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邪に堕ちし神達の番 〜復讐の焔は、世界をも焼き尽くす。〜  作者: ぷん
一章 異世界召喚篇 〜追放と絶望を添えて〜
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第十二話 神をも喰らう毒竜

巨大な扉を開いた。


部屋に入った瞬間ーー猛烈な腐敗臭に吐き気と眩暈が身体に襲い掛かる。

よく眼を凝らすと、この部屋全体には薄い紫の煙が充満している。

部屋を進めば進む程に、その臭いやその他の症状がより強く増していく…

常人ならば、この毒だけで命を落としてしまうだろう。


奥へ行けば行く程に、毒霧は色濃くなり視界が失われる。

この状態で戦うのは不利だと判断した俺は、魔力を体外に放出して毒霧を吹き飛ばす。

そうすると、霧は晴れ…そして、毒霧を生み出していた元凶がその姿を表す。


傷だらけの禍々しい黒紫色の鱗体。

十二に別れた異形の頭部。

5メートルを軽く超える巨体。

部屋全体を包み込む神気と膨大な魔力、そして毒気。


これが、アルケイデスや多くの英雄達を葬り去った最強にして災厄の龍…神殺しの蛇龍(ヒュドラ)か。

コイツは、ヤバイ…

対面してより感じる奴の異常さとその強さ…恐らくだが、今のディナに匹敵するんじゃないか?


「なるほどな…リュート。

此奴は、これまで見て来た龍の中でも5本の指に入る強さだ。」

「そうか…」

「どうする?」

「やるしかないだろ。」


そう、やるしかない。

丁度いい機会だ、自分よりも遥かに強い相手と戦える機会だ。

それに、アルケイデスの遺した手記に記載されていた奴の弱点と殺し方を知っている。

俺なら出来る。

ここで立ち止まる訳には行かない。


そう俺は決心し、前に進む。


奴は寝ている。


ぐっすりと、自分の命を脅かす存在が近くに居ると言うのに此奴はなんの警戒もせずに寝ている。

まるで俺を、取るに足らない雑魚と判断し気にもしていない様に感じられる。


不愉快だが…好都合でもある。

奴は、隙だらけで油断している。

なら、アルケイデスが手記に残していた事が本当なのか試すには今しかない。


「ふぅ…よし。

ーー『神龍鎧装(ドラゴスーツ)

  ーー『怨嗟ノ死龍(ペイルライダー)』」


激しい機械音を立てて、義手となった腕から身体全体に禍々しい鎧が装着される。

その姿はまるで、小型の龍。

全身に力が漲る。


脚に魔力を込める。

すると、両脹脛の部分から3本ずつマフラーが立ち上がる。

そして、龍気エネルギーを一気に爆発させる。

荒々しい轟音と共に、寝ているヒュドラの一つ目の頭と距離を詰め、漆黒の焔を纏った手刀を首根元目掛けて振り下ろす。


振り下ろされた手刀は、ヒュドラの首を見事に切断する。

ドスンと言う音を立てて、一つ目のヒュドラの首が地面に落ちた。 

本来ならヒュドラは首を切断されても再生する、だがアルケイデスの手記によれば首を斬り落とした後に傷口を焔で焼けば再生出来ないと記されていたが、どうやら正しかったらしい。


これなら、奴を殺せるかもしれない。


しかし、そう簡単にはいかないだろう。


首を斬り落とされたヒュドラが、ようやく事態に気付き起き上がる。

随分と余裕そうだな…首を斬り落とされたってのに、平然としている。

奴にとっては、その程度、気にも止まらないって事か?

まぁ、いい。


「ようやくお目覚めか。舐めやがって…どうした、首を斬られて怖気付いたのか?」

「ーート!ーーリュート!目を醒ませ!」


ディナが突然、大声を上げていた。

一体、どうしたんだ?


「どうし、た…え?」


ふと、ヒュドラの方に目を向ける。

先程、俺は確かにヒュドラの首を一本斬り落とした筈なのに奴の首は十二個、傷一つなく揃っている?


