第十五話 脱出、そして迫る敵意
遂にあの遺跡を脱出する事が出来た。
天気は晴れ、太陽の光が暗い場所に居た俺達の目を刺激する。
本当にここは地上なんだな、空気が澄んでいる。
一休み、と行きたい所だがそうも行くまい。
ふと、遺跡の方に目を遣る。
うん、外から見れば本当に遺跡っぽいな。
ギリシア神話とかで良く見たり聞いたりする構造をしている。
巨大な石造りの柱に囲まれ、巨大な扉が立ち塞がる。
ふと、遺跡へと続く扉を見ると緑色の宝石が埋め込まれている。
予想通りか。
恐らくだが、この宝石は扉が開かれたり閉じられたりした時に光る物だろう。
となると、偽装は難しいかも知れない。
辺りを見渡すが、この遺跡を見張る様な建物や兵士は居ない。
其処だけはまだ、良かったかもな。
俺がこの遺跡から生きて帰った事はまだあのクソ女に知られたくない。
まだ復讐の為の下準備すらまともに出来ていない状況で知られれば、不味いことになるのは簡単に予想出来る。
どうにかして、偽装できないか?
「なぁ、ディナ。この遺跡の目印になってる宝石に細工とか出来ないか?」
「出来るぞ、と言っても一時的にだがな。」
なんと、好都合な。
「なら、頼む。俺達の存在はまだ、なるべく知られる訳には行かない。」
「そうだな。了解した。」
ディナはそう言うと、宝石に触れ細工を始めた。
すると、宝石は緑色から赤色に変化した。
「宝石の記憶を解析し、扉が中から開けられる以前の状態に戻したぞ。
これなら、余程の実力者でなければ簡単には解除できまい。」
「助かる。」
ほんと、頼りになる奴だな。
これで暫くの間は、俺達の存在が女神や他のクラスメイト達にバレる事はないだろう。
どれほどの間、騙せるかは分からないが少しでも猶予がある内に動いた方が良いだろう。
「さて、コレからどうするのだ?」
「まずは近くに街が無いか調べてみよう。此処が何処なのか分からないと、意味ないしな。」
「そうだな。」
遺跡の辺りを軽く見渡す。
うーん、360度何処を見ても森が続いている。
生物の気配も全くしないな、少し進んでみるか。
そう思って少し進むと、人が使用していると思しき道を発見した。
綺麗な草が踏み荒らされて、土が剥き出しになった道だ。
踏み固められた地面が奥まで続いている。
どうやら、この道が正規ルートっぽいよな。
となると、この道を通るのは避けるべきか。
万が一、この道を通る時に調査隊なんかとエンカウントしたらそれこそ最悪の事態だ。
だから、進むなら森の中を進んだ方が良いな。
それに、森の中にもしかしたら水場があるかも知れん。
汗や血でベタベタになった衣服や身体を洗い流したい。
飲み物は半分くらい余った天然水が一本と少し余った板チョコが一つ。
次の街へ着くまでは、こいつらを温存しながら行くべきだな。
「森を行くのかー、私、虫嫌いなんだよなぁ。」
「我慢しなさい。」
「むぅー…そう言えば、何で私らは仮面を着けているのだ?」
「身バレ防止だ。万が一、ここがヴィーナス勇王国の領地だったら俺の存在は直ぐにバレるかも知れない。それに、今後行動する時に顔を隠していた方が都合が良い。」
そう、俺達は神龍鎧装で創り出した仮面を顔に着けて行動している。
これには、理由が幾つもある。
まずは、身バレ防止。
さっきも言った通り、此処がヴィーナス勇王国だった場合…クラスメイトや王城に居た兵士や貴族達と遭遇する確率が高い。
遭遇した場合、100%の確率で俺が出雲龍斗だとバレる。
それは、他の国でも言える事だ。
予想に過ぎないが、四大勇者国はお互いに情報を共有していて俺の情報も他国が知っている可能性だってあるしな。
