アンロック!
初投稿作品になります。漫画原作をイメージして創作しており、漫画家志望の知り合いに漫画化してもらう予定でしたが、今のところそこまでは至っておりません。
漫画化前提という事で、絵で表現してもらう事を前提に執筆していましたので、作中の描写では世界観がわかりづらいかと思われますが、これから先の更新で加筆していく可能性があります。
作品のイメージは、ドラゴンボールくらいの文明レベルの世界で、一般の人々とは別に超常能力と呼ばれるアビリティを持つ者、さらにその上には超越者と呼ばれる伝説やおとぎ話に出てくるレベルの者が登場する物語となっています。
本作時点ではバトルはありませんが、今後描いていきたいと思いつつ、現在はこの作品の“ゼロ”にあたる物語を構想中です。
ここはリゾート島ナインピークス。外周約三百キロの常夏の島に似つかわしくない九つの氷山は、大昔に超越者によって封印された炎の大魔獣サラマンダーの九つの背ビレである。現在のナインピークスは驚異観光地として多くの人々が訪れ、その雄大さに心を奪われている。
コーディとルシア。この二人もまた、観光でこの島を訪れていた。
「ルシア!着いたぞ!」
待ちきれないコーディは大型客船から飛び出していく。今年二十二才になるが少しばかり落ち着きがなく、女性が大好きで街中でも手あたり次第声をかける悪いクセがあり、いつもルシアに制されては不満そうにしていた。
「ちょっと落ち着きなさいよ!」
コーディより一つ上のルシアは持ち前の頭脳と整った顔立ち、それに反したワイルドな言動で男性から多大な人気を得ているが、当の本人は全く興味が無いらしく、幼い頃からコーディの世話ばかり焼いている。
そんな二人は、縁あってある機関で働いており、二年間の研修期間を経て実務を一年こなし、見習い期間を無事に終えたお祝いとして機関からナインピークスでの休暇を支給されたのだった。
船を降り、港から市街地の方へ歩を進めるにつれ人が多くなり、みやげ屋や飲食店が軒を連ね、かなりの人だかりができていた。
「どこもかしこも美女だらけ!来て良かったー♪」
いつもの事ながら女性を見て浮かれるコーディを横目に呆れ顔のルシア。
店を眺めながらしばらく歩いていると、数人の客引きの中にひときわ目立つ女性がいる。栗色の艶やかな髪を後ろで緩く束ね、綺麗な肌が眩しい。
「みなさーん!今晩の宴に当店はいかがですかー?美味しい食べ物、お酒も多数取り揃えております!レストラン“延々炎宴”をよろしくお願いしまーす!」
するとコーディがさっそくその女性の元へ駆け寄る。その女性のネームプレートにはアメリアと記されている。
「キレイな方だ。あなたのような女神にお酒を注いでいただけるのならぜひ!」
「アンタ一滴も飲めないでしょーが」ルシアの無慈悲な突っ込み。
「一滴くらいは飲めるぜ!」
「どういう強がりよ……。アメリアさん、まともに相手すると疲れますよ。それにしてもちょうど良かった!延々炎宴はグルメガイドでチェック入れてたとこなんです」
コーディを押し退け、ルシアは持っていた端末の画面をアメリアに見せる。
「わぁ!うれしいです!ぜひいらしてください!」
「ガハハハハッ!」ルシア達の会話を遮るほどの高笑いが聞こえてくる。
「ん?あれって確か……」ルシアが高笑いの主の顔を見て動きが止まった。
「おいおい!まさか仕事じゃないだろうな?!」うろたえるコーディ。
遠路はるばるリゾート島まで来て仕事をしたくないのはルシアも同じだったが端末に指を走らせる。
「頼む!はずれてくれ!」拝むコーディ。
「私の記憶が確かなら……、ヒット!」
「マジかー!」コーディは頭を抱える。
高笑いの主の名はヘルメイス・ヒール。二十六才。能力は高速移動能力のファストムーブ。能力を犯罪に使っているため指名手配中だ。そして、そういった者達の身柄を確保するのもコーディとルシアの仕事のうちだ。
「はぁ、ツイてないぜ……久しぶりの休暇だってのによぉ」
コーディはただでさえ無造作な頭を手でクシャクシャとかき回しながらブツブツと独り言をつぶやいている。
