第十八話 世界を混乱に齎す者達の遭遇
気配を消し、茂みに挟み様子を伺う。
凄まじい威圧感がピリピリと伝わってくる。
牛骨王に匹敵するかも知れない…それ程までに、研ぎ澄まされている。
敵か或いは味方か…まだ分からない
ただ、威圧感を放っている正体は大方予想が付く。
アーラム達は、誰かを追っていた様子だった。
あいつらが追っていた人物。
「どうやら、向こうも覚悟を決めてたようだな。」
「そうみたいだな。」
あの5人に、真っ正面から立ち向かうつもりだったのだろう。
ま、この正体がハッタリではないのなら勝敗はある程度予想出来る。
奴ら相手に、奇襲攻撃を仕掛けるなら気配を隠して襲い掛かるだろうしな。
あの5人は相当の実力者だ、それも完成された連携を持った。
そんな奴等と、真っ正面から受けて立つとは…よほど、自分の腕に自信があるのか、それとも奇襲を嫌う真っ直ぐな人物なのか。
少し、相手の力量を測ってみる。
ヒュッ
リーダーの女が持っていた短剣を気配のする方向に投げる。
正面からではなく、背後から。
キンッ
遠くから、鳴り響く金属音。
「ほう。」
同じように様子をうかがっていたディナが声を洩らす。
相手が、動いた。
対象が短剣を弾き落として、定位置から移動した。
相手の動きは恐ろしく速く、正確に短剣が飛んできた方向を把握していた。
俺達も定位置から、外れ移動する。
再び対象の背後を捉える。
対象の背がハッとした反応を示す。
反応速度は良い、でも少し遅かった。
俺の方が、速い。
ーー『邪龍魔法』
ーー『邪龍の禁言
ーー『動く事を禁ず』
敵と判断出来ない以上、無闇に苦しめるつもりはない。
だが、動きは念の為に封じさせて貰おう。
ついでに、喋ることも。
邪龍魔法の中でも、攻撃力は皆無だが自分よりも格下の相手ならば、呪言を唱える事で思い通りに出来る。
相手は振り向きたくても、振り向けない。
身体は、何かに張り付けられた様に動けない。
人物の姿を認識する、全身フルプレートの鎧と兜。
背丈は高いが、佇まいからして女性か?
手には、剣が握られている。
彼女の背後に立つ。
「すまんな、さっき襲撃があってな。アンタもその仲間かも知れないから動きを封じさせて貰った。」
殺意と敵意が少しだけ、小さくなった。
そして、新たに感じられたのは困惑。
殺意と敵意はアーラム達のような純性とは異なっている、善人特有の躊躇などが入り混じっている。
遺跡で遭遇した魔物やあの5人組とは、全く異なる感情。
「さっきの四人組とはどこか違う感じがした。だから、少し話をしてみようと思ったわけだ。とはいえ、動きの方は保険として封じさせてもらったが」
だが、それを除いてもやばい相手には変わらない。
コレは悪魔でも推測でしか無いが、本気のアーラムよりも強い。
何よりも、異質。
俺の『危険察知』が、身体に警鐘を鳴らしている。
だからこそ、こちらが有利な状況を作っておくに越したことはない。
「な……に、もの、ですか…?」
女が質問してきた。
俺はその事実に驚愕する。
まさか、俺の魔法を突破して話す事が出来るのは想定外だった…彼女は俺が思っているよりも、強いらしい。
「驚いたな、喋れるのか?アンタ、相当強いな…ああ、安心してくれ。俺達はアンタに敵対するつもりはない…そっちが敵対するまではな。
質問にさえ答えてくれれば、解放する。」
「この近くに、街か村があるか分かったら教えて欲しい。俺はこの辺りの人間じゃなくてさ、その所為でだからこの辺りの情報には疎くて…そこで、アンタに教えてほしくてな。」
女の警戒心が少し薄れる。
疑念。
戸惑い。
困惑。
俺達は、彼女の正面に立った。
フルプレートの鎧と兜。
兜の口元が、少し開く。
「あ、の…5人、は…どう、なった、のですか?」
「知り合いか?」
「い、え。」
んー、やはり会話しづらいな。
そもそも、喋れてる事自体がおかしんだが。
「一応、身体の動きは封じさせて貰うが、口だけは動かせるようにする。」
まだ、お互いに完全に和解した訳でもない。
探り合いが続いている。
