第十一話 名も知らぬ君へ
第十階層は、不思議な事に他の階層と異なって魔物が一匹も居なかった。
それに、骨となった骸の数も圧倒的に少ない…ここまで辿り着いた人間はよっぽど優秀な戦士とかだったのだろう。
少し可哀想だな、あと一階層で地上…そんな希望を抱いた彼等は恐らくこの先に居るナニカによって敗れ力尽きたんだ。
扉のある部屋からはかなり距離があると言うのに、伝わってくる。
あの奥には、確実にヤバイ奴が待ち構えている…あの牛骨王よりも強い。
それも、比べ物にならない程に…
一体、あの扉の先に何が居るのか…苦戦は免れないだろう。
ボス戦に入る前に、今のレベルとステータスを確認しておこうか。
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リュート・イズモ (15)
種族:半龍半人
性別:男
レベル:5
攻撃力:300000(+α)
耐久:250000(+α)
敏捷:280000(+α)
魔力:310000/310000
幸運:70000
固有スキル;【邪神龍の権能】・【復讐者】・【邪神の眷属】
保有スキル:【神速】・【対魔力・神】・【龍神の寵愛】・【神龍鎧装】・【龍圧】・【龍ノ番】・【神龍眼】・【邪龍ノ怨恨】・【龍気爆発】・【気配察知】・【邪龍ノ呪】・【龍魔法】
称号:【龍神の番】
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一応、目標にしていたレベル5には到達出来た。
ステータスも異常な程に伸びてるが、油断してはならない。
彼女の話では、この世界では如何に自分が相手より優れていようと、その者の積み上げて来た経験や戦術などによっては、圧倒的な実力差が覆る場合もあると。
確かに、的を得ている発言だ…元の世界でも、世界ランキングが四桁の選手が世界ランキング一桁の圧倒的格上に持ち前の技術や作戦によって番狂せを起こしたのを見た事がある。
もし仮に、十階層の階層主が俺よりステータスが劣っていたとしても、スキルや戦闘法によっては此方が返り討ちに遭う可能性も高い。
逆もまた、然りだがな。
階層主が待ち構える部屋の大扉の前に辿り着いた。
大扉の中心には、身体の大部分が溶け落ちた骸が横たわっていた。
骸の側には、一枚の血液で文字が書かれた紙とニつの厚い本と一本の短剣が添えられていた。
「リュート。」
「ああ…」
俺はまず、ニ冊の分厚い本を手に取る。
埃被っていた部分を払うと、この分厚い書物の題名が姿を現す。
一冊目の本の題名は、『異界大全』と記されていた。
中身をザッと見る限り、この世界の歴史や出来事に加えて、魔物や植物に種族についての事がびっしりと書かれていた。
読書が好きな俺でも、この量の文字は初めて見たし、出来れば読みたくない。
が、ありがたく頂戴しよう。
だが、彼は何故この本を持っていたのだろうか。
二冊目の題名はーー『神殺しを望む者へ』と…
中身を少しだけ、読んでみる。
ご丁寧に、神についての記述がぎっしりと書かれている。
その他にも、神殺しの伝説などが。
「これは興味深い…此処に書かれている事はおおよそ正しい。素直に称賛するべきだな…一体、どうやって此処まで調べたのか気になるが…それを聞く術はもう無いのが残念だ。」
「コイツもあの女の被害者か、或いは別の神の被害者か…少なくとも、これを全部調べる為に計り知れない程の険しい道のりがあった筈だ。」
「ああ、そうだろうな…」
だからこそ、あの女神が如何にクソやろうなのかが分かる。
一体、どれだけの人間があの女神の犠牲者になってしまったのだろうか…
それを知った所でって話だけどな。
これは俺とディナだけの復讐だ、彼等の無念を晴らす為の復讐劇では無い。
だがまぁ、約束なら出来る。
俺が必ず、あの女をぶっ殺す。
2冊の分厚い書物と一緒に添えられていた血液で文字が書かれた紙を手に取り読み始める。
『初めまして…君がこの手紙を読んでいる頃に私はもう死んでいるのだろう。
この十階層に登り詰めた君は、さぞかし高名な英雄なのだろう…そんな君に伝えておくべき事がある。
少し長くなるがどうか、最後まで読んで欲しい。
私の名は、アルケイデス。
私はこの世界の人間では無かった、あの女神によって召喚された異界の勇者と言うやつだ。」
異界の勇者アルケイデス…何処かで聞いたような名前だ、、、
ああ、確かギリシア神話に登場する最強の英雄ヘラクレスの幼名だったか?