「ほい!さっさと終わらす!」
ルシアは自らの腕に取り付けている六つのアビリティロックリングのうちの一つを取り外してコーディに放り、リングを受け取ったコーディは若干イラつきながら、四人ほどの女性をはべらせて座っているヘルメイスの目の前に立つと、ヘルメイスもそれに気づいてコーディを見上げる。
「こんにちは。ヘルメイスさんですね?わたくし、超常能力管理局のコーディと申します」
コーディは超常能力管理局、通称PAMのバッジを取り出してヘルメイスに見せた。
「おーこわ。だがその恰好は観光だよなぁ?管理局の人間っつうのは暇なんだな」
ヘルメイスは不敵に笑っている。その顔や体の露出した部分には高速移動による弊害であろう大小様々な傷が見て取れた。
「お話をさせていただきたいのでご同行願えますか?」
「いいぜ?だが、俺を捕まえられたらの話だがな。俺は速いぜ?」
「そんなんでいいの?秒で終わるけど?」
コーディは休暇の貴重な時間が減っていく事にイラつきを隠せず挑発的な話し方になっていく。 その言動にカチンときたヘルメイスが立ち上がると2メートルはある身長でコーディを見下ろして威嚇し、空気を読んだ女達が慌ててその場から去っていく。
「そんじゃあ、鬼ごっごといくかぁ!」
ヘルメイスの能力が発動。瞬間的には姿が消えたように見えるがそれは高速移動によるものだ。だいぶ慣れたのであろう、器用に人と人の間を高速ですり抜けてビーチの方へと突風が駆け抜けていき、あっという間に姿が見えなくなり、突風に煽られた人々は悲鳴をあげている。
「お~、速い速い」コーディは手を日よけのようにしてヘルメイスの能力を観測しながらあるものを感じ取る。能力者が能力を行使すると必ず発する、“能力波”だ。
「捉えた!」
能力波を感じ取ったコーディも姿を消すかの如くその場からいなくなった。
一方、ヘルメイスはコーディを振り切ったと確信して立ち止まろうとするがなかなか止まれず、足場が砂地という事も相まって完全停止までの制動距離は実に五十メートルもあった。
「どうだ!ついてこれねぇだろザコが!ハッハッハー!」
「はい、確保」コーディがヘルメイスの腕に背後からアビリティロックリングをかけるとリングの液晶画面に“ABIRITHI LOCK”の文字が表示され、ヘルメイスは完全に能力を抑えられた事になる。
「んなっ?!」唖然とするヘルメイス。
「だから言ったんだよ。秒で終わるって」コーディは靴の砂を払っている。
「なんだコレ!外れねぇ!つーか、おめえも速く走れる能力なのかよ?!」
「半分正解、半分はずれってところかな。アンタの能力をコピーしたんだ」
「コピーだぁ?なんでコピーが俺より速えんだよ?!」
「ま、そこは色々とね。さ、同行してもらえるかな?」
「クソが!負けは負けだ!さっさと連れてけ!」
「ご協力感謝します♪」
ヘルメイスを確保したコーディはルシアと合流し、ナインピークスにある管理局の支局を訪れた。支局には三人の局員が駐在しているようだったが、そのうち二人は外回りに出ているようだった。
受付に行くとマイキーという名の、小柄でいかにも大食漢な職員が出てきた。
コーディはヘルメイスを突き出したが、マイキーはヘルメイスには目もくれず、ルシアを見て目を丸くしている。
「ル、ル、ル、ルシアたん?!」
マイキーはかなり興奮した様子でルシアと手元の小冊子を何度も見比べている。
「間違いない!本物のルシアたんだ!ヒャッホー!」
マイキーはコーディとルシア、ヘルメイスを差し置いて狂喜乱舞している。
「こんなやつが俺達の税金で食ってるのか」ヘルメイスは辟易している。
「アンタがちゃんと税金払ってるとは思えないんだけど」
「正解!おめえやるじゃねぇか。さすがは俺様を捕まえたエリートだな」
コーディはため息をついた。
「ところで、なんであたしの名前を?」
ルシアに話しかけられて我に返るマイキー。
「コレですよコレ!」
