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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

俺様って何者だ

目を開けると暗闇だった。


自分の手も足も身体も見えなかった。

家の壁もベッドも棚も机も見えなかった。

森も川も海も空も見えなかった。

鳥も犬も猿も魚も魔獣も見えなかった。

友達も家族も仲間も愛する人も見えなかった。


何もかも……見えなかった。



瞼は開けれた。

けれど


手を動かせなかった。

足を動かせなかった。

首を動かせなかった。

身体を動かせなかった。


痛みがなかった。

痒みがなかった。

味覚が感じられなかった。


音が聞こえなかった。

匂いを感じなかった。

何かに触れる感触がなかった。


何もかも……できなかった。



思考だけが動いていた。


自分は何だのだろう。

生きているのか。

死んでいるのか。

わからない。


自分が誰だったのか。

人だったのか。

何をしていたのか。

何をしたいのか。

わからない。



再び目を閉じる。


自分は暗闇と共に、そこにいた。





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




俺はどこで間違った。

何の選択肢を違えた。



「こ、こんな……こんなぁ!こんなことがあってたまるかぁぁぁ!」



俺の目の前には仲間達の姿がある。


屈強な戦士。

彼は妖艶な女に生も性も抜かれ、自慢だった筋肉も萎み、ミイラのようになっていた。


ありとあらゆる魔術を扱う魔術師。

その部屋に入るなり、上半身と下半身を別々にされ、血にまみれていた。


聖女と人々に称えられる美しい僧侶。

人よりもはるかに大きい魔人どもにその身を白く黄色く汚され続け、その美しかった顔も狂ったように歪ませていた。


どんなものも外さない百発百中の弓師。

いくつもの矢が彼女の身に刺さり、血を吹き出しながら倒れていた。


悪党から金銀財宝を盗み、貧しき人々に分け与える盗賊。

首と身体を別々にされ、棚に飾られていた。


途中で拾った魔族の少女。

道中で見せたかわいらしい笑顔とは別に、何の感情も見せない無表情で玉座に座る魔族の男の隣で佇んでいた。



「これが現実だよ。勇者。」



玉座に座る男がそう言った。



「もう、十分楽しませてもらった。前回の勇者達と同じように。」



考えが追い付かない。

この男は何を言っている?



「最後に言っておこう、勇者よ。」



その男は玉座から降りると俺の近くに歩いてくる。



「歴代の勇者も、お前もお前の仲間達も我らの玩具であり食物だ。だからこそ定期的に人々が住む場所を襲い、お前達を呼び寄せる。何百年もの長い間、ずっとな。」



男は動けない俺の前にくる。



「人々の王は、それを理解しながら勇者を向かわせる。代わりに金や奴隷を人々の方へ向かわせる。この女はそこから逃げた奴隷だ。まぁ、我の物である以上逃げることはできないが。」



男は右手を伸ばすとギザギザな刃がついた大剣が現れる。



「さて、四肢を失い、なお生き続ける勇者よ。その身を焼かれ傷が塞がれているのはいえ、何故生きていると思う?何故、それまでに死んでいないと思う?」



何故?

確かに何故四肢を失った瞬間に死ななかった。

何故、今も生きて、魔族の男を見上げることができる。

何故、狂うこともできずにいる。



「最後にこうやって私を楽しませる玩具であるためよ。せいぜい苦しみにくれるその顔を見せてくれ。」



恐怖を感じる。

だが、決して狂うことはできない。



「や!……やめろ!やめてくれ!やめてくれよぉぉ!」



そして、男はギザギザな刃がついた大剣をゆっくりと振り上げ、降り下ろす。



「……貴様は誰だ?」



しかし、その大剣は俺に触れることはなかった。


いつの間にか、俺と男の間に1人の人間が立っていて、男は大剣を降り下ろす直前で止めていた。


間に立っている者は、俺からは後ろ姿しか見えないが、黒い衣服を纏い、黒髪であり、身長も高いことはわかる。


ただ、人型であるだけで人間とは限らないが。



「答えぬのなら、そのまま愚痴ろ。」



男はその者に再度大剣を降り下ろす。


俺は何もできず、声も出せず、その様子を見ていた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



なにやら声が聞こえた気がした。


そういえば何やら風らしいものも感じたような。

感じたような?

風に触れた?