「ッ…」


ああ、そうか…俺が見ていたのは幻覚だったのだ…この部屋に入った時から俺は既に奴の毒に侵されていたのだろう。

俺の身体はヒュドラの攻撃によって吹き飛ばされ、壁にめり込んでいた。

しかも、下半身の感覚がない…俺の身体は見事に横に切断されていたのだ。

神龍鎧装を纏っているのにも関わらず、奴の攻撃を耐え切る事が出来なかった…しかも、切断された下半身は猛毒によって骨まで溶け掛けていた。


それに、残った上半身もまた根元から毒が侵蝕している。

もはや、悲鳴を上げる事すら出来ない程の激痛…例えるなら、100度を超える焔で喉を焼かれているような…

身体の感覚は既にない、俺は数秒も経たないうちに死ぬだろう。


そして、死んだ。


《リュート・イズモが死亡しました》


《これによりスキル【龍ノ番】が発動。これにより全ての能力値が5倍となり10秒以内に対象の蘇生を開始します。》


「…っ!」


ふと、意識が覚醒する。

死んだのか…手も足も出ずに殺された、俺は知らずの内に慢心していたのだろう。

ここまでの高みに来て、まだ上がいた。

いや、そもそも俺は高みにすら届いて居なかったのだろう。


「大丈夫かリュート…」


ディナが心配そうに、俺に駆け寄る。

さりげなく、ヒュドラの攻撃を軽く受け流し反撃の殴打を添えて。

ヒュドラは、その大きな巨体を浮かし距離を取る。


「ああ…」

「此奴はお前の手に余る。私が想定していた以上に強い、おそらく今の私よりも…だから、2人でやるぞ。初めての夫婦共同作業だ。」


こんな危険な時でも、彼女は余裕そうにそう微笑む。

緊張感がないな…だけど、お陰でやる気が出たよ。

彼女が居てくれて、本当に良かった。


俺は、再び立ち上がる。


一人ではなく、二人なら勝てる。


『やはり…キサマらは我と同種か。』

「へぇ…」


喋れるのか…


『まぁよい、どのみち何方も殺すだけだ。』

「来るぞ!」


ディナがそう声を上げた瞬間ーーヒュドラがその巨体からは想像も出来ない程の速さで攻撃を仕掛けて来る。

無数の首を俺とディナ目掛けて、振り下ろす。


「ぬるい!」

「ぐっ!?」


俺は辛うじてその速度に対応し、防御体制を取る。

しかし、その威力は凄まじく神龍鎧装を装着した腕は骨を粉々に砕かれ宙に投げ飛ばされる。

蘇生して能力値が上がったのに、コレかよ…だが、さっきと比べれば奴の動きは辛うじて見える!

それに使い物にならなくなった腕は、再生する。


一方のディナは、ヒュドラの攻撃を紙一重で躱すと一気に間合いを詰めありったけの力を込めた拳を繰り出す。

その拳をモロに受けたヒュドラの首が一つ消し飛ぶ。


「リュート!」

「ああ!ーー『邪龍魔法』

ーー煮え滾る憤怒は劫火となりて顕現する!

  ーー【怨嗟ノ焔息(ドラゴブレス)】!!」


俺はディナが消し飛ばした首の切断部位目掛けて、怨嗟ノ焔息(ドラゴブレス)を左掌から放つ。

だが、俺の身体は後方から迫っていたヒュドラの強靭な刀燐を纏った頭の攻撃を避け切れずに串刺しになる。

刺された部位から毒が身体に侵入し、全身に激痛が奔り穴という穴から血を吹き出し絶命する。


そして、数十秒後。


俺は、再び蘇生する。


「はっ!?、はあっ…はあっ…」


蘇生するといっても、その前に経験したものの感覚は消えない。

今も身体中が受けた苦痛と絶望を忘れない…身体が震える。

明確な恐怖‥ダメだ、呑まれるな…震えよ止まれ…


「リュート!」

「むぐっ!な、何を!」


そんな状態の俺を見兼ねたのか、ディナは俺の顔を強引に掴み口付けを交わす。


「呑まれるな!お前にはこの私が付いている。

だから、安心して戦い、そして死ね!限界まで、足掻け!」

「ありがとう…」

「私が奴の攻撃を引き受ける。だからリュートはその隙を狙って奴の首を斬り落とし根元を焼き尽くせ!」

「ああ!」


ヒュドラの攻撃が再び始まる。

俺を串刺しにして殺した、強靭な刃を備えた鱗を持った頭部からガトリング銃のように刃鱗が俺達に向かって放たれる。

俺とディナは、それぞれ二手に分かれ刃鱗の砲弾を回避し間合いを詰めてゆく。


だが、奴の間合いを詰めるのは至難の業だろう。

奴の首は十一、例え一つの首からの攻撃を避けたとしても残り十つの首が襲いかかって来る。


俺は何とか全方向から不均一に襲い掛かる奴の攻撃の応酬に対応するが、全てを捌く事は不可能で、片腕を切断されたり、頭部を半分失いながら、ディナが機を作るまでサポートをする。