そして、今後活動するにあたってこう言った変装をする事によって都合がいい展開も来る。
あと単純に、かっこいいしな。
「ま、そんな訳で我慢してくれ。」
「分かった…ぎゃあ!虫ー!?」
飛び出してきた虫に驚いたディナが俺に飛び掛かってくる。
メロンよりも大きい胸が俺の顔を埋め尽くす。
マシュマロの様に柔らかく、甘い匂いに溺れそうになってしまう。
おっと、取り乱してしまった。
「…」
とにかく、森を抜ければ人里に降りれるかもしれない。
幸いにも、遺跡で手に入れた金貨が1枚と銀貨が20枚あるので街や村に着いても無一文で困る事はない。
宿を取って、身体を休めたい。
それに、例の遺跡で手に入れた書物をゆっくり読みたいしな。
後は、情報集めか。
書物に記されているのはもう何千何万年も前の物だろう、時代が変わればそれまでに常識だった物は非常識に変わっているなんて事は珍しくない。
異界大全の内容と今の世界の情報がどれほど正しいのかを照らし合わせたいしな。
そして、この神についての事が記された書物がメインだ。
遺跡で目を通した時に気になっていた、古の魔女…の存在。
彼女に会えば、きっと神を殺す為の方法が知れる。
ディナに聞けば手っ取り早いと思ったが、答えは知らないだった。
神は不死身であり不滅の存在、その為に自分自身でさえ死に方が分からないらしい。
神核を砕かれても、一時的に活動を停止するだけであり死にはしない。
ヒュドラが存在すら消滅したのは、恐らくだが今はヒュドラの毒が付着したこの短剣のお陰だろう。
「ヴィーナスは何らかの形で神を完全に殺す方法を手に入れたのだろう。そう言えば、ヴィーナスが我等を裏切る前に魔女を新たに迎え入れたと聞いた覚えがある。」
「それが古の魔女と呼ばれる女かも知れないな。まぁとにかく、早く街に行って情報を集めよう。」
古の魔女の情報を集めつつ、戦力も欲しいな。
それもただの数合わせじゃない、強者だ。
俺と同等或いはそれ以上の力を持った者、そして俺と同じくこの世界に酷く裏切られ絶望と憎悪の念に駆られた同胞。
簡単に言えば、共犯者か。
と言っても、仲間探しは後回しでも何とかなる。
今はとにかく、情報が欲しい。
異界大全でこの世界の魔物や国の名前は知っているが、アレは古い情報だ。
魔物も変わってるかも知れないし、国は間違いなく変わってる。
女神が追放前に話していた帝国や神聖国に聖皇国は存在してなかった。
ここら辺は、仕方ないと言って良いだろう。
ヴィーナス勇王国はその昔から存在しているらしいがな。
予想通り、あのクソ女は随分と長生きしているようだ。
四邪神と女神ヴィーナス…まだ分からない事が多いな。
「…リュート。」
「ああ。」
ディナも気付いたか。
森の奥の方から異常な殺意と悪意を纏った何かが近づいて来ている。
明確な敵意を持つ其れらは、何かを追っているようだ。
それも相当な手練れなようで、凄まじいスピードで近づいて来る。
神龍眼を発動する。
人数は3人、いや5人か。
構成は男が3人、女が2人。
いずれも、軽装。
剣士が2人。
弓使いが1人。
魔法使いが1人。
修行僧が1人。
バランスの取れた構成。
傭兵、或いは冒険者と言った所か。
いや、もしかしたらこの国の兵士かもしれない。
その可能性は低いが。
国の兵士があんな強烈な殺意と悪意を持っていて務まるとは思えない。
距離は20メートル、ここに辿り着くまでにあと数十秒か。
やれやれ、何やら面倒ごとに巻き込まれそうな予感がする。
面倒だが…奴等が俺達に害意を及ぼそうとするのなら容赦はしない…
今日の0時にもう一話、投稿予定です。
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