考えを巡らせると、閉じていた瞼から光を感じていることに気づく。


いつの間に暗闇が開けていたのだ。


そして、瞳を開けるとそこには男が大剣を"俺様"に降り下ろそうとしていた。



いや、何でだよ。



意味がわからない。

せっかく暗闇から出てこれたというに、何故すぐに命が消されようとしているのか。

なにそれ、イジメ?イジメなの?

"俺様"が何したっていうんだ。


いや、記憶がないから記憶を失う前に何か悪いことして罰されようとしているのかもしれないけども。



しかも、この褐色肌の頭に角が生えている男はやたらゆっくりと大剣を下ろしている。


何これ。

ゆっくりすることで"俺様" に恐怖を与えるつもりなの?


やめて。

怖い。普通に怖い。

いきなり殺されそうになって、恐怖心煽られるとか、本当に怖い。


だいたいどこなのここ。

なんか、薄暗いし、鉄くさいような血の臭いのような……。



あああああぁぁぁ!!


ミイラみたいなのとか、身体が分離してるとかあるんですけど!

死体のカーニバルになってるんですけど!


遠くの方にはばかでかい蛇とかいるんですけどぉ!



もう嫌ぁぁぁ!!


もう帰る!

どこかはわからないけど、帰ってやる!


まあ、帰る場所もわからないんですけどね!






………これ、避けられるんじゃね。



身体を大剣の軌道からずらす。


すると、ゆっくり下ろされていた大剣が、急に勢いよく下ろされた。



「ほう? 避けたか。」



男はそう言いながら、大剣を切り上げてきた。


やたらゆっくりと。


それも身体をずらして避ける。



ゆっくり振って、さっと避ける。


ゆっくり振って、さっと避ける。


避け続ける。



…………何だろこれ。


なんか、驚くような表情してるけど、こっちも驚いてるよ。


なんでそんなゆっくりだったり早くだったりしてるの。


えっ、これ、もしかして避けたら駄目な的なやつですか?


いやいやいや、そんな訳。

チラッとギザギザな大剣を見る。


いやいやいや、おかしいよね!

当たったら痛いですまないやつだよね、これ!


しかもなんか、避ける時に後ろをチラッと見たら、四肢がない男が転がってたんだけど。

超こわいんですけど!



「ふん、なかなかやるようだな。いいだろう。少し本気を見せてやる。」



目の前にいる男がそういうと、きゅうに大剣が赤く輝きだした。


なんで赤く?

血に飢えてるの?

だから、ちょっと赤黒い感じで輝いてるの?


いや、そもそもなんで剣が輝くんだよ。

輝いたら強いの? 切れ味が増すの?

だとしたら、超嫌!


でも振り抜く早さは変わらないから、避けるよね。

そして、なんで驚くの?

いや、避けるよそりゃ。

痛いですまなさそうだし。


すると、今後は男が輝きだしたと思うと大剣を持っている逆の手から、赤く燃え盛るような玉が出てきた。


んー。

んー、んー。


はっ。これ魔法か? 魔法なのか!?

ほー、凄いなぁ。


でも、なんか、大きくない?

人一人ぐらいなら飲み込みそうな大きさだよ。

それもポンポンだして、男の周囲に飛び交ってるんだけど。

ゴウゴウと音がしてるよ、これ。


どうするのかな。この大道芸もどき。



「死ね。」



男はそう言うと火炎弾みたいなのを、一斉に放ってきた。


だろうと思いました!


でも、案の定ゆっくり飛んでくるので、試しにそこに落ちてた剣の欠片を投げてみるとあら不思議。

ゆっくり燃えて溶け落ちようとしていた。

ドロッと溶ける感じで。


スローモーションにも程がある。


とりあえず、避けるしかないよね!

でも、後ろには四肢がない男。

ここで避けて、この男が燃えて死んでも嫌だな。


どうする。

どうするよ、"俺様"!!



すると、右手に違和感。

みると、黒く、禍々しい輝く刀を持っていた。


なんでだよ!?

いつの間に持ってたの、"俺様"?

さっきまでなかったよね。

持ってなかったよね、これ!


大体、これでどうしろと。

もしかして斬れってことか、これは?

火炎弾を?

もしくは打ち返せ、と。


いやいやいや!

無茶だってそんなの!

無理だって普通に考えて!