マイキーが見せてきた小冊子は、超常能力管理局(PAM)が定期的に発行している局内報で、期待の新人特集でコーディとルシアが紹介されており、コピー能力とその増幅能力のバディである事に加え、ルシアは凄腕のプログラマーでもあることが紹介されていた。マイキーはその記事を見てルシアに一目惚れし、一日中ルシアの写真を見て過ごしていたらしい。
「どうでもいいけどさぁ早く事務処理してくれる?こっちは観光で来てんだからさぁ」
コーディが口をはさむとマイキーの表情が豹変し、途端に険しくなる。
「君も局内報に載ってたねよぇ。ルシアたんとどういう関係?観光に同行ってどういう事?」
「それはだなぁ」
コーディがイライラしてきた事を察知したルシアは話題を切り替える。
「見たところかなり仕事できそうですよね!マイキーさんの仕事ぶりを見てみたいなぁ」
ルシアは甘い声でマイキーに仕事を促し、それに呼応したマイキーは「ルシアたんのためなら!」と、見た目からは想像できないほどの猛スピードで事務処理をこなし、ヘルメイスを地下収容施設へと連れて行った。
その隙に、ルシアは持っている端末より処理能力の高い支局のコンピュータを使ってヘルメイスの能力波サンプルをデータベースに加えると、「また話すのめんどくさいし、立ち去るなら今のうち」と言いながら支局をあとにした。このあと、地下収容施設から戻ったマイキーが泣きじゃくったのは言うまでもない。
夜まで少し時間があったが、支局を出た二人はその足で延々炎宴に向かった。
コーディがヘルメイスの捕物劇を演じている最中にルシアがアメリアに言って予約を済ませていたこともあり、客は多かったがすぐにテーブルにつく事ができた。
「ウマい!やっぱアップルジュースは最高だな!しみるぜ!」
「コーディってばお安いわね。この店はお酒の種類も多いのに飲めないなんてかわいそう」
「酒なんかいらねぇよ。それよかこの肉食ってみろよ!めちゃくちゃウマイぞ!」
「モグモグ……ヤバ!ほんと来て良かった!最ッ高!」
「だろ?にしてもさぁ、やっぱ俺って優秀なんだよな!初めてファストムーブだっけ?使ったけどなかなか器用に使いこなしてヘルメイスの野郎を迅速安全確実に確保できた。俺のおかげで食う肉はさぞウマイだろうルシア君」
ふんぞり返って語るコーディ。
「はぁ?何言ってんの?アタシのアビリティパワー増幅能力のおかげで手柄挙げられたんでしょーが。それが無かったら今日だってヘルメイスを確保できてたか怪しいとこだわ」次の肉を頬張るルシア。
「そういうお前はアビリティロックリング(そいつ)付けてねぇと自分の能力もロクに制御できねぇクセによぉ」
「あ、それ言っちゃう?!せめてアンタ以外の人の能力も増幅できれば良かったのに!」
せっかくの旅行で言い合いを始める二人。と、そこへアメリアが来る。
「コーディさん、ルシアさん!挨拶が遅れました!お楽しみいただけてますか?」
「おぉアメリアさん!何度見てもお美しい!わたくしコーディ、アメリアさんのいる場所なら例え火の中水の中!どこにだって行っちゃいますよ!」
コーディがアメリアの手を両手で握るが「気安く触んな!」とルシアがコーディをアメリアから剥ぎ取る。
「それにしてもいい雰囲気の店ですね。俺こういう感じすごい好きですよ」
「気に入ってもらえたのなら良かったです!」
延々炎宴の店内は古来よりこの島に伝わる伝承をモチーフにした内装になっていて民族衣装、生活の道具なども飾られ、雄大な歴史の流れを垣間見られるようになっている。
「では、ごゆっくりおくつろぎください!ご用命はなんなりとお申しつけくださいね!」去っていくアメリアの笑顔の余韻に浸るコーディ。
「にしても、ナインピークス旅行を支給してくれるなんて管理局も太っ腹だよな」
「確かにそうよねぇ。帰ったらしっかり働かなきゃバチが当たるわ」
しばらく談笑しているとステージがライトアップされ、豊満な体つきの一人の男が現れ、伝統弦楽器のギャラルゥクを使った演奏が開始され、客達はその音色に酔いしれながら夜が本番を迎えていく。
「ジョイ・パラディソ。能力名はムードメーカー。彼がいるところでは犬猫もケンカしないで穏やかになるわ」ルシアがステージ上の奏者を指さす。
