そうだ、何もしなくて良い…どうせ、何もデキナイ。


誰も助けてくれない…浦蟻は手は出さなかったが、俺の耳元で「役立たずは消えろ。お前の女も僕が貰っておいてやるからよ。」と。

激痛の中で聞こえてくるのは、愉快に笑うゴミクズ共の声…朦朧とする意識の中で見えるのは、ゴミ虫を弄び歪んだ笑みを浮かべる生徒とクソ女の姿。

先生は止めようとするが、ヴィーナスやその他の圧力によって完全に動けない。ドウデモイイ。


もう、痛みや苦しみすら感じなくなってしまった。

ただあるのは、奴等に対する怒りと恨み…怨嗟の焔が俺を包み込む。


「か、ひゅ…はぁっ、はぁっ…」

「皆様、ご苦労様です!では、彼の追放処分は前向きに考えさせて頂きます!それではみなさま、今日はゆっくりとお休み下さい。」


身体が動かない…意識も薄れていく。

だが、何故か死なない…恐らく、この女が何かやっているのだ。

いつの間にか、ヴィーナスが俺の目の前に立って歪んだ笑みを浮かべている。

そして、耳元でこう囁いた。


「憐れですねぇ…同じ勇者に裏切られて、そして最期は捨てられる。ざまぁってやつですね!」


本当の地獄はここからだった。





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[良い点] こいつらマジムカつく!!! ヴィーナス最低!! あんなちょっと唆されただけで、倫理観の強い地球人がここまでするかよ!! って、思いました。めちゃめちゃ胸糞ですが、その分のスッキリを心待ち…
[良い点] 恐ろしいほどサディスティックで、「ひえー」ってなりました。 底辺から始まってのし上がってざまぁが胸をすくパターンですが、あまりにも底辺すぎて「大丈夫かな?」と心配になりました。
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