というか、仮に切れたとしてさぁ。

ちゃんと、火炎弾は別れて"俺様"達をさけるの?

打ち返した時に、火が移ってこないの!?


やっぱり無理だし、無茶だよ!


でも、火炎弾は目の前にまできている。



あああああ!


もう、いい。

もう、いいや。

いいぜ、やってやる。やってやらぁ!



右足を一歩前にやり、身体を斜めにする。

そこからは、一歩も動かず、ただただ右手を縦横無尽に振り回す。


振って振って振りまくれ!!

斬って斬って切り刻め!!


左右に切り裂かれた火炎弾は、そのまま飛び散る。

時には刀の峰で弾き返し、時には火炎弾の球筋に沿わせ受け流す。



だぁぁぁぁぁ!!

長い。長いよ!

いつまで続くのこれ。

いつになったら終わるのよ。これは!


って、……あれ?

終わった?



いや、違いますね。

なんか特大のが打ち込まれようとしてますね。

火力とかも高そうですね。


ははははは。






いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!





死ぬ死ぬ死ぬよ、これは。

後ろの男ごと、燃やし尽くすつもりだよ!



心の中で叫びながら、打ち込まれた特大の火炎弾の方へ、違和感を感じていた左手を向ける。



すると、特大の氷が出て、火炎弾と張り合った。


そして、激しい音がしながらも消失し、辺り一面霧に包まれる。




…………うん。

いや、この右手の刀もそうだけどさ。

なんか、身体さ。"俺様"の意志で動いてなくない。


確かに刀を振ってた時とか、左手を向けたのは"俺様"だよ。

だけどさ。勝手に出てきたんだけど。

刀とたぶん氷の魔法と思われるのも。



なんでだろうなー。



いや、それよりも今は逃げることが大切だよな。


とりあえず後ろにいた、四肢がない男を担ぐ。



「お、おい、やめろ!」



いやいや、やめたら君が逃げれないでしょ。

歩けないでしよ。

魔法とかで飛べないだろうし。


君は後で"俺様"に色々と説明してもらわないといけないんだから。



すると"ゴウッ"というような音とともに霧が晴れる。


いやいや、早すぎませんかねぇ。

もうちょっと待ってくれてもよかったんじゃないかな。


そんなことを思いながら、振り向く。

すると、男はさっきより身体が大きくなっていた。


なんでやねん。


なんで大きくなってるの!

さっきよりも怖そうなんだけ!



「貴様、何者だ。」



何者かは"俺様"自身が知りたいです。



「答えぬか!」



そう言って、赤黒く光る拳を"俺様"に放ってくる。


だから、早いんだって。

答える前に攻撃してくるの止めてよ。



んで、やっぱり途中からゆっくりだしさ。

避けるよ。

避けちゃうよ。


そしてさっきと同じように、ゆっくりきて、避ける。

ゆっくりきて、避ける。



「何故だ! 何故避けられる!?」



ゆっくりきてるからだね。



はっ!


もしかしたらこれは。

これはそういうことなのか!



逃げろと!

本当は殺したくないから、さっさと逃がしたいんですね。

わっかりましたー!!


ならば、まだ息があるあの二人。いや、三人も捕まえて逃げますね。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


意味がわからなかった。


急に現れた黒衣の男は、魔族の攻撃をことごとく避け、防いだ。


魔族が振る大剣を軽々と避け、魔法によって加速したそれさえも、変わらず避け続けた。


魔族が放つ高密度の魔力が感じられる火炎弾。

これを禍々しい黒刀で斬り、打ち返す。


最大まで高めたであろう火炎弾さえも、溜めすらなかった氷魔法で相対し、霧を発生させる。


ましてや、本気になったであろう魔族の攻撃を俺を担いだまま、また避け続けている。



一体何者なのか。

魔族がそう何度も聞いても黒衣の男は答えなかった。


これまでのことから、魔族の仲間ではないのだろう。

だが、俺達の仲間でもない。

助っ人だとも思えない。



そう考えていると突然、黒衣の男が魔族から距離をとった。


そして、先程魔族がしたように数多の魔法弾を魔族に向ける。



「……ぬう!?」



狼狽える魔族を余所に黒衣の男は、干からびた戦士、汚れた僧侶、魔族の少女を回収していた。


右手で俺と戦士を、背中に僧侶。そして、左手に魔族の少女を抱えていた。


しかも魔族の少女と狂っている僧侶は暴れないよう魔法紐でくくりつけられていた。


どうするつもりだ?