「へぇ。観光地にふさわしい能力だな」
「逆に喧嘩に発展させる事もできるけど、能力なんて要は使い方しだいなのよね」
「おまちどおさまです!」
ジョイの演奏に聞き惚れているとアメリアが次の料理を運んできた。料理を置くスペースを空けようとしてコーディがジュースをこぼす。
「やっちまった!」
「バカコーディ!」
「大丈夫ですよ!すぐに拭きますね!」
ルシアとアメリアがテーブルを拭き上げる頃にジョイがやってきた。
「アメリア、そろそろ時間だから帰っていいよ」
「はい店長。ではコーディさんもルシアさんもごゆっくりお楽しみくださいね!」
アメリアはニッコリ微笑み、ジョイも会釈しながら立ち去る。
「アメリアさん、すっげぇキレイな人だ」
アメリアの後ろ姿にいつまでも手を振るコーディ。
「へぇ。ああいうのが好みなんだ?」ルシアは酒をあおる。
「ん?嫉妬か?」コーディは不敵な笑みを浮かべている。
「そ、そんなわけあるか!」ふてくされた感じで顔をそむける。
その時、少し離れた席で食器の割れる音がしてそちらに目をやると二人の男がケンカをしている。かなり酔っているようだった。
「おう!やんのかコラ!」
「あぁ?調子に乗ってんじゃねぇぞ!」
見かねたコーディが席を立って仲裁に行こうとするが、ルシアに肩を掴んで止められる。
「ジョイさんに任せておけば大丈夫よ」ルシアは視線でジョイを指す。
ジョイはステージ上での演奏に戻っていたが、ケンカの二人に気づくと演奏と共に“楽しい”という感情をケンカする二人に送り込む。
「おっ能力波だ。こんなに暖かい雰囲気の能力波は久しぶりだな」
コーディはジョイの能力の対象だったわけではないが能力波を感じる事でかなりリラックス効果を得られた。ケンカしていた二人も今まで一発触発の状態だったはずが酒を注ぎ合いながら楽しそうに笑っている。
「そら、もっと飲め!今夜は飲み明かすぞ!」
「だな!無礼講だぁ!おーい!酒を持ってきてくれ!」
コーディもルシアもジョイの能力に関心しつつ、こういう能力ならもっと増えてもいいのにと考えていると、突然ステージの天井に吊るしてあった照明が激しい音と共に落下して客達がざわつく。幸いジョイを含めたスタッフにも怪我は無く、ジョイの能力で再び客達は宴を楽しんでいる。
落ち着いたかと思った矢先に、今度は店の外の遠方から激しい爆発音がしたためコーディとルシアは状況確認の為に店外に飛び出すと、港に停泊中の船の一隻が炎を上げている。
「車が突っ込んでくるぞー!」「キャー!」
他の観光客の声でそちらに振り向くと、一台の車が坂の上からコーディ達に向けて突っ込んでくる。
「あぶねぇ!」コーディはルシアを抱きかかえて間一髪のところで車を避ける。
車は岩に激突して停まり、ドライバーも安全装置のおかげで無事なようだった。
「……ありがと」ルシアは抱きかかえられたままコーディの顔を見上げて見惚れていたが、コーディは周辺の状況に神経を集中させている。
「この感じ……、能力者だ!ルシア!」
「……えっ!あっ、サーチしてみる!」
慌ててコーディから離れたルシアは端末を使い能力波の発信源を探す。
「これは……、未知の能力波が島全体を覆ってる!発信源は……こっちよ!」
能力波の発信源は管理局が島にいくつか設置している専用のアンテナを使って測位する。これはこの島に限った事ではなく、管理局の管理下に置かれている場所ならどこにでもアンテナは設置されていて、その範囲はほぼ全世界に及ぶ。
その技術を頼りにコーディとルシアは発信源に向かうが、今度は地震が起き始めた。立っていられないほどの地震は数秒で収まったが予断を許さない状況になってきている。
「あれを見ろ!ナインピークスが!」観光客の一人が叫んだ。
コーディ達が振り返ってナインピークスの氷山、つまり、氷漬けの大魔獣サラマンダーの背ビレを見ると、その氷が解け始め、頂上付近はサラマンダー特有の赤紫の炎が揺らめいている。
「何てことなの!このままだとサラマンダーの封印が解ける!」
