第十話 到達、十階層
「ふむ、奴を見事に倒したな。」
「ああ、流石に手強かったな。」
本当に強かった。
アステリオス…少しでも選択を間違えればやられていたのは此方だろう。
実際にこれまで多くの猛者達が奴の手によって葬られて来たと、手記には記されていた。
少し気になった事もあった、あの魔物には明確な知能と意思が備わっていた。
何処か所作も人間味があった…アレは、いや彼は牛骨王になる前は人間だったのではないか?
もしもそうならば、彼もまたあのクソ女の犠牲者なのかも知れないな。
「この後はどうする?」
「地上を目指して階層を上る。でもその前に、腹が減ったな。」
今ふと思ったのだが…俺はこの世界に来て一度も食べ物を口にしていない筈だ。
それなのに、今の今まで一度もお腹が減らなかった…あの怪物を倒して少し気が抜けたのか?
よく分からないが、とにかく腹が減った。
喉も乾いて来た気がする…だが、辺りを見た感じ空腹と喉の渇きを満たせるような所はない。
「ふむ…そう言えば、一度も食事をしていなかったな。私は神龍故に食事は不要だが、お前は違うからな。ん?
リュート、その皮袋さっきよりも膨らんでいないか?」
「え?」
ディナの言うように、俺が羊皮紙を拾った時に一緒に拾った皮袋がパンパンに膨らんでいた。
俺は、一応手元に残しておいた羊皮紙の内容を確認する。
『…醜く生に足掻く君に、この皮袋を託そう。これはかつて、最古の魔女によって作成された魔導具らしい。理屈も原理も分からないが、この皮袋は持ち主が必要とする物を生み出す力を持っている。私はこの皮袋のお陰でここまで辿り着くことが出来た。どうか、君の役に立つ事を祈るよ。』と。
と言う事は、この膨らみはまさか…そう思って皮袋の中に手を突っ込んでみる。
「こ、これは!?」
中に入っていたのは…たまごサンドウィッチとツナサンドウィッチにお茶のペットボトルが2本。
ま、マジかよ…まさか、元の世界で馴染みの食べ物が入ってるとは…幻影か?とも思ったが、感触は確かにパン生地、たまごを少しだけ味見するが…どうやら、本物だ。
「それは、なんだ?」
「俺の居た世界の食べ物だ…サンドウィッチって言ってな。特定の具材をパンで挟んだ食べ物さ、きっと美味い。
ほら、食べて見ろよ!」
俺は、ディナにたまごサンドを渡す。
ディナはたまごサンドを恐る恐る口にする。
「はむっ、もぐもぐ…!?こ、これは!?う、美味い!?なんと、なんと素晴らしい味だ!!?食事なぞどれも同じだと思っていたが…こんな物を食べてしまったら、私はもう普通の食べ物など口に入らんぞ!!?この、飲み物も美味だ!」
「喜んでもらえて何よりさ。」
俺が作った訳ではないが、自分の世界の食べ物を食べて喜んでいる彼女を見てるとこっちまで嬉しくなってくるな。
たまごサンドを美味しそうに頬張る彼女は、普段の様な大人びた態度とは裏腹に無邪気な子供のように、笑顔で幸せそうに食べている。
さてと…俺も頂くとしますかね。
「はむっ、うん!美味いな!」
やっぱり、サンドウィッチはツナが一番だな。
何よりこの麦茶も物凄く美味しい…それほど喉の渇きと空腹が限界に達していたのだろう。
俺は、此処がどんなに危険な場所なのかも忘れて無我夢中に頬張る。
念の為に、飲み物は半分くらい残しておいた方が良いだろうな。
またいつ何処で皮袋が変化するか分からないしな。
「そう言えば、レベル上がったんだったな。」
サンドウィッチがあまりにも美味しすぎて、それ以外の事を完全に忘れていたが、牛骨王を倒した際にレベルが4に上がったんだ。
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リュート・イズモ (15)
種族:半龍半人
性別:男
レベル:4
攻撃力:250000(+α)
耐久:200000(+α)
敏捷:185000(+α)
魔力:255000/255000
幸運:50000
固有スキル;【邪神龍の権能】・【復讐者】・【邪神の眷属】
保有スキル:【神速】・【対魔力・神】・【龍神の寵愛】・【神龍鎧装】・【龍圧】・【龍ノ番】・【神龍眼】・【邪龍ノ怨恨】・【龍気爆発】・【気配察知】・【邪龍ノ呪】・【龍魔法】
称号:【龍神の番】
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スキルに変化はなし…まぁ、今あるスキルだけでもかなり強力だからな。