視線が下がっていく?

まさかと思い下を向くと闇が広がっていて、そこへ沈んでいっていた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「逃がすかぁ!」



そうは言ってもゆっくりと振り下ろされる大剣。

やはり、言葉とは逆に逃げろと言うことではないかと思う。


まあぶっちゃけ、それよりも下に広がる闇の方が怖いんですけどね!


どうやって逃げようか考えてる段階で、急に沈みだすからさぁ、びっくりした。

びっくりしたよ。真っ黒だもの。


そしたら、目の前に男が迫ってきてるし。

このまま沈みきるしかないと思ったね。

勝手に動く意志に任せるしかないからね。

ははははは。


あー、こわぁぁぁあああああい!!!




そんなこんなで、男の攻撃が当たる前に闇の中に沈みきると同時に、どこかの草原に投げだされた。


逃げきれたのだろう。

たぶん。


さてさて、この人たち治さないとね。

四肢欠損の男性は、復活させられるっぽいのでさくさくと。なんか喋っていたけど、眠らせて体力回復させた方がいいっぽいので眠らせる。


汚い女は、水でキレイにして、傷治して、眠らせる。外傷よりも精神関係の治療は時間がかかるらしい。

一応何か魔法がかかってたけど。


ミイラ男は、エネルギーが枯渇しかけていたので外傷は回復しつつ、空気中の外部エネルギーを変換しながら送ればいいと。


そんで、全く同時ない女の子は操られているっぽいので、その解除と。


こう右手をぱぁと動かすとできた。

すごすぎよ、勝手な意志よ。



「………あなたは一体……なに?」



意識か戻ったと思われる女の子がそう言ってきた。


んー、それは"俺様"が知りたい。

あの襲ってきてたのか、逃がしたかったのか、よく分からない男にも言われたけど、"俺様"自身がわからないないからなぁ。


だから、まぁ、それを探す旅に出ようか。

勝手な意志と共に。


そんなことを思っていると、急に女の子たちをまた、闇の中に沈めたからね。


怖いね。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



あれから幾らかの時が過ぎた。



あの時、いつの間にか眠らせれており、いつの間にか王都にある借家のベッドの上にいた。

魔族の少女から話を聞く限り、俺たちはあの黒髪の男に助けられ、治療を受け、ここへとばされたらしい。


何も説明はなかったようだ。


戦士は、意識を取り戻すと己の不甲斐なさを嘆き、再度鍛え直している。


僧侶は、なかなか難しく、外へ出ることができない。男は近寄れず、世話は魔族の少女に任せている。


魔族の少女は、奴隷化が解除されていた。今は僧侶の世話をしつつ、あの黒髪の男について調べている。

感謝の言葉を伝えたいと。


俺も自分を鍛え直しつつ、調べていた。

文献等では、全くわからない。


人のようで、魔族のようで、何者かもわからない。



ただ時折、噂が流れてくるようになった。

黒髪の背の高い男の噂。


助けられる。懲らしめられる。

村を救ってくれる。悪には容赦がない。

急に現れ、急に消える。


色々な噂があった。

どれもアバウトだったが、俺たちも似たような経験だった。


彼は今、どこにいるのだろうか。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


闇の中には様々なものがある。


喜怒哀楽に連なるもの。

嫉妬、殺意、狂喜、怯え、恐怖、執着等。


様々なものが重なりあい、混ざりあい、生まれた。


勝手な意志と共に生まれた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


外の世界って思ってたよりこわぁぁぁあああああいよお!!


ゴブリンからドラゴンまで襲ってくるし、この間の男も襲ってくるし。


時々さぁ、助けた人がくれる食事は美味しいよ。

夜中に光る星は綺麗だよ。

海はおっきく広かったよ。


良いも悪いも甘いも酸っぱいも色々あるんだよ。


だから、怖くても生きるよ。

精一杯頑張るよ。


うん。

とりあえず今は逃げるけどね。


追いかけてこないでぇぇぇぇぇ!!!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 面白いです! [一言] 追ってまいりますので、執筆頑張って下さい!!!
2023/05/22 18:31 退会済み
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