そんな偉大な人物もこの世界に召喚されたってのか?そう考えると、彼が召喚されたのは、数千年前?いや、もっと前か?
『この手紙を読んでいる君が私を知っているかどうか分からないが…私はこれでも、元の世界でも屈指の力を持っていた。その力と勇者としての力を得た私は、仲間と共にこの世界で数々の偉業を成して来た。
だが、あの女神は我等を世界を脅かす悪党と呼び殺そうと企んでいた事を知った。
どうやら我々が、この世界の知識を蓄え、神殺しの方法さえ知ってしまった事を良く思わなかったのだろう。
永きによる逃亡の末に我々は奴等の巧妙な罠によって捕らえられた。
そして、かつて神龍と謳われた邪神龍が封印されしこの遺跡に追放された。
この遺跡は、かつての世界よりも色濃い神秘が流れ、遭遇する全ての魔物達が桁違いの強さを持っていた…その脅威に晒され、仲間達は次々と命を落としていった。
五階層にて、かの牛骨王と約束を交わし我々はこの遺跡を更に登った。
階層を登るにつれて、魔物はより凶暴で残虐になり、また地形も天候も悪く、屈強な仲間達でさえ徐々に弱っていく。
そんな地獄を見て私は、激しい怒りと憎悪の念に駆られる。
全ての元凶である、あの女神を殺す事だけを活力にしつつ、果てしない旅の中で知ったこの世界の事を書物に纏め、神殺しの伝説やこの世界の神の概念などを書物に残した。
我々が成し得ずとも、いつか誰かが成してくれることを信じて。
数々の困難を乗り越えて、我々は遂に地上へとつながると推測した十階層に辿り着いた。
ここまで、多くの骸を目にして来たが十階層に辿り着いたのは私達だけのようだ。
恐らくこの扉の先には、最後の門を守る主が居る。
仲間達と共に、我々は門の中で待ち受ける怪物と対峙した。
ソレは、一言で云うならば巨大な大蛇。
12の悍ましい頭。
禍々しい異形の身体。
溢れ出す神気。
そして、身体全体から漏れ出す毒液。
かの者を私達はこう名付けたーー神殺しノ蛇龍と。
神殺しノ蛇龍を最強たらしめるのは、神の子である私でさえ凌駕するスピードとパワーでもなく。奴が持つ毒だ。
例え擦り傷でさえも、その傷口から夥しい程の毒が身体を蝕みこの世の物とは思えない程の苦痛を味わい、最後は骨一つ残さずに死んでしまう。
そして、奴は不死身だった。
幾ら首を落とそうが、その傷口から即座に再生し更に強くなって蘇る。
更に、戦いが長引くに連れて奴の毒気が部屋に満ち、死には至らない物の、激しい嘔吐や眩暈、身体の麻痺が起こり、自我が崩壊する。
死線を潜り抜けて来た仲間達が、一人また一人と死んでゆく。
私と残ったメンバーは、この時点で勝つ事を諦め奴の弱点などの研究に死力を尽くしいずれ訪れる誰かに託す事にした。
そこで我々は、奴を殺す方法に遂に辿り着いた。
その方法は…首を斬り落としたのなら、その傷口を焼け。
そうすれば、再生力は落ちる。
12の首を全て斬り落とせ、そうすれば奴の命の根源となる神格が姿を表す。
だが、ただの攻撃ではヒビ一つ入れる事は叶わない…ただ一人遺された私は、身体を蝕む猛毒に耐えながら、ある神器を完成させた。
その短剣には、かつて古の魔女…裏切りの魔女の方がしっくりくるが、神々の不死性さえ無かったことにする魔術が込められている。
最後のピースである神の生き血を贄に、この短剣は遂に完成に至ったが…もはや、指一本動かす事も難しい私には不要な物となってしまった。
故に、この短剣も君に託そう。
君の人生に…どうか幸福がありますように。
手紙はここで終わっていた。
何というか…想像以上に濃い内容だったな。
彼もまた、この世界の犠牲者。
勝手な都合で呼び出され、用が済んだら殺される。
本当に…心底、腹が立つ。
アルケイデス…アンタが遺した意思…そして書物とこの短剣は確かに受け取った。
でもな、一つだけ。
俺の人生に幸せはもう不必要だ…俺はこの先も待ち受ける地獄を堂々と歩むよ。
そして必ず、あの女神を殺して…このクソみたいな世界もぶっ壊してやる。
そう決心し、俺とディナは硬く閉ざされた鉄扉を開く。
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