「一筋縄では行かんな。少しギアを上げようか!」


ようやく身体が温まって来たのか、ディナが更にギアを上げる。

ヒュドラも速いのに、ディナはそれを上回るような速さで動き回る。

その結果、ヒュドラの意識は完全に俺から逸れる。


『ちぃ!こざかしい!ーーむぅ!?』


奴が気付いた時には、もう遅い。

俺の攻撃は既に準備を終えていた。


「ーー邪龍魔法

   ーー『邪龍の焔涙(ドライ・クンダーラ)


轟、という大きな音が鳴る。

指と指の間から覗く片目より、凄まじい爀熱を纏い夥しい程の魔力が収束した光線が放たれる。

其の一撃は、ヒュドラの首を二つ焼き貫いた。


「絶技ーー『天螺』」


ディナの放った天螺がヒュドラの首をさらに二つ捻じ斬る。

少し黒ずんだ紫色の血飛沫が飛び散り、同時に4本の首を失ったヒュドラは苦悶の表情を見せる。


だが、それでもヒュドラは攻撃の手を緩めない。


『ーー『獨嘴の死突(スチュパリデス)』!』


10メートルを超える長さを持つ刀尾が、リュートとディナに向かって迫り来る。

死角より襲い来る死を招く一撃は、邪神龍たるヴォーディガーンでさえ避ける事は叶わずに左半身を見事に抉り取られ、その番たるリュートは脳天を穿たれ再び絶命する。


(流石は神なる龍だな、我が必中の一撃ですら殺せぬか…しかし、厄介だな。)


首が再生しない、傷口を灼かれたのか。

それも、神々をも焼き尽くす劫火によって。

我が弱点を知っていたとは、これもあの半神半人の大英雄の仕業か。

なんたる執念か…だか、それだけではない。


ヒュドラは、脳天を穿たれ絶命した少年の方に目を向ける。

執念で言えばあの人間はそれ以上だ、何度も凄惨に殺しても立ち上がり挑んでくる。

恐ろしいのは、ヤツはこの戦いの中で成長している…恐ろしい程に。


よもや、己がここまで追い詰められるとは…幾年振りだろうか。

我が奴らに勝つ為には、まずはあの完成された連携を崩さねばならない。

残りの首は、我が核である神首を残して残り2つ。


『袂を分かて、我が首よ。そして、その身に宿し者を顕現させよ。

ーー『穿貫嘴怪鳥(スチュパリデス)』!

ーー『百頭ノ竜(ラドン)』!」


分断した、首がその姿を変える。


現れたのは、百の頭を持つ異形の竜と巨大で鋭利な嘴を持った怪鳥。

ヒュドラ自身の首を触媒に召喚された最強の魔物。


『我が分体達よ、あの忌まわしき龍姫を殺せ。』


ヒュドラの命に従い、百頭ノ龍ラドンと怪鳥スチュパリデスはディナいや、邪神龍ヴォーディーガーンの前に立ち塞がる。


「ギョェェェァエンェアェエテエ!??!!」

「ギョケッコッコッココココココココ!!!!」


己の欲を満たす玩具を見つけた2匹は、歓喜の咆哮を上げる。


「不愉快な声だ…一思いに殺してやろう。リュート。」

「ああ、分かってる。奴は決着を付けるつもりだ。

背中は任せたぞ。」

「うむ。」


『ルゥォォォォォォオオオオオ!!!』


ヒュドラもまた、その姿を異形の物へと変貌させる。

数十メートルを超える巨体は、5メートル程に縮み人型となる。

身体の至る所に神毒を守った棘を生やし、右手は背丈ほどある巨大な剣となり、左手は異常に発達し丸太の如き太さを持ち。

全身には、幾重にも重なる少し形が崩れた装甲が装着されている。


その姿を見て、リュートは呟いた。


「ーー神龍鎧装か。」


『さぁ…最終ラウンドと行こうか。』

神龍外装ではなく正しくは、神龍鎧装です。

今まで、気付かなかった…



この話が面白いと思って下さった方は是非、評価と感想をお願いします!


次回の更新は、この土日か来週に投稿予定です。

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