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桜咲く校庭で大企業CEOを父にもつイケメン高校2年生、小早川怜司は「君が好きだ。僕と付き合って欲しい」と爽やかに告白した。
「ごめんなさい」
怜司の前に立つ同級生、栗山陽葵がツインテールの髪を揺らし、頭を下げる。
断られたショックに絶句する怜司に、顔を上げた陽葵が申し訳なさそうに「実は…今、家が大変で…恋愛してる余裕がないの…」と事情を話し始めた。
「どりゃあああ!」
栗山家長男、剛太が叫ぶ。
全長15mの戦闘ロボ、マンダム1号をコクピット内から操り、敵の巨大ロボへと突進する。
「オレも負けねーーー!」
兄の猛攻を見た栗山家次男、勝雄もマンダム2号を爆走させた。
2機が悪の組織「シメシメ団」の怪ロボットに肉迫する。
「俺が决める!」
「いや、オレが倒す!」
2人が同時に吼え、コンソールの赤いボタンを豪快に叩いた。
2機のロボの全ての武装が一斉に発射される。
レーザーライフルとパーフェクトバズーカ、そして無数の小型ミサイルを撃ち込まれ、敵ロボットは大爆発と共に四散した。
「「よっしゃーーー!」」
2人がコクピットでガッツポーズする。
「俺がやった!」
「違う、オレだ!」
毎度お馴染みの「とどめを刺したのは自分」ケンカが始まるのだった。
近未来。
悪の組織や宇宙人、怪獣、果ては未来人まてが頻繁に現れ、とうとう政府は地球防衛を民間にも委託し始めた。
両親を悪者との戦いで亡くした栗山家も、その企業のひとつ。
戦闘ロボ、マンダム1号2号を駆使し、指定されたエリアを守るのが「㈱栗山」の仕事である。
「家の仕事は順調?」
学校近くの喫茶店で、いつも頼むセイロン紅茶のカップを口に運びつつ、怜司が訊いた。
窓の外からは春の穏やかな陽射しが差し込んでくる。
「えーと…それがね…」
陽葵が表情を曇らせた。
2週間前、怜司の告白を断っている。
しかし、その理由故に、友人としての関係は何の支障もなく続いていたのだった。
「お兄ちゃんたちが相変わらずで…」
「ああ。赤字なんだよね?」
「そう…2人とも自分が活躍したがって、協力しないの。武器も何も考えずにバンバン使っちゃうし…このままじゃ倒産するって話はしたでしょ?」
「うんうん」
怜司が頷く。
「それだけでも大変なのに…」
「何かあったの?」
「何だかよく分かんないけど…先輩たちが現れて? 会社を乗っ取られたみたいなの…」
「ああ」
怜司が、クスッと笑った。
「TOBだよね」
「ん? OBじゃないの?」
陽葵が首を傾げる。
「それで?」
「う、うん…剛太兄ちゃんは社長じゃなくなって、新しくセイロン・マックスって人が社長に…」
怜司が右手で自分の口を隠した。
美しい瞳だけが笑っている。
陽葵はそれに気付かない。
「それでこれからは、その人の命令を聞かなきゃいけなくて…お兄ちゃんたちはめちゃくちゃ怒ってるの。でもセイロンさんはまだ会社には現れなくて…メールのやり取りだけ」
「なるほど」
ようやく怜司が、口元から手を離した。
神妙な顔で頷く。
「それだと全員クビもありえるね」
「ええ!?」
陽葵が眼を丸くする。
「そんなのヤダ!」
「そう? いっそ地球防衛なんて辞めれば、陽葵ちゃんの悩みも減るんじゃない?」
「………イジワルね」
陽葵の表情が曇る。
「確かにいろいろ大変よ。でも私、地球防衛は立派な仕事だと思うの。だから辞めたくない!」
「そ、そうだよね…」
怜司が眼を伏せた。
「じゃあ、ともかく今はセイロン・マックスさんの指示を待つしかないね」
「そうなの…すごく不安…」
その時、突然。
店内の全ての人のスマホが、けたたましいアラームを響かせた。
陽葵が素早くスマホの画面を確認する。
「怪獣出現!」
弾かれるように、席から立ち上がった。
「家に帰らないと!」