相手が今の状態をどう認識しているかは分からない。
この世界にも、状態異常系の魔法が存在しているかも知れないし、未知のものかもしれない。
レベルが上がって、動きを封じた状態で各部位を任意で解除する事が可能になった。
しばし間があって、女が回答を口にした。
「わかり、ました…」
俺は、彼女の口の拘束を解除した。
「動かせる…」
「口だけはな…悪いが、まだそれ以外は拘束させて貰う。
さっき、ここへ辿り着くまでに襲撃を受けたからな。」
「いえ――私も状況が同じであればそうするでしょう。」
彼女の警戒心がまた少し薄れた。
優れた人格の持ち主だな、見ず知らずの人間に動きを拘束させられたってのに。
兜によって、聞きづらいが声には揺るぎない信念が感じられた。
初対面で敵意を向けられた相手にも、敬意を忘れない。
まさに、騎士って感じだ。
再度、観察。
見た目は兜と鎧で隠れて分からないが、さぞかし美しいのだろう。
「あなたの質問に答える前に一つ、教えて頂きたい。」
「なんだ?」
「先程、襲撃があったと言いましたが…それは、もしかして5人組でしたか?」
「ああ、そうだ。」
「彼等は、どうしたのですか?」
「皆殺しにした。」
女が、兜の向こうで驚いている事が見て取れる。
やはり、奴等は相当な手練だったのだろう。
「……な、リーダーのアーラムもですか?」
アーラム、あの女か。
確かに、あの5人の中だったら頭ひとつ抜けていたな。
「ああ。」
「そう、ですか…」
「そうだ、救いようの無い屑だと判断し皆殺しにした。もしかして、仲間だったか?」
「いえ……ですが……」
女は動揺しながら、俺達を交互に見る。
なんと言うか、感情が忙しい人物だな。
こう言う所は、鬼龍院に近しいものを感じる。
「あの栄光の渇望者を殺した?……まさか、あなた方が?いや、確かに貴方達なら…」
「そうだ。証拠は、残っている確証はない。ここに魔物が居るなら、餌になってるかも知れん。」
多分、残って無いだろう。
魔物の餌になっている訳ではなく、俺が念の為に死体を燃やし尽くした。
もし、奴等の遺体を発見した誰かが彼女と関係が有れば次の面倒事にも巻き込まれるかも知れない。
相手の動きを封じるのには、これも有効な手段のはずだ。
しかしあの5人組は、有名だったか……。
まあだが、思った通り彼女とアイツらは敵対関係にあった。
彼女は出来れば、殺めたくなかったからな。
俺とて、前任まで殺すほど腐ってる訳でもない。
もし仮に、奴等が彼女の仲間だったら敵対せざるを得なかったかもな。
「…………」
とは言ったものの…俺はまだこの女を信用できない。
女は、全身を鎧で包み未だに顔すら見せていない。
せめて、目さえ分れば少しなら虚偽か真実か探れるんだがな。
用心深い…いや、それ以前にコレが彼女の装備なら仕方ないか。
すると…
ガコン!
と、兜が上部と下部にスライドし顔が露わになった。
鎧も外れる。
完璧なタイミングだ。
ま、偶然だろう…警戒心が完全に消えた、つまり心を許したとまでは行かない…が、まぁよしとしよう。
露わとなった、顔を拝む。
それは、あまりにも美しかった。
凛々しく、綺麗な顔立ち。
綺麗に揃えられた上品なまつ毛。
翠緑色の美しく澄んだ瞳。
少し肉付きが良い身体のラインがハッキリと浮かんだボディスーツをベースに、下腹部から局部、豊満な胸に備わった鎧。
黒タイツを基調とし、膝から足先まで鎧が覆われている。
とにかく、女は美人で綺麗だった。
容姿だけなら、今まで見たどんな女性よりも美しく神秘的。
"エルフ”と称される種族を彷彿とさせる姿。
いや、エルフなのだろう。
俺の持っているイメージだと、エルフの耳は尖っていて親指ほど長い。
だが、この女の耳は確かに尖り長いが…長すぎる。
エルフでは、無いのかもしれない。
まだ、分からないことばかりだな。
どうやら、もう少し知る必要がある。
次回の更新は、来週の金土日の何処かで投稿予定です。
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