それにこれ以上、増えたとしても全部を扱い切れるか分からないしな。
あと5階層で、何処まで強くなれるか…
「ふむ、だいぶ強くなったようだな。だが、まだ足りないな…私の全盛期の100分の1といった所かな?」
「は?嘘だろ…」
でも、彼女の言う事は嘘だと言い切れない。
【神龍眼】の力を持ってしても、彼女のステータスやレベルにスキル…それら全ての情報が測定不能になっている。
殆どの力を封じられても尚、強さの底が計り知れない…全盛期は一体、どれ程の化け物だったのか。
そして同時に、あのクソ女神の力の底もどれ程のものか分からなくなって来たな…少なくとも、今の俺では歯が立たないかも知れない。
「今日は少し疲れたな、攻略はまた明日にしようか。」
「ああ、良いぞ。なら、私が膝枕してやろう。」
「助かる。そう言えば…お前の復讐対象の龍族って何処に居るのか検討が付いてるのか?」
「さぁ、アレから計り知れない程に時が経ったからな変わってるかも知れん。変わっていないのなら、天空城砦ジズに奴等は居るだろう…」
「へぇ、天空に国があんのか?」
「ああ、我ら龍族は神に次ぐ最強種であり古来より神族以外の種族の頂点であり管理者でもあった。そして、すべての龍族を統べっていたのが私だった。」
彼女にとっては、恨めしい場所なのかも知れないけど…いつか行ってみたいと思ってしまった。
いや、いつかは必ず行くだろう、観光目的でもなく、滅ぼす為に…少し残念だが仕方ないよな。
「やっぱー、滅ぼすのか?」
「そのつもりだったが…ダメだったか?」
「ああ、いや…もし可能なら、一度は観光してみたいと思ってな。」
「そう言う事か…まぁ考えとく。」
あまり期待しないでおこう。
少し休んだらいよいよ、再び階層の踏破再開だな。
この先にどんな脅威が待っているのかは、分からないが…俺達は、突き進まなければならない。
どんな手を使ってでも、必ずだ。
ーー
数時間の休息をとり、遂に第六階層に辿り着いた。
6階層は、部屋全体が巨大な大森林地帯という感じの造りだった。
これら全てが、人工物では無く自然に発生した物とディナが言っていた。
遺跡って言うのは、不思議だな…ここまで来ると、逆に不気味に思えて来る。
此処に住まう魔物や魔獣の種も異なる。
考えたらキリがないな…先へ進もう。
深い森だ…何処を進んでも木々が進行を遮って来る。
道も悪く、歩く度に大量の草花が脚に絡み付く。
そして、森林には花に擬態する植物型の魔物が罠を張り巡らせ俺達を殺そうと待ち構えている。
奇しくも罠に掛かり命を落とした、犠牲者の骸が転がっている。
何よりも、森に住まう全ての魔物の規模が大きい…元の世界に居た、あのブラキオサウルスに似たような魔物が群で襲って来る。
「鬱陶しい…」
この足場も視界も悪い森林を煩わしく思ったのか、漆黒の業火で燃やし尽くしてしまった。
漆黒の業火に巻き込まれ、何百体もの魔物達も燃え盛る焔の犠牲者となる。
至る所から、魔物の悶え苦しむ叫び声が響き渡ってくる。
鬼畜だ…だが、同情はしない。
お前らも、アレらを殺す為に随分と時間を掛けたんだろ?
なら、自業自得って奴だ…そのまま、苦しみの中で死ねばいい。
「うむ、見晴らしが良くなったな。」
「良くなりすぎだけどな。」
どうやら、邪神龍様は手加減を知らないらしい。
六階層を覆い尽くしていた深い森林は燃え尽き、次の階層へと繋がる魔法陣が剥き出しとなっていた。
俺達は、七階層へと上がる。
七階層から九階層も同じように、遺跡に蔓延る魔物達を殺し尽くしレベルや戦闘経験を積みながら着実に進む。
道中で、彼或いは彼女から授かった皮袋に二回目の食物と飲み物が生成された。
今度は、アップルジュースが2本とおにぎりが4つだった。
具材は、ツナマヨネーズ・すじこ・塩・梅干し…案の定、ディナはおにぎりを美味しそうに頬張っていた。
一回目の食事から、およそ六時間程は経過していたと思う。
俺の予想が正しければ、この皮袋まぁ魔導具?は朝昼晩に一度ずつ起動する仕組みになっているのではないだろうか。
本当に不思議な魔導具だな…コレを造ったと言う人物には是非とも会ってみたいものだ。
ああ、話が逸れてしまっていた。
とまぁ、そんな訳で俺達は遂に十階層の入り口に辿り着いた。