ルシアは手元の端末で封印崩壊までの予測時間を算出しようとするが、謎の能力波の影響もあり正確な残り時間が割り出せない。
「おそらくこれも未知の能力波が原因だ!発信源に急ぐぞ!」
走る二人。揺れる大地。大魔獣サラマンダーの封印は確実に崩壊に向かっている。
謎の能力波を追っていくと、この島に住む人々の住宅街に辿り着いた。
「コーディ!近いわ!その角を右に曲がった先から反応がある!」
「おっしゃあ!」
二人が角を曲がると、地震に怯えて暗がりに座り込むアメリアと遭遇する。
「アメリア……さん?」知っている顔に面食らう二人。
「コーディさん!」
アメリアは恐怖からコーディにしがみついて震えている。
「あのー、いつまでくっついとくつもりかな?」
アメリアの恐怖心も理解できるのでしばらく見守っていたルシアだが、あまりにも二人のくっついている時間が長かったため多少強めの口調になっていた。
「あっ。ごめんなさい!つい……」コーディから離れるアメリア。
「僕はかまいませんよ!さぁ、僕の胸に飛び込んできてください!」
「自重しろ!」コーディはルシアに頭をはたかれて不満そうにしている。
「改めまして、僕達は超常能力管理局(PAM)の者です」
アメリアにバッジを見せ、ルシアがアメリアの頭から足まで端末をかざすとピピッと音を出す。
「発信源はアメリアさんで間違いない。能力波の状態が不安定なところを見ると、能力が発現して間もないのね。ともかくこれを」
ルシアは身に着けていたアビリティロックリングを外す。
「これを付ければ、アメリアさんの能力を抑制できます」
リングをアメリアの左腕に装着するとリングの液晶画面に“ABIRITHI LOCK”の文字が表示される。
「これで大丈夫です。安心してください」ニコリとほほ笑むルシア。
「あの、私の能力って一体何なんですか?」
「状況から鑑みるに、大なり小なり問題を引き起こす能力。命名するなら“トラブルメーカー”ってとこかしら」
「トラブルメーカー……ですか。超常能力って私も昔は憧れていたんですけどね。こんな能力で島のみんなやお客さん達にすごく迷惑かけちゃって、ごめんなさい」
アメリアはひどく落ち込んでいるようだった。
「アメリアさん、謝る事はないです!珍しく常時発動型の能力っぽいし、私達も知らないうちにコーディがアメリアさんの能力をコピー、そして私がコーディの能力を増幅する形でここまでの騒ぎになった可能性が高いから」
「ルシアさん、ありがとう。優しいんですね」笑顔が戻ってきたアメリア。
「それにしても、コピー能力と増幅能力かぁ。ルシアさんはコーディさんの能力しか増幅できないんでしたよね?ごめんなさい、お店でお二人の会話が聞こえてきて。お二人はすごくお似合いですよ!二人で一つって感じがしてうらやましいです」
「い、いやぁ。そんなでもないですよぉ」
アメリアの言葉にまんざらでもないルシア。
「ははは。アメリアさんも冗談がお上手だ。ルシアは俺の母ちゃんみたいなもんでいつも口うるさいしそういうのは全然ないですよ」
「へぇそうなんだ」ルシアが冷たい口調でコーディの肩にパンチ。痛がるコーディ。
次の瞬間、強い揺れと共にサラマンダーの咆哮が響き渡る。その咆哮は地震と共に大気を細かく震わせ、空気がビリビリと肌に叩きつけてくる。どうやら島の東側の半島、ちょうどサラマンダーの“頭部”にあたる部分の封印が特に消えかかっているようだった。
コーディとルシア、アメリアは住宅街の家々の隙間から、闇夜に浮かび上がるサラマンダーの背ビレである氷山に目をやると、先ほどまで頂上付近だけだった炎の揺らめきが中腹ほどにまで達している。
「遅かったか!」コーディは手で髪をグシャッと握りしめ、思案している。
「アメリアさんの能力を無効化したからさっきより正確にシミュレートできるはず!」
ルシアは端末を忙しく操作し、サラマンダーの封印の崩壊までの時間を算出する。
「何てこと……、封印の半分以上が解けてる。完全消失するまで八分!」
コーディとルシアは、これほど大きな事件に初めて遭遇したにも関わらず、いたって冷静に状況打開策を考えていた。
「本部に連絡して“超越者たち”に来てもらうしかないわね!」
ルシアの言う超越者とは、この世に存在する特殊能力者のさらに上位の存在であり、おとぎ話や神話の中で語られるほど、通常の特殊能力者とは比べ物にならないほど強大なアビリティを使いこなす者たちの事だ。
「超越者?ムダだ。到着する前にサラマンダーに島ごと焼き尽くされるぞ」
「じゃあどうすんのよ?!」
「サラマンダーの封印を施したのは超越者って話だよな?超越者とはいえ元は超常能力者。それなら、俺のコピー能力とお前のアビリティパワー増幅能力で封印を再構築できるかもしれない」
「理論上は可能かもしれないけど、封印結界の楔までかなりの距離があんのよ?辿り着く前に封印が破られるわ!」
「理論上は可能なんだな?お前のその言葉で確信したぜ!ルシア、超越者なんて頼らなくても俺達は俺達のやり方で解決しようぜ!」
「だから、どうやって……」そこまで言ってルシアは言葉を飲み込んだ。
「俺達のやり方、となればここではヘルメイスの能力を使うのね?私の増幅能力とプログラム、そしてアンタのコピーを使えば少なくとも封印崩壊までに楔に辿り着ける!」
「ご名答!さっそくやるぞ!通信機をよこせ!」
「データベース登録を後回しにしないで良かった!」
ルシアは端末を操作してヘルメイスの能力波パターンを呼び出し、“LOAD”ボタンをタップするとすぐさま管理局のアンテナからファストムーブの能力波が放出される。ちなみにこの機能はルシアがコーディの為に独自にアンテナシステムに導入したものだ。
「捉えた!」
コーディは高速移動を開始。サラマンダーの背ビレ付近に向けて猛スピードで駆けていく。コーディが走り去った後は砂、砂利、石、木の葉など、色々な物がコーディについていくように風が吹き抜けていた。
「さて、念には念をっと」
ルシアはプランBとして超越者への応援も本部に要請。
「コーディさん凄いです!さらに速くなってませんか?」
アメリアは突風が吹き抜けていくような光景を見て唖然としている。
「あたしの増幅能力はこのアビリティロックリングを外したぶんだけコーディに作用するんです。今、全六個中二個外してるんで、その気になれば能力的には元の能力者より二倍近くの性能を発揮できるはず。アイツの身体に負担がかかりすぎるから外せてもあと一個が限界なんですけど」
「そ、そうなんですね。凄すぎてよくわからないですけど」
ルシアは会話をしながらアメリアを安心させつつ比較的安全な場所へと誘導していく。
一方、コーディは高速移動アビリティの恩恵により、複数個所に存在するであろうサラマンダー封印の楔の一つに到着していた。
「ちっくしょう。この靴、気に入ってたのになぁ」
悪路を駆けてきたため靴はボロボロになっていた。
「さて、これが楔だな」
封印の楔は高さ六メートル、一見石柱のようにも見える、ほのかに青白く光る半透明の物体だ。その表面はゴツゴツとしていて切り出してきた岩のようだった。楔はサラマンダーを取り囲むように一万本以上設置してあり、伝説ではこれを構築した超越者はたった一人で、しかも一時間ほどで作業を終えているというから驚きである。
「能力波を感じる……」
コーディは楔に手をかざし、封印が元々持っている力にエネルギーを注入し後押しする形で封印の再構築を試みるが、封印は徐々に崩壊へ向かっている。
「ダメだ。足りない。ルシア!リングを一つ外してくれ!」
通信機越しに指示を受けたルシアは元気に「了解!」と返し、リングを一つ外した。ルシアも不安が無かったわけではない。ただ、前線で頑張っているコーディが作業に集中できるように心がけた。
「これでどうだ?!」
計三つのリングを外した事で、コーディの能力はさらに力を増すが、それでも封印崩壊には歯止めがかからない。いや、むしろ時間の経過とともにサラマンダーの力が増し封印の力が負けつつあった。それを島全体を包む激しい大地の揺れと空震が物語っている。
「くっ、考えが甘かった!ルシア!全部だ!リングを全部外せ!」
コーディの言葉にルシアは耳を疑った。
「全部ッ?!でも、アンタの身体がもたないかも!」
「何の為の俺達だ!やれー!」
ルシアはためらいながらもギュッと目を瞑りながらリングを続けて三つとも外した。するとどうだろう、地震と空震がピタリと止み、静寂が辺りを包む。そしてルシアは目を瞑っていても眩しいほどの光に気づいて恐る恐る目を開ける。
「あ、あの光は!?」
その小さいが強烈な光は、コーディから放たれており、サラマンダーの背ビレがみるみる氷に覆われていく。
「封印が元に戻っていく……」
封印が再構築されていく様を見て、ルシアは安心しながらも封印が完了するその瞬間にリングを装着すべく構える。コーディの身体にできるだけダメージを残さないためだ。
サラマンダーの背ビレの頂上まで氷が達し、封印完了を見届けたルシアは即座にリングを装着、コーディから放たれているであろう光が瞬きながら小さくなっていき、やがて完全に消えるのを確認したころコーディから通信が入る。
「はぁはぁ、ルシア、聞こえるか?……俺達、やってやったぜ……ッ」
そう言うと息も切れ切れのコーディは勢いよく倒れこんでしまった。
「ち、ちょっとコーディ大丈夫?コーディ!コーディー!」
その様子をナインピークスの上空から観察している二人の姿があった。特殊能力管理局の局員であり、コーディ達のお目付け役だ。
このナインピークス旅行はコーディとルシアが単独で行う初任務として、突発的に事件に遭遇した際の行動力を見るために実施されたものだったのだ。
アメリアの能力は管理局も少し前から把握しており、二人の上司はコーディとルシアがナインピークスに到着した時からずっとコーディとルシアの行動を見ていたのである。
細身の青白い肌に、足元まで黒髪を伸ばしている男の名はアーチ。筋骨隆々で常に目を瞑ったまま腕組みをしている男の名はサクマだ。
「わぁ〜、超越光だぁ。彼ら、けっこうやるねぇ。ちょっと荷が重いかなぁって展開もあったけどぉ、結局僕たちの出る幕はなかったねぇ」
コーディ達だけでサラマンダーを再封印したことに感心しているアーチ。
「つまらぬ。ヤツらがヘマをすれば私が直々に正々堂々サラマンダーとやり合えたというのに」
サクマは暴れる場所が欲しかったかのように拳を突き出しシャドーを始める。
「ともかく、初任務は大成功だねぇ。これからタップリこき使ってやろっとぉ♪」
ニヤニヤしているアーチ。
「ほどほどにしておけよ。まだまだひよっこには変わりない」
「わーかってるってぇ♪」
アーチとサクマはナインピークス島での一部始終を見届け、本土に向けて飛び去っていった。
コーディとルシアの活躍によって、大魔獣サラマンダーは再封印され、死者を一人も出すことなく、再び平穏を取り戻したナインピークス。
ジョイ・パラディソのムードメーカーの能力で騒ぎはあっという間に収束し、サラマンダーの封印崩壊未遂事件は驚異観光地ならではの大規模イベントだったという事になり、この時に島を訪れていた観光客たちは口々にナインピークスを絶賛したという。
そして、このナインピークスを救った立役者、コーディはと言えば……。
「最悪だ。せっかくナインピークスに来たのに全日程寝込んで終わっちまった」
帰りの船に乗る直前、まだまだ軋む身体で長椅子に横になるコーディ。
「超越者の能力をコピーしたんだから当然でしょう。生きてる事に感謝しなさい。さあ英雄さん、帰りの船に乗るわよ」
「ちくしょー!絶対にまた来て堪能してやるー!」
ルシアは思うように動けないコーディに肩を貸しながら乗船する。
「あ、コーディ見て!アメリアさんとマイキー!」
帰路につくコーディとルシアに盛大に手を振るアメリアと泣きじゃくるマイキー。それを見たコーディは元気よく手を振り返し、これから始まる任務の日々に心躍らせるのであった。
最後までお読みいただきありがとうございます。いかがだったでしょうか?
初投稿でしたが楽しみながら執筆できました。
次回作でもよろしくお